29 / 395
本編(アルフォンシーナ視点)
28.申し出
「………さっきの騒ぎの時………助けられなくてごめん。君があんな目に遭っていたのに………」
ブルーノは肩を竦めて心底申し訳なさそうに謝罪を始めたが、アルフォンシーナはもうあの話題には触れたくなかった。
「気に掛けてくれてありがとう、ブルーノ」
「いや………結局僕は何も出来なかったし………」
瞳と同じ色の、強いくせのある巻き毛に覆われた頭をかりかりと搔くと、困ったように笑顔を浮かべるブルーノに、アルフォンシーナはゆっくりと頭を振った。
「いいえ。………その気持ちだけで充分よ」
そっと目を伏せ、ブルーノに笑い掛けると、彼もまた、アルフォンシーナに笑いかけた。
「………それで………もしよければ、僕と一曲、踊ってくれないかな………?」
ブルーノはおずおずと、アルフォンシーナに向けて手を差し出してきた。
しかしアルフォンシーナは困ったようにブルーノの方を見た。
「………ブルーノ。申し訳ないけれど、あなたの申し出は受けられないわ」
「えっ………?」
ブルーノは驚いて顔を上げた。
「ダンスを申し込む相手が既婚者の場合は、相手の伴侶に許可を得るのがマナーなのよ。だから、旦那様に許可を得ないと…………」
「あ…………」
しまった、とでも言うように、ブルーノは顔を顰めた。
若いブルーノが既婚女性と踊る機会は今までなかったせいで、あまり気にしていなかったのかもしれない。
「でも………君の夫は、君があんな目に遭っていたのに、助けにも来なかったじゃないか。きっと今だってどこかの休憩室で他の女性と…………」
「やめて!」
思わず叫んでしまったことに、アルフォンシーナ自身が一番驚いていた。
はっとして、慌てて口元を覆う。
極力考えないようにしていた現実を、ブルーノに指摘されたことで、昼間に見た馬車の女性とベルナルドのやりとりが頭の中で蘇り、思わず声が出てしまったらしい。
淑女としてあるまじき振る舞いをしてしまった事に対しての恥じらいが急に込み上げてきて、アルフォンシーナは青褪めた。
「ご………ごめんなさい………」
「………いや、僕の方も少し、言い過ぎたみたいだ。…………ごめん。君を困らせるつもりはなかったんだ。………今日のところは、これで失礼するよ」
ブルーノも失言をしてしまったという自覚があるらしく、悲しげに俯くと、肩を落としてアルフォンシーナに背を向けた。
「………あらあら。面白いものを見させてもらったわ………」
そんな二人のやりとりを、少し離れて見ていた人物がひっそりとそう呟いたことなど知らないアルフォンシーナは、人混みに消えていくブルーノの後ろ姿を見つめながら立ち尽くしていた。
ブルーノは肩を竦めて心底申し訳なさそうに謝罪を始めたが、アルフォンシーナはもうあの話題には触れたくなかった。
「気に掛けてくれてありがとう、ブルーノ」
「いや………結局僕は何も出来なかったし………」
瞳と同じ色の、強いくせのある巻き毛に覆われた頭をかりかりと搔くと、困ったように笑顔を浮かべるブルーノに、アルフォンシーナはゆっくりと頭を振った。
「いいえ。………その気持ちだけで充分よ」
そっと目を伏せ、ブルーノに笑い掛けると、彼もまた、アルフォンシーナに笑いかけた。
「………それで………もしよければ、僕と一曲、踊ってくれないかな………?」
ブルーノはおずおずと、アルフォンシーナに向けて手を差し出してきた。
しかしアルフォンシーナは困ったようにブルーノの方を見た。
「………ブルーノ。申し訳ないけれど、あなたの申し出は受けられないわ」
「えっ………?」
ブルーノは驚いて顔を上げた。
「ダンスを申し込む相手が既婚者の場合は、相手の伴侶に許可を得るのがマナーなのよ。だから、旦那様に許可を得ないと…………」
「あ…………」
しまった、とでも言うように、ブルーノは顔を顰めた。
若いブルーノが既婚女性と踊る機会は今までなかったせいで、あまり気にしていなかったのかもしれない。
「でも………君の夫は、君があんな目に遭っていたのに、助けにも来なかったじゃないか。きっと今だってどこかの休憩室で他の女性と…………」
「やめて!」
思わず叫んでしまったことに、アルフォンシーナ自身が一番驚いていた。
はっとして、慌てて口元を覆う。
極力考えないようにしていた現実を、ブルーノに指摘されたことで、昼間に見た馬車の女性とベルナルドのやりとりが頭の中で蘇り、思わず声が出てしまったらしい。
淑女としてあるまじき振る舞いをしてしまった事に対しての恥じらいが急に込み上げてきて、アルフォンシーナは青褪めた。
「ご………ごめんなさい………」
「………いや、僕の方も少し、言い過ぎたみたいだ。…………ごめん。君を困らせるつもりはなかったんだ。………今日のところは、これで失礼するよ」
ブルーノも失言をしてしまったという自覚があるらしく、悲しげに俯くと、肩を落としてアルフォンシーナに背を向けた。
「………あらあら。面白いものを見させてもらったわ………」
そんな二人のやりとりを、少し離れて見ていた人物がひっそりとそう呟いたことなど知らないアルフォンシーナは、人混みに消えていくブルーノの後ろ姿を見つめながら立ち尽くしていた。
あなたにおすすめの小説
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
オネエな幼馴染と男嫌いな私
麻竹
恋愛
男嫌いな侯爵家の御令嬢にはオネエの幼馴染がいました。しかし実は侯爵令嬢が男嫌いになったのは、この幼馴染のせいでした。物心つく頃から一緒にいた幼馴染は事ある毎に侯爵令嬢に嫌がらせをしてきます。その悪戯も洒落にならないような悪戯ばかりで毎日命がけ。そのせいで男嫌いになってしまった侯爵令嬢。「あいつのせいで男が苦手になったのに、なんであいつはオカマになってるのよ!!」と大人になって、あっさりオカマになってしまった幼馴染に憤慨する侯爵令嬢。そんな侯爵令嬢に今日も幼馴染はちょっかいをかけに来るのでした。
令嬢から成り下がったメイドの分際で、侯爵様と目が合ってしまって
真好
恋愛
彼はメイドの私に手を差し出した。「私と、踊っていただけませんか?」
かつては公爵令嬢として、誰もが羨む生活を送っていたエルナ。
しかし、国家反逆罪で家は没落し、今は嫌な貴族の下で働く「身分落ち」のメイド。
二度と表舞台に立つことなどないはずだった。
あの日の豪華絢爛な舞踏会で、彼と目が合うまでは。
アルフォンス・ベルンハルト侯爵。
冷徹な「戦場の英雄」として国中の注目を集める、今もっともホットで、もっとも手が届かない男。
退屈そうに会場を見渡していた彼の視線が、影に徹していた私を捉えて。
彼は真っ直ぐに歩み寄り、埃まみれの私に手を差し出した。
「私と、踊っていただけませんか?」
メイドの分際で、英雄のパートナー!?
前代未聞のスキャンダルから始まる逆転劇。
【完結】今さら執着されても困ります
リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」
婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった――
アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。
いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。
蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。
ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。
「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」
ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。
彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。
一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。
・全体的に暗い内容です。
・注意喚起を含む章は※を付けています。
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。