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本編

第三十五話

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「お暇なようであれば、こちらで読書などはいかがでしょう?」

お茶を入れたあと、手持ち無沙汰になった私を見かねたサイラス様が声を掛けて下さる。

「エリーゼ様には、エルカリオン王国の歴史や、貴族名鑑などをお読みになれば今後役に立つかと存じます」

確かに属国とはいえ、エルカリオン王国の詳細な歴史までは学んでいないですし、エルカリオン王国の貴族の方々なんて、殆ど存じ上げませんわ。失礼があっては、ジェイド様に恥をかかせることになってしまいますもの。お仕事を手伝う前に、基礎知識が必要という事ですわね。

「ありがとうございます。では、こちらにおりますので何かあればお声がけ下さいませ」

私は分厚い本を手に取ると、窓辺のソファに腰を下ろして本の表紙をめくる。

美しく整列した文字がびっしりと並ぶエルカリオン王国の歴史書だ。
エルカリオン王国の歴史は長い。全知全能の神ユピテルに導かれ、数十年に渡る戦乱を終焉させた騎士王エルカリオンの興した国。
半分は伝説や、民間伝承の物語のようなものですけれど、エルカリオン王国の軍事力と組織力の強さはやはり、騎士王の興した国ならではだと思う。
歴史書には、周辺諸国が属国になった理由や各地の反乱についても詳細に書かれている。でも、主観が違うせいなのか、私が学んだカレル王国史とは異なるところもあったりして興味深いですわね。
私は夢中になって読み耽った。

「随分熱中していたな」

ジェイド様が少し呆れたように話しかけてくる。

「ええ。大変有意義な時間を過ごさせて頂きましたわ」

歴史書のあとは貴族名鑑も読んだけれど、エルカリオン王国は強大な国の割に、貴族の数が少ない。
公爵家が二家、侯爵家が三家、辺境伯家が二家伯爵家が五家。子爵と男爵が八家ずつ。
これは、カレル王国の半分に近い。
分家することは基本的にはないけれど、爵位を継がない子息達は、騎士団に所属することで貴族に準じた身分が与えられる仕組み。勿論平民からも騎士団の成り手は多いので必然的に軍事力が増して行くという事みたいですわね。
貴族を必要以上に増やさないというのは、なかなか国としては思い切った策だわ。
………そんな分析をしていたら、結局日が暮れるまで読書をしてしまったのだけれど。

「エリーゼはまだまだこの国について学ぶことがあるからな。気にするな」

ジェイド様はそう言って、何冊か本を貸して下さった。
従者として、サイラス様と同じようにジェイド様の助けになれるように、頑張って勉強しろという事ですわね。
私は、帰りの馬車の中で気合を入れ直した。
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