国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

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番外編(ベルナルド視点)

23.伯爵の怒り

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そうして辿り着いたのは、パルヴィス伯爵邸の応接室だった。
濃紺色を基調に纏められた室内は、アンティーク家具が品良く配置され、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
しかし、部屋全体の空気は、妙に重苦しく感じられた。

「…………」

居心地の悪さに耐え忍びながら、長椅子に腰を下ろしたベルナルドは、無言のまま、正面に座るパルヴィス伯爵邸を見やる。

その視線に気がついている筈なのに、パルヴィス伯爵は硬い表情を崩すことなく、やや俯いたまま、目の前のテーブルの一点を見つめていた。
心做しか、顔色も僅かに色味を帯びているように見えた。

(…………パルヴィス伯爵が、怒りを露わにしている…………?)

長い間密偵という仕事を熟してきたベルナルドにとって、目の前にいる人間の心の中を、表情から読み解くことは容易いことだ。
しかし、その能力を駆使して割り出したパルヴィス伯爵の感情は、間違いなく怒りによるものだった。
しかし何故、伯爵が自身に怒りをぶつけようとするのだろうか。
全く心当たりがなく、ベルナルドは途方にくれた。

今回の訪問は、幾ら事前に伝令を送っていたとはいえ、急な訪問だったという事実に変わりはない。
その事で、ベルナルドに対して『礼儀知らず』だと腹を立てているのだろうか。
それとも、挨拶の仕方が気に入らなかったのだろうか。

(…………いや、パルヴィス伯爵の性格上、彼に限ってそれは考えられないな………)

パルヴィス伯爵家は代々、礼儀と伝統を大切にする家系だ。
だからこそマナーには煩いが、逆に礼儀を重んじるからこそ、侯爵である自分に対して、あからさまに怒りを見せる事自体があり得ない事なのだ。

(………それならば、一体何故………?)

ベルナルドは上辺だけの笑顔を、顔に貼り付けながら、必死に考えを巡らせた。
ーーーしかし、答えは一向に出てこなかった。

そんな膠着状態がどれほど続いただろうか。
先に耐えられなくなったベルナルドは、咳払いを一つすると、徐に口を開いた。

「パルヴィス伯爵。本日私が貴方を訪ねた用件ですが…………」

そこまで言うと、ベルナルドは一度口を閉じ、ゆっくりと天を仰。
それから深く息を吸い込み、覚悟を決めたように、パルヴィス伯爵にもう一度視線を、合わせた。
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