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134.渇望

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「ラーシュは、幼い頃から優秀で、聡い子供でした。………故に、大人たちがどのような目で自分を見ているかということを、知っていたのです」

ラーシュは、スノーデン王家の末裔であると同時に、宿敵の妻の子。
いくらスネーストルムが実力主義の一族だと言っても、その異質さはさぞかし目立っただろう。
………幼いラーシュは、たった一人でその辛い立場に耐えたのだ。

「………でも、何よりもラーシュか求めていたのは、肉親の愛情でした。慈しんでくれる母親は亡く、厳しくも導いてくれるはずの父親からは疎まれ、ラーシュは決して手に入らない親の愛を求めていたのだと思います」

地鳴りがするほどの強風が吹いて、地面に降り積もった雪が舞い上がった。
それでも、アルヴァは構わず続けた。

「大人達の話から、ラーシュは自分に種違いの兄がいることを知っていました。そして、その兄が………黒焔公爵が、大切にされていることを知った。………おそらく、きっかけはそれだと思いますが………日に日にラーシュの中で、黒焔公爵に対するその感情が、激しい憎悪へと変わっていったのだと思います」

『私をどんなに憎んでも、お前の望むものは手に入らぬということが、分からないか?』そう、アデルバート様はあの時、ラーシュにそう問いかけた。アデルバート様は、ラーシュが親の愛情を渇望し、それが得られない不満を、アデルバート様への憎しみという形で解消しようとしているラーシュの気持ちを、ご存知だったのだわ………。
そう思うと、私は何だかやりきれない気持ちになった。

「ラーシュが十五になった日の夜、イーヴォ様はラーシュの手で葬られました。力づくで主力の座を奪い取ったのです。………イーヴォ様亡き今、イーヴォ様の心の内がどうだったのかは誰にも分かりません。イーヴォ様は、無口で不器用な方でしたから………。ラーシュがあのようになってしまったのには、イーヴォ様には大きな責任があると思いますが………イーヴォ様も、愛する女性をあのような目にあわせてしまったことを、ずっと悔やんでしたのだと思います」

そう言って、アルヴァは静かに目を閉じた。
家族の愛を渇望した弟と、それを受け止めようとする兄。それが、今の二人の戦い方に表れているのかもしれない。
ドミニクも、私も、ただ黙ってアデルバート様とラーシュの戦いを見守った。
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