国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

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本編(アルフォンシーナ視点)

95.信頼関係

「………そうか。では、私はあなたの信頼を完全に裏切った事にはならなそうだな」

少しの間を置いて、ベルナルドが小さく嗤った。

ベルナルドの発した「信頼」という言葉に、アルフォンシーナはぴくりと反応した。
アルフォンシーナが思い描くような『夫婦』の関係は、まさに信頼という絆で結ばれた互いに支え、助け合えるようなものだった。
しかし、自分達の間には信頼関係など一切存在していない。
関係を築く以前に、互いに意思疎通を図ることすら難しかったのだからーーー。

(………それなのに、旦那様は何の疑いもなく、わたくしが信頼していると思ってらっしゃるのね………)

ビアンカの事でもうどうしようもなくなった時に助けを求めたのは確かだが、それが彼を信頼しているからかと言われれば、そうではない。
ベルナルドがシルヴェストリ侯爵家の当主だからだ。
ーーーだが、本当にそれだけだろうか。
考えれば考えるほどに、自分の心が分からなくなり、アルフォンシーナは考えることを放棄し、そっと目を伏せる。

「………勿論ですわ」

それでもビアンカの件でベルナルドに迷惑を掛けたのは事実であり、彼がいなければビアンカは見つからなかったかもしれない。
複雑な心境を隠し、アルフォンシーナはベルナルドに向かって曖昧な笑みを浮かべる。
するとベルナルドは微かに顔を上げた。
薄闇の中では彼の表情を窺う事は難しかったが、ぼんやりと浮かび上がった口元は微かに笑みを湛えているように見えた。

まるでアルフォンシーナに頼りにされたことを喜んでいるかのような、その微かな笑みに、アルフォンシーナはどきりと胸が高鳴るのを感じた。

「…………っ」

恥ずかしくなって、アルフォンシーナはぱっと視線を逸らす。
するとベルナルドが微かに息を呑んだ気配がした。

「………報告出来ることは以上だ。疲れているところ、呼び立てたりして済まなかったな」

アルフォンシーナがベルナルドと会話をすることを嫌がっているとでも思ったのだろうか。
不自然な流れで、ベルナルドが会話を切り上げてしまった。

「いえ………。こちらこそ旦那様には多大なご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」

アルフォンシーナはベルナルドの意図を汲み取り立ち上がると、深々とお辞儀をしてからベルナルドに背を向け、執務室を後にした。

「………もう少しだけ、旦那様と一緒に過ごしたいと思ったのだけれど………」

閉めた扉を背にして、静かに呟いたアルフォンシーナが、その扉の向こう側でベルナルドが脇腹を強く押さえ、崩れるように床へと倒れたことなど、知る由もなかった。
感想 98

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