内気な私に悪役令嬢は務まりません!

玉響

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学園一年生編

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「ジル、よく来てくれたね。急に迎えを行かせて悪かった。前の予定が中止になったから、少しでも君と一緒にいる時間を長く取りたくてね」

アルフレッド殿下がにこりと微笑むと、私をエスコートして椅子に座らせてくださった。
アルフレッド殿下の、手が……私に触れてる……。
その事実だけで、卒倒しそうになる。
ゲーム内のスチルなんかより百万倍素敵なアルフレッド殿下の美麗なお顔が、私の目の前で動いて、喋ってる……。

「ジル、また恥ずかしがってるのかい?」

ジルというのは、アルフレッド殿下だけが呼ぶ私の愛称。ゲームの中では普通に『ジュリエット嬢』と呼んでいたのに、どうしてジルと呼ばれているのか分からない。
それに、ゲームの中ではアルフレッド殿下とジュリエットは、ジュリエットが一方的にアルフレッド様に好意を持っているだけで、親密さはまるでなかったのだけど……。


「僕のジルは、本当に奥ゆかしくて可愛いね」
「……」

駄目。心臓がバクバクして、口から飛び出そう。
私はアルフレッド殿下を直視出来なくてギュッと目を瞑った。

「どうしたんだい?少し顔が赤いかな?もしかして、具合が悪い?」

アルフレッド殿下が心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「ひっ……!」

私はあまりの顔の近さに小さく悲鳴を上げてしまった。

「あぁ、すまない。君が可愛くて、つい近寄りすぎてしまったね」

私の態度に、気を悪くされた風もなく、逆に気遣ってくれる優しいアルフレッド殿下。見た目だけじゃなくて中身までイケメンだなんて完璧すぎる。
私なんかが婚約者で、本当申し訳ないと思う。
その後も、アルフレッド様が一方的に話をし、それに私が頷くというスタンスで時間が過ぎていく。

「ところでジル、今日は何をして過ごしていたんだい?」

突然、アルフレッド殿下が私に尋ねてきた。

「……ええと……読書をしておりました」

精一杯声を絞り出すけれど、それはアルフレッド様の耳にとどくかどうかというくらいの小さな声だった。
……ちゃんと、聞こえたかしら。

「ふふっ。やっと返事をしてくれた。ジルの声が今日も聞けて、僕は幸せだよ」

その言葉に、私は目を丸くした。……まさか、アルフレッド殿下は私の声を聞くためだけに、ずっと話し掛けて下さっていたの?
あのアルフレッド様に、そんな事をさせるなんて……。それを知って、私は自分で自分が嫌になる。
ゲームの強制力とかがあれば、私の性格は少しは違うと思うのに……。
ゲームのオープニングまではあと一年。
私はそもそもこんな性格で、無事に学園生活を送れるのでしょうか。
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