勇者のおまけも大変だ!【改稿版】

見崎天音

文字の大きさ
49 / 107
第一章 召喚編

第49話 剣術の習得はなんのため?

しおりを挟む
 ディランさんとライナスさんに護衛されて着いた先は魔導師団棟の訓練所だった。

 しかも岩ちゃんと初めて会った時に使った屋外の訓練所だ。

 扉を開けると長身の男性の後ろ姿があった。
 肩までの艶やかな緑色の巻き髪、白いシャツの袖口には柔らかそうなフリルがヒラヒラしていた。

 紺色のスラックスの引き締まった腰にはソードホルダーにサーベルを携帯している。

 格好からしてこの男性が私の剣術の先生らしい。
 なんだか見たことがあるような…
 その男性がゆっくりとこちらを振り返り、口を開いた。

「あら~来たわねぇ。待ってたわよ」

「あー、やっぱりマークスさんだ!」

 ダンスレッスンのパートナーといい今回の剣術の先生といい、何かと縁のあるマークスさん。

「ま、まさか、国王様は私とマークスさんをくっつけようとしているんじゃあ」

「は? 何言ってるのよ。そんなわけないでしょ」

「そ、そうですよね。いくら何でもマークスさんとだなんてね」

「あ、なんだかとっても失礼な事を言われているような気がするわ」

「いえ、いえ、気にしないで下さい。独り言なんで」

「それのどこが独り言なのよ。丸聞こえよ」

「あははは」とりあえず、笑ってごまかす。

 そういえば、皆の納得する先生を用意すると言っていたけど…
 マークスさんのどこに皆が納得する要素があったのだろうか?

 もしかして見た目に反して向かうところ敵なしの凄腕剣士なのか? 
 それとも初心者をあっという間に一流剣士に育てるスキルを持っているとか?

 そんな事を考えているとディランさんがそっと小声で言った。
「アヤカ様、今考えていることは見当違いだと思いますよ。ですが、マークス様が剣術の講師に選ばれたのにはちゃんと理由があるんです」

 なっ! ディランさんってば、心が読めるのか?

「あ、言っときますけど、心は読めませんよ。でもアヤカ様の考えてることはだいたいわかります。顔に出てますから」と、ディランさん。

 か、顔に? 心じゃなくて表情を読まれていたのか。
 うーむ、恐るべしディランさん。それにしても、ちゃんとした理由とはなんぞや?

「もう、こそこそ何話しているのよ。じゃあ、剣術の訓練を始めるわよ。それにしてもアヤカ様も物好きね。剣術を習いたいなんて。愛の力は偉大ね」と、マークスさんがため息をつきながら言った。

 愛の力? 何のこっちゃ?
 剣術の習得と愛の力の因果関係とは?
 哲学的すぎてわからん。

 あいかわらずマークスさんの言動は読めないな。

「はい、よろしくお願いします。それと私のことはアヤカとお呼び下さい。様はいりません」

 だってマークスさんは剣術の師匠だものね。

「あら、そう? じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうわね。本当はアヤカ用に特注した練習用の剣が今日の朝一番で届くはずだったんだけど、ちょっと遅れるらしいわ。それまで基礎体力がどれくらいあるのか見させてもらうわね」

 マークスさんのその一言で始まった体力テスト。

 結果は惨敗。

「ちょっと、お話にならないほど体力がないわね。そんなんじゃ騎士団に入団は出来ないわよ。とりあえず、ベンチに座ってなさい」

 騎士団に入団? もしかして私が騎士団に入団したいがため剣術を習いたいと思っているとか?

 まさかね。マークスさんも面白い冗談を言うよね。

 そして私は、ライフポイントゼロのためベンチで休憩中。

 体力テストの内容は良く小学校、中学校でやったことのある反復横飛びだった。
 確かあれって20秒に何回できるかを測定するものだけど、ここでは体力が尽きるまでやるようだ。

 私の比較対象として、ディランさんとライナスさんも参戦したが案の定と言うべきか私は5分も保たずダウン。

 ディランさんとライナスさんはまだやっている。もうかれこれ30分は経ったのではないだろうか。

 最初の頃からスピードが落ちていない。
 すごい体力だ。体力だけじゃなくて敏捷性まである。

 もはや比較対象のレベルが高すぎて比較にならないではないか。

 ベンチでグッタリしながら、楽しそうに反復横飛びをしているディランさんとライナスさんを眺めていると、誰かが部屋に入って来た。

 オル様と岩ちゃんだ。

 ベンチでグッタリしている私を見るとオル様が慌てて駆け寄ってきた。
「アヤカ! どうした?! どこを怪我したんだ?!」

「い、いえ、怪我はしてません。自分の体力の無さに落ち込んでいるところです」

「そうか、怪我がなくて良かった。アヤカはそんなにしてまで剣術が習いたいのかい?」

 私の横に座りながらそう言うオル様。
 ああ、宝石のような深い青色の瞳に吸い込まれそうだ。
 オル様の優しい言葉に思わず頬を緩める。

「はい。強くなりたいので」

 せめて勇者のマー君や魔導師団長のオル様の足を引っ張らない程度には自分で戦えるようにならなければ。

 そして、マリア様とエバ様との約束通りに悪しき者達との戦いが終わったらオル様に自分の気持ちを打ち明けよう。

 今は討伐のメンバーとして認めてもらえるように自分を鍛えることに集中しなきゃ。

「そうか。でも無理をしないように。あ、これが届いたから持ってきたよ」
 と言ってオル様は岩ちゃんが持っていた一本の剣を指差した。

「あら、やっときたのね。アヤカの練習用の剣」
 マークスさんが声をかけながらこちらに来た。

 いつの間にかディランさんとライナスさんの反復横飛びも終わっていた。

 私の練習用の剣は、刃はつぶしてあって切れないそうだ。
 そして重さは通常の剣の1.5倍。

 持つとずっしり重い。これをやすやすと素振り出来なければ本物の剣は握れないという。

 そんな話をしていると、今度はルーカスさんが部屋に入って来た。
「あーいたいた。オリゲール、お前の魔術の師匠から手紙が届いたぞ。飛蜥蜴が返事くれって騒いでるぞ」
 と言って手紙らしきものをオル様に渡した。

 その手紙を読んだオル様がとっても嬉しそうな笑顔で言った。
「師匠が1ヶ月半後にこの国に来るらしい。ルイレーン国から獣人族のジャイナス国で用事を済ませてからわが国に入国するようだ。アヤカ、僕の魔術の師匠は命の恩人なんだ。アヤカにも早く紹介したいよ」

 オル様はそう言うと魔術の師匠に返事を書くのと国王に転移のポートキー使用の許可をもらいにそうそうに訓練所を後にした。

 魔術の師匠かぁ。オル様、とっても嬉しそうな顔してたな。
 オル様にあんな笑顔をさせる師匠になんだか妬けてしまう。
 ちょっと複雑な気持ちでオル様の後ろ姿を見送る私にルーカスさんが口を開いた。

「オリゲールは幼少期に辛い目に合ってね、それを魔術の師匠に救われたんだ。だから師匠との絆は誰よりも堅いんだよ」

 何でも、オル様には心眼という能力があったため周りの人の心や魔力の質によって身体に不調をきたしていたらしい。

 いろんな医師が診察したが当時は原因はつかめず、王族として失格の烙印を押されたようだ。

 それでもご両親は彼を救いたいと手を尽くし、医師ではなく魔術の師匠にたどり着いたという。

「オリゲールが7歳の時に確か22歳だったから今は36歳だな。結婚したって話は聞かないからまだ独身かな。オリゲールが魔導師団に入団したのを期に師匠は旅に出たから5年ぶりの再会ってところだな」

 そうなんだ。オル様はその師匠に出会えて本当に良かった。
 しみじみした気分に浸かっていたのもつかの間、マークスさんが声を張り上げた。

「さあ、アヤカの練習用の剣も届いたことだし、練習再開よ」

 そして地獄の特訓が始まった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴
恋愛
 魔王が討伐されて20年人々が平和に暮らしているなか、徐々に魔物の活性化が再び始まっていた。  聖女ですか?わたしが世界を浄化するのですか?魔王復活?  は?ツガイ?5人とは何ですか?足手まといは必要ありません。  主人公のシェリーは弟が騎士養成学園に入ってから、状況は一変してしまった。番たちには分からないようにしていたというのに、次々とツガイたちが集まってきてしまった。他種族のツガイ。  聖女としての仕事をこなしていく中で見え隠れする魔王の影、予兆となる次元の悪魔の出現、世界の裏で動いている帝国の闇。  大陸を駆け巡りながら、世界の混沌に立ち向かう聖女とその番たちの物語。 *1話 1000~2000文字ぐらいです。 *軽い読みものとして楽しんでいただけたら思います。  が…誤字脱字が程々にあります。見つけ次第訂正しております…。 *話の進み具合が亀並みです。16章でやっと5人が揃う感じです。 *小説家になろう様にも投稿させていただいています。

処理中です...