冒険者よ永遠に

星咲洋政

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1章

原初の物語

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 都市ヴァロンに来てからまだ多くの日は経っていない。そう言えばこの街に来てから直ぐに迷宮探索を始めたばっかりにこの街についてあまり知らないな。今日は休息も兼ねて街を巡ってみるとしよう。

 アンナの宿は街の中心部からは少しだけ離れた場所に立地している。アンナ曰くここは土地が安かったそうだ。しかしそのお陰で夜になると静寂が訪れる。人が恋しくなれば地下の酒場に行けば良いというなんとも都合の良い施設であろうか。そしてそこから気晴らしの散歩になるくらいの距離を歩くと街の中心部に着く。

 この街には立ち食い店舗が多い。特に冒険者が集まりやすい冒険者支援機関の建物の周辺に特に密集している。迷宮散策から帰ってきて疲れた冒険者がふらっと立ち寄ることを期待しての立地なんだろう。立ち食い店舗だけでなくその他必需品や食料品を扱う店も見受けられる。その結果必然的にその一帯が、ヴァロンで最も人口密度の高いエリアとなる。

 街の中心には噴水がある。大きな噴水で、その水飛沫は隣の屋根を僅かに濡らしている。噴水の傍らで何やら人が集まっている。どうやら吟遊詩人が物語を吟っているようだ。私は田舎の生まれだ、詩なんてものは聞いたことがない。そんなものだから少し興味が出てきた。何、急ぐ用事は無いんだちょっと寄ってみよう。吟遊詩人は、土埃にまみれた茶色のコートを着ている。フードに隠れて顔はよく見えない。竪琴を静かに鳴らしながら彼の物語は始まった。

「迷宮は如何にして生まれたのでしょうか。ある者は説きます、それは魔剣により創られたものであると。魔族の国、ルースミネア王国に伝わる魔剣は創造の剣。ここに始まりますはこの世界が生まれる原初のお話。」

すべての始まりは太陽でした


その太陽は世界を創り大地を創り


2つの国を創りました


まず1つ目は、
人間の国、スレイミーナ王国


そして2つ目は、
魔族の国、ルースミネア王国


そして太陽はそれぞれに
治める力を与えました


人間の国には、破壊の力を持つ聖杖を
あらゆるモノを
思うがままに破壊できる杖


魔族の国には、創造の力を持つ魔剣を
念じたままに大地を
生み出すことのできる剣


それぞれの持つ力は相反する力


しかし、お互いが手に取った時


それは大いなる力となるであろう


 話を終えると吟遊詩人は何も言わずその場を立ち去っていった。今回の詩は俗に言う『原初の物語』だ。昔、父に聞かされた記憶がある。人間と魔族の成り立ちの物語だ。聖杖と魔剣は本当に存在する。かつて勇者は聖杖を携え、勇者一行の戦士が魔剣を手にして、魔王討伐にあたったと聞く。そして吟遊詩人が語るには、ヴァロン迷宮群は魔剣によって創られたという。本当かどうかは誰にも分からない。このような話を知ったところで迷宮で命を救ってくれるのかと疑問に思う者がいても当然である。だが信じてみるのも人生が楽しくなるスパイスとして良いかもしれない。

 この世界は本当に不思議に満ち溢れている。我々冒険者が挑み続けている迷宮はその最たるものだ。何が起きてもおかしくない、伝説のようなことが起きる可能性は全くもって否定はできない。
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