黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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126.春の魔法

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火炎陣プラーミア・コマンダ

アデルバート様は慌てた様子もなく落ち着いた声で詠唱すると、氷狼を取り囲む様に巨大な炎の竜巻が出現した。
炎の竜巻は空まで伸び上がり、赤黒い渦を形成して氷狼を絡め取ってゆく。
その熱で、中に閉じ込められた氷狼はおろか、その周囲にあった分厚い雪の層や氷もみるみるうちに溶けて、蒸発してゆく。
………ラーシュは周囲に雪や氷がある限り、あの氷狼は再生すると言っていた。
アデルバート様はその意味を理解した上で、全てを炎の熱で溶かし尽くし、昇華しようとしているのだ。

「ふん、その程度では氷狼は消滅しない」

対するラーシュは余裕の表情だ。
彼には、アデルバート様に勝てる算段があるのだろう。
………私はアデルバート様のために、何も出来ない無力な自分が、歯痒かった。
春の姫の力がある事が分かったところで、これでは王都で聖女をしていた頃と同じ、ただいるだけで役立たずの聖女。
自分の迂闊さでラーシュに捕まり、アデルバート様の足枷になってしまっているのだから、よりたちが悪いのかもしれない。
私にも、何かアデルバート様の助けになる事が出来れば………!
私は、心の中で強くそう願った、その時だった。

一瞬強い花の香りが鼻腔をくすぐったかと思うと、強い南風が村中を駆け抜けた。
それは、アルヴァに蘇生魔法を使った時と同じような、いや、それよりも強くて優しい、温かな風だった。その風は何度も、何度も穏やかに通り過ぎていく。
その風は、草木が芽吹く、春の匂いを纏っていた。

「え………」

私は、瞠目した。
風が通り抜けるたびに、物凄い勢いで雪が溶けていく。あれほど降り積もった雪が、なくなっていくのだ。
驚いたのはそれだけではなかった。
分厚い雲が割れて、温かな陽の光が差し込んでくる。
そう。まるで長い冬が開けて、待ち遠しかった春が訪れたかのような光景だった。

「シャトレーヌ………そなた………」

アデルバート様は春風に長い黒髪を踊らせながら私を見つめている。
………春の姫は、春の女神の加護を受けた者が使える魔法とアデルバート様は仰っていた。
どうして私が春の女神の加護を受けたのかは分からないけれど、春の女神は確かに今、私に力を貸してくださった。そんな気がした。
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