黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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125.ラーシュの魔法

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ラーシュの血を受けた雪像が、ピキピキと音を立て、ゆっくりと動き始める。
ラーシュは更に血を滴らせ、雪像に染み込ませていく。ラーシュの血は、染み込むのと同時にまるで水のように雪の中に消えて見えなくなっていくから不思議だ。
しかし、ラーシュの血を受けるたびに、氷狼の雪像の体毛が逆立ち、徐々に生命力を帯びていくのが分かった。
繭を破って出てくる蝶のように、雪の塊が仮初の生命体として変化していく様は表現し難い不気味さを持っていた。
今の光景を見ていなければ、誰もがこの雪像を本物の氷狼だと信じるだろう。

「グオオーン!」

まるで自分の存在を誇示するかのように、雪から生まれた巨大な氷狼は、曇天に向かって咆哮した。

「そんな………!」
「本物の氷狼までとはいかないが、こいつを倒すのにはそれなりの力がいる。………丁度、アデルバートがお前の元を離れた時のようにな」

それを聞いて、先程のアデルバート様の言葉の意味がようやく理解できた。
あの時に私が見た氷狼の群れは、魔獣ではなく、ラーシュが作り出した雪像、或いは氷像の氷狼だったに違いない。………恐らく、ラーシュがアデルバート様を私から遠ざける為に作り出したのだろう。
そして、私が乗せられたあの氷狼も、おそらくは雪でできた紛い物だったに違いない。
………これが、雪と氷を統べるスノーデン王家の末裔の力………。
私はその圧倒的な力に、愕然とするしかなかった。

「どうだ、アデルバート?こいつは、先程相手をした奴等よりも大きくて頑丈だ。お前の炎でも焼き尽くすのは難しいだろうよ。それに、雪や氷がある限り、こいつは何度でも蘇る。謂わば不死身の氷狼だな」

ラーシュは薄笑いを口元にだけ浮かべると、白く長い指を真っ直ぐにアデルバート様に向けた。

「征け、俺の忠実なる下僕よ。黒焔公爵を、喰らい尽くせ」

ラーシュの指示通り、巨大な氷狼はアデルバート様とドミニクがいる方を目掛けて駆け出していく。
ドミニクは、捕虜としていたスネーストルムの兵を急いで解放し、逃した。敵とはいえ、無闇に犠牲を増やさないようにするためだろう。
馬車程の大きさがありそうな、氷狼は大地を踏みしめる度に、地響きがする。
そんな氷狼を見ても、アデルバート様は身じろぎせず、じっと向かってくる氷狼を見つめている。

「アデルバート様!!」
「黒焔公爵様!!」

私とドミニクが、同時に叫んだ。
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