婚約者の断罪

玉響

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12.嫌がらせ

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「………あら、バイロン様のお祝いの席に見合わないみすぼらしい令嬢だと思ったら、ビバーナム伯爵家のミリアリア様ではなくて?」

私が会場となるゼフィランサス侯爵家の庭園に足を踏み入れた瞬間、そんな声が聞こえてきました。
声の主は、マティルダ・イベリス侯爵令嬢でした。

「あら、本当だわ。その古臭いドレス、まさかバイロン様が贈ったものですの?」

畳み掛けるようにそう仰るのは、マティルダ嬢のご友人のエリッサ・リクニス男爵令嬢でした。彼女もバイロン様と密会していたと噂のあるご令嬢です。

「あの、これは………自分で用意したものですわ」

私は、精一杯胸を張ってそう答えました。すると、何人かの令嬢が、私の周りに集まってきたのです。………どなたも、普段から私に対して冷たい態度を取られるご令嬢方です。………バイロン様は、私を追い詰めたくてわざわざ内輪だけのパーティーにこのような方たちを招待されたのでしょうか。

「ご自分で?それは、バイロン様が送られたドレスなど、着る価値がないと言う事ですの?」

これみよがしに大きな声でマティルダ嬢がそう仰います。

「い………いえ、その………手違いで、ドレスが届かなかったのです………」

私は、そう答えるしかありません。
すると、それを聞いたマティルダ嬢達は、一瞬目を丸く見開かれ!そして弾かれたように笑い出されました。

「手違いですって?バイロン様が手違いでドレスを送り損ねるなんてありえませんわ。送るつもりが初めからなかったのでしょうね。ふふっ、お可哀想」
「ご自分が、バイロン様には釣り合わないって、思ったことはございませんの?」

皆様は、口々にそんな言葉を私にぶつけてきます。
私は、黙ってその意地の悪い言葉を受け流すように努めました。
反論すれば、令嬢方からの口撃はエスカレートするだけなのです。
でも、考えれば考えるほどモヤモヤします。
確かに私は冴えない容姿の平凡な令嬢です。でも、なぜバイロン様はこのような、見た目は華やかでお美しいけれど、意地悪なご令嬢方ばかりを好むのでしょう。セシリアのような、美しくて優しいご令嬢なら、きっぱりと諦められるのに、と心のどこかで思ってしまうのです。

「何とか言ったらどうなのよ!!」

エリッサ嬢が、何も反論しない私に対して苛立った表情を見せたと思うと、突然私を突き飛ばしました。

「あ………っ!」

私はその拍子に、バランスを崩して地面に転んでしまったのです。
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