黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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124.憎しみ

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「シャトレーヌ!」

ラーシュが手にした氷の剣が私の頬を掠めたのを見て、アデルバート様が声を上げる。

「………っ、大丈夫です」

頬を、新たに流れた血が伝っていくのが分かった。
喋ると傷口に痛みが走るけれど、この程度の傷なら大したことはない。
アデルバート様は私がいるせいでラーシュに攻撃が出来ずにいるし、何よりもここは敵陣の真っ只中だ。
少しでも状況を打開しないと………。

「俺が本気を出せば、アデルバートになど負けない。だが、単に勝敗をつけるだけではなく、アデルバートを苦しめてやりたいんだよ」

ラーシュのアイスブルーの双眸に宿るのは、明確な憎悪の感情だった。

「………それは、アデルバート様が貴方の胃父兄だから………?」
「何故、それを?」

声を上げたのは、ラーシュではなく、アデルバート様だった。………やはり、アデルバート様はラーシュとご自身が異父兄弟であることを隠していらっしゃったのね。

「………ラーシュから聞いたのです」

アデルバート様は、その美しい顔に苦しげな表情を浮かべた。

「………俺は、あの男の何もかもが憎い。あれだけの力を持っていながら、それを恐れて力を制御するところも、いつも取り澄ました顔をして、他人に興味を持たない所も、実の親に疎まれて育った俺と違い、全てを持っていながら何も欲しがらない所も、全てが憎いんだよ!」

ラーシュの声が大きくなると同時に、地面に降り積もった雪が、隆起を始める。

「な、何………?」

まるで地震のように、地面の雪がラーシュの元へと集まって行くのだ。
すると、それはみるみるうちに大きな氷狼の雪像へと姿を変えていく。

「………やはり、これはお前の仕業だったのだな」

アデルバート様は、納得したように呟いた。

「お前みたいな化け物は飼っていないが、俺にも氷を操る力はある。ほんの少し、俺の血を分け与えれば、雪や氷に命を吹き込めるからな。戦い疲れて息絶えるまで、そいつと遊んでいればいいさ。その間に、お前の大切なこの女は俺がじっくりとかわいがってやる」

ラーシュの言葉に、私は驚いて目を瞠った。
そして、そんな私の目の前で、ラーシュは自分の指を傷つけ、氷狼に与えた。
真っ白な雪の中に、紅い鮮血が滴り落ちると、吸い込まれていくのを、私は呆然と見つめていた。
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