国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

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本編(アルフォンシーナ視点)

30.夫の助け

 そんな筈はない。

 苦痛のせいでぼんやりとしか考えられないアルフォンシーナの頭の中に、真っ先に浮かんだのはそんな否定の気持ちだった。
 だって、彼は今頃気の向くままに女性達との楽しい時間を過ごしている筈なのだから。

「おい。聞こえていないのか?」

 ゆっくりと息を吐き出すと、再び同じ声が頭上で響く。
 いくら数える程しか会話を交わす事がなかったといえど、低くて男らしい声を聞き間違える筈はなかった。

「…………旦那、様…………?」

 アルフォンシーナは声の主に向かって呼びかけてから、やっとの思いで顔を上げると、そこには予想通り、ベルナルドの姿があった。

「おい、一体何があった?」

 今まで見たこともないような焦った表情で、ベルナルドはアルフォンシーナの顔を覗き込んできた。
 しかし「何があった」と訊かれても、アルフォンシーナにも良く分からないまま、急に体調が悪くなったのだから説明しようがなかった。
 あれこれ思案するような余裕もなく、ありのままを伝えるしかなかった。

「…………何も…………」

 浅い呼吸の隙間で、何とか一言そう絞り出すが、ベルナルドに聞こえたかまでは分からなかった。
 そうしている間にもアルフォンシーナの体からはどんどん力が抜けていく。

「何もない筈があるか。………とにかく、すぐに休める場所を用意するから、安心しろ。話はその後だ」

 今にも倒れそうなアルフォンシーナの身体を大きな掌で支えながらアルフォンシーナの身体を気遣うベルナルドの様子は、やはりいつもと全く違っていた。
 いつもであれば、その態度の違いに違和感を抱き、あれこれと考えを巡らす筈だが、そんな事はとても出来る状況ではない。
 とにかくベルナルドの機嫌を損ねる真似はしてはならない、と何とか顔を上げ、挨拶を口にした。

「………ご迷惑を………お掛けして、申し訳………」
「そんな真っ青な顔をしたまま、喋るんじゃない」

 よく耳を澄ませていなければ聞き漏らしてしまうようなかすかな声だった。しかしいつもは冷たく感じる彼からの言葉も、今だけは優しく感じられるから不思議だ。
 先程までは、あんなにベルナルドの事を非難していたのに、おかしなものだ。
 でも今だけは、彼に甘えてもいいような気がして、アルフォンシーナはゆっくりと目を閉じると、べルナルドに身体を預け、意識を手放したのだった。
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