国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

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本編(アルフォンシーナ視点)

93.執務室にて

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ソフィアの先導で、アルフォンシーナはベルナルドの待つ彼の執務室へと向かった。

自室にいるときには気が付かなかったが、屋敷の中は普段と違い、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
急な主の帰還で、混乱が生じたのだろうか。
いつもであれば足を止め、侍女達に事情を尋ねるところだが、今は一刻も早くベルナルドとビアンカの無事を確認するほうが優先だったため、彼らの様子を遠目に見ながら、足早に廊下を進んだ。

「旦那様、ソフィアでございます。奥様をお連れ致しました」

一枚の重厚な扉の前まで来ると、ソフィアが足を止め、戸を叩いて声を掛けた。

「………ああ、入ってくれ。ソフィアは外で待機していろ」

扉越しに返答を確認すると、ソフィアがゆっくりと扉を開け、アルフォンシーナに中に入るようにと合図を送った。
アルフォンシーナは頷き、すっと背筋を伸ばすと、静々と部屋の中へと足を踏み入れた。

廊下よりもひんやりとした空気は、インクと紙、そして微かな鉄錆の匂いを含んでいた。
広い室内には明かりが殆どなく、よく目を凝らさないと何も見えない状態だった。

「………こんな時間に呼び立ててすまなかった」

部屋の中に、声が響いた。
ベルナルドの低い声が、いつもよりも微かに揺らいで聞こえるのは、部屋の中に物が少ないせいだろうか。
部屋の最奥に置かれた大きな執務机に座ったままのベルナルドがじっとこちらを見つめていることに気が付き、アルフォンシーナは畏まった態度で頭を下げた。

「いえ。無事のご帰還、何よりでございます。お出迎えもせず、申し訳ございませんでした」
「いや………そんな事は気にしなくていい」

以前は出迎えなかった事に対しても怒りを露わにしていたのが嘘のように、ベルナルドはさらりと言ってのけた。
声が反響しているせいなのか聞き取りにくく、アルフォンシーナはベルナルドが座っている執務机の方へと近づこうとした。

「………立たせたままだったな。そちらの椅子に座るといい」

アルフォンシーナの行動を先読みするかのように、ベルナルドが指示を出してきた。
指示されたのは、ベルナルドがいる場所の斜め向かいに置かれた、休憩用の長椅子だった。
会話をするには差し支えないが、表情を窺う事は難しい、微妙な距離感に、アルフォンシーナはベルナルドに近寄る事を拒絶されたような気がした。
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