けものとこいにおちまして

ゆきたな

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けものとさいかいしまして

28わ。

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「それで?あなたたちはどうするの?私はさっさと『条件』を却下して街に帰らせてもらうつもりだけど」

まるで、こちらの返答が何かが分かっているかのように、マイラはカナタたちに尋ねた。

「マイラと同じだよ。僕たちも『条件』を取り下げてもらって、街へ帰るんだ」

そうだよね、とカナタがガルフの方を見るとガルフは苦しそうにしていた。

「あ、カナタ…兄ちゃん、もう人間の姿でいるのが…」

どうやらつらくなってきたようで、ガルフは狼の姿へと変わってしまった。

「ガルフ…」

カナタは心苦しさに胸が掴まれた。
もしまた3人での生活に戻るのであれば、ガルフの毒を見つける方法は難航することになるだろう。
人狼たちに手伝ってもらえる『条件』の方が、遙かに効率よく探すことができるはずだ。
いや、たとえそうだとしても僕はガルフと生きていくんだ。
もう迷わない…だから…。

「行こうガルフ。大丈夫だよね?」

「はっ、聞くまでもねえよ。さっさとナシつけて街に帰ろうぜ、カナタ、ルウ。それにマイラもよ」

そう言って笑うガルフの言葉に3人は力強く頷いた。

……

4人で訪れたアドルフの屋敷の入り口にはルアンが立っていた。

「ようやく来たのかよ、遅え。ほら、さっさと長に言って来いよ、ガルフとマイラが結婚するってよ」

「そんなこと言わない。ルアン、わかって言っているんでしょ?どいてくれないかな」

強い意志を宿したカナタの瞳を見て、ルアンはハッと笑った。

「随分とお強くなっちまって、なあガルフ、こんな生意気でおしとやかさのない人間の側に本気で居たいと思ってんのか?」

ルアンは肩を上げて、茶化すようにガルフに尋ねた。

「悪いな、ルアン。お前の好みはおしとやかで生意気じゃない人狼なんだろうけど、俺は真逆だからな」

皮肉を利かせて、ガルフは笑い返した。

「あら、それじゃあ私も違うわね。私、おしとやかさはないけれど生意気じゃないもの」

皮肉にマイラも乗ってきた。
その応酬を見ていたカナタは、人狼の口喧嘩って容赦ないなと思っていた。
ルウに至っては何を話しているのかさえ理解できていない様子だった。

「ったく、悪い意味でガルフとマイラはお似合いだよ。ほら、長はこの前と同じテーブル席でお待ちだ。さっさと行って来いよ」

どうやら初めからルアンは4人のことを妨害するつもりはなかったらしい。

「ほら、行くぜ」

先頭をきったのは狼姿のガルフで、後ろから3人がついて行くのは少し珍妙な光景ではあったけれど、気持ちは既に臨戦態勢だ。

「よく来たな、待っておったぞ」

ひとりテーブル席に着いているアドルフは、笑みを一切見せず、4人に顔を向けることないまま、まっすぐ前を見て告げた。
この街に来てまだ3日しか経っていないのに、もう何ヶ月も、何年もここに居たような長さを感じる錯覚にカナタは陥っていた。
3人は黙ったまま、アドルフの向かいの席に腰を掛け、ガルフは椅子へと飛び乗った。

「本来であれば、カナタとマイラだけがいるはずなのだが、軟禁されていたはずのガルフとルウもやってくるとわの」

喜怒哀楽のどの感情とも読み取ることのできないアドルフの声音に、ガルフは怯むことなく返した。

「長はどうせなにもかも知っていたんだろ?ルアンを自分の横に置いて、俺を捕らえさせた。でも情に弱えアイツのことだから、俺たち4人の反応を見てどうしようもなくなって俺とルウを解放した、そこまで分かってたんじゃねえの?」

ガルフが確信をもってそんなことを言うので、カナタは驚いてガルフを見ていた。
もしそうだとしたら、アドルフの考えていることはよくわからないし、なによりそこまで見抜いていたガルフに感心した。
ここで初めてアドルフは、ほっほっ、と笑った。

「さすがは、次期リーダーに相応しい洞察力じゃのう。たしかに、ルアンは情に深いと知った上でわしの補佐をさせておった。まあ見事にその情に流されたがのう」

「だったら、なぜそんなことをしたんですか?」

今度はカナタが思わずアドルフを問い質した。

「奴が人狼としての使命を全うした上で、ガルフの説得に成功できれば…ガルフとルアンの2人に一族を任せようと思ったのじゃ。そして、そんなガルフに相応しい伴侶は、相手を尊重しつつも自分の芯を強く持っている者が適任じゃと思ったんじゃよ」

「それが、私だったってことね」

今度はマイラが呟いた。

「ほおん、ってことは俺とルアンとマイラの3人で舵を切らせてくれるってワケだ?」

ガルフがアドルフに確認するように問いかけた。

「(え、ガルフ…もしかして『条件』を呑もうとしているの?」

一抹の不安がカナタの胸を過った。

「そうじゃ。先頭に立つのはガルフで、補佐にルアン、そして伴侶にはマイラ。これ以上の適任はおるまいて」

心底納得しているようにアドルフは頷いた。

「本気で言ってんのか?長、俺たちはあくまでも幼少期を一緒に過ごした幼馴染だぜ?まあ、俺が今更リーダーになる気なんて無えってことを前提にしてだ、ルアンが補佐役なんて、プライドの高いアイツが納得するはず無え。それにマイラのことも言うまでも無えだろ?」

そうだ、マイラはガルフをそんな目で見るわけがない。

「当然でしょう。私はもう人間生活が長くなりすぎた。この快適さを知ってから人狼リーダーの伴侶なんて縛りの多い役目はごめんだわ」

仮にでも人狼の長たるアドルフに対してあまりにも無礼でつっけんどんな言い方をするガルフとマイラに、カナタはある種のかっこよさのようなものを感じていた。

もしかすると、アドルフは2人の…

「こういうところが…リーダーの資質なんですか?」

小さな声で、カナタがアドルフに問いを投げつけた。
アドルフは驚いたように目を丸めた。

「こういう、誰にも媚びずに…失礼なくらいの態度で自分の意見を押し通そうとするガルフとマイラだからリーダーに選ぼうとしているんですか?」

カナタの問いを受け止め、少し沈黙したアドルフは再び笑みを浮かべた。

「そうじゃよ。人狼社会の上に立つ者は、何者よりも自分の考えが優れていて他を寄せ付けないほどの意志を持った者でないと務まらん」

アドルフの話だと、たとえば対立を見せる人狼たちがいるとして、そのどちらにもいい顔をしようとするよりも強引な手法であっても無理くり引っ張っていく者の方がリーダーに相応しいのだと言う。

「(人狼社会には忖度というものが存在しないのか)」

そんなことを思っていたカナタの隣りで、マイラは次の問いを投げかけた。

「そう仰るってことは、私が街へ絶対帰るって言い張ったり、ガルフが絶対にカナタとルウの3人で生きていくと言い張れば言い張るほど、引き留めようとするということですか?」

その問いを受けてアドルフはさらに上機嫌になった。

「さすがは、未来のリーダーの伴侶じゃの。その通りじゃよ。そなたらがここを出て行こうと我を通すほど、わしは離さぬつもりでおる」

「な、っ、んだよそれ!」

ガルフが強く吠えた。
結局、『条件』をすんなり受け入れても、抗おうとしても元より話し合う気などアドルフにはないということか。

「だからルアンにやらせたんだな?情に流されやすいアイツに俺とルウを解放させて、『条件』に抗わせるためによぉ!」

ガルフは牢の中でカナタを諦めようとしていた。
けれど、ルアンがガルフを解放してカナタに会わせたことで、ガルフは忘れていた気持ちを取り戻すことができた。
そこまでが、アドルフの計算の内だった。
こうして4人でまとまって、『条件』を否定するという意志の強さ。
それがむしろ、リーダーという立場に縛り付ける裏目へと出てしまうということになってしまったのだった。

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