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けものとさいかいしまして
27わ。
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ぼんやりしたカナタの意識は、2日経ってようやく鮮明なものへと変わってきた。
ガルフとルウはずっとカナタにつきっきりで看病をしていた。
「どうして、ここに来ることができたの?」
風邪が治ってきた折に、カナタは2人に尋ねた。
「ルアンの野郎が、解放してくれたんだよ」
「え、ルアンが!?」
ガルフの言葉にカナタは驚きを隠せなかった。
なぜわざわざそんなことをしたのだろうか?
自分が風邪を引いていなかったら、3人で逃げ出していたかもしれないに。
また捕まえられるとふんでいたのか、それとも『条件』が取り下げられたのか?
カナタの予想とは違う答えが、今度はルウの口から告げられた。
「あのね、長のアドルフ様には内緒で、ルアンが牢から出してくれて…カナタに今すぐ会いに行って来いって言ったんだ」
「それは、僕が風邪を引いたから?」
「ううん。カナタが風邪を引いているって分かったのはぼくたちがここに来てからだよ」
だったら、ルアンはなぜ2人を解放したのか?
「ぼくと兄ちゃんが…カナタに会って、カナタがどんな気持ちなのかを確かめて来いって」
「は!?どういうことだよそれ!?」
もしかして僕はルアンに試されているのか?とカナタは勘ぐった。
もういいと、ガルフに出会わなければよかったと、ルアンの前で言ったから、僕が直接ガルフを突き放すよう仕向けてきたのか。
…ガルフは、僕が言った言葉をルアンから聞いたのかな。
そんな思いでカナタは気まずそうにガルフをじっと見ていた。
ガルフはふい、とカナタから視線を逸らした。
ガルフの表情も気まずさに彩られていて、やはりルアンがガルフに伝えたんだとカナタは確信した。
「あの、ガルフ…ごめん、僕は…」
ルアンに言った言葉のことをカナタは謝ろうとした。
けれど、ガルフはカナタの思った以上に慌てた様子を見せて、カナタの謝罪を遮った。
「いや、いいんだ、分かってる…俺は、最低な奴だよな。謝るのは、俺の方だ」
そう言って申し訳なさそうにするガルフのことをカナタはよく理解が出来なかった。
ガルフは自分が、たとえカナタが使用人としてでも一緒に居てくれればそれでいいんだと思ったことをカナタを目の前にしたときに、急激に後悔し始めたのだ。
「なんでガルフが謝るのさ…」
「あ?それ言うんなら、なんでカナタは謝ってるんだよ?」
互いに違和感を覚え始める。
どうやら、ルアンは互いに口にしたことを相手に伝えていなかったようだと気づき始めた。
そんな中でそれぞれが罪悪に対する後悔と申し訳なさを含んだ表情で俯いている合間にルウがひょこっと入ってきた。
「2人ともヘンなの~!」
「なんでだよ」
落ち込みながら返事をしたカナタとガルフの声がハモってしまった。
「だってさ、兄ちゃんはカナタと一緒がよくって、カナタも兄ちゃんと一緒にいたいんでしょ?今は一緒にいるのに、そんな顔してるんだもん。ヘンなの!」
「あ…」
あまりにも単純明快な答えを口にしたルウに、カナタとガルフは何かに目覚めたようにハッとした。
「(そうだよ、僕はガルフとずっと一緒に居たいと思っていたはずだ。ガルフのことを好きになって、もう元の世界に戻れなくてもいいとすら思っていたのに。なんで諦めてるんだよ)」
「(俺はずっとルウと一緒に生きてきた。群れから抜けて2人だけで。そんな中で出会ったカナタを、俺は絶対に自分のものにするって決めたはずなのによ…)」
互いの相手への想いは、人狼の『条件』なんかで消えるものだったのか?
違う、そんな程度で消えるものでも、薄れてしまうものでもない。
「 僕は 君が好きだ。ずっと一緒にいたい」
思い出すことのできた決意が息を吹き返して、ガルフはカナタに駆け寄った。
カナタは布団を蹴散らして、ベッドから起き上がった。
離れていた2人は再び繋がって、強く抱きしめ合った。
「やっぱり離れたくない!僕はこれからもずっと、ガルフとルウの3人で生きていきたいよ」
「俺もだカナタっ!『条件』なんかで縛られたもんなんかじゃねえ、俺たちの意思で、一緒にいてえ」
ずっと埋めていて、見ないようにしていた想いを素直に打ち明け合った。
自分を偽って、諦めようとしていた。
けれど、こうして再会して改めて知ってしまったぬくもりや笑顔、優しさ…それらを手放すことなんかできるはずがなかった。
そして何よりも、カナタとガルフの互いに想い合って愛する気持ちを。
それをもう一度思い出して、噛み締めるように抱きしめ合う2人は、二度とこの気持ちを揺るがせたりなんかしないと心に誓った。
「好きだよ…ずっと好きだ、ガルフ…」
「俺もだ。愛してる。お前はこれからもずっと俺のもんだ、カナタ」
涙を瞳に浮かべる2人は時間の許す限り抱きしめ合っていた。
……
「ちゃんと、アドルフ様に伝えよう」
ゆっくりと身体を離して、カナタはガルフをまっすぐ見つめて告げた。
「ああ。もうどんな『条件』も呑まねえ。何としてでも、俺はカナタと生きていく」
決意を露わにした2人を、ルウは嬉しそうに、そして満足そうに見ていた。
「やっぱり兄ちゃんとカナタはそうでなくっちゃね!」
えへへ、と笑うルウを見ると、先ほどまで抱きしめ合っていたカナタとガルフは今頃になって顔を赤らめた。
「話はまとまったようね」
マイラが扉をノックして開けた。
「マっ、マイラ!見てたの?」
戸惑うカナタを見て、マイラは少しだけ笑い首を横に振った。
「まさか、私がそんな無粋なマネをするわけないでしょう」
そんなマイラを見ていたガルフは真剣な表情で質問を振った。
「マイラ、ルアンは一緒じゃねえのか」
「ええ。彼なら、自分が手伝うのはここまでだ、とか言って帰って行ったわ」
「そうか、わかった。サンキューな」
もうルアンは人狼側の立場に戻ったのだろう。
そんなルアンにカナタとガルフは感謝はしているが、また挑まなければ相手なのだと再確認した。
拳を握るガルフの瞳には、失われかけていた強い青い炎のようなものが宿っていた。
ガルフとルウはずっとカナタにつきっきりで看病をしていた。
「どうして、ここに来ることができたの?」
風邪が治ってきた折に、カナタは2人に尋ねた。
「ルアンの野郎が、解放してくれたんだよ」
「え、ルアンが!?」
ガルフの言葉にカナタは驚きを隠せなかった。
なぜわざわざそんなことをしたのだろうか?
自分が風邪を引いていなかったら、3人で逃げ出していたかもしれないに。
また捕まえられるとふんでいたのか、それとも『条件』が取り下げられたのか?
カナタの予想とは違う答えが、今度はルウの口から告げられた。
「あのね、長のアドルフ様には内緒で、ルアンが牢から出してくれて…カナタに今すぐ会いに行って来いって言ったんだ」
「それは、僕が風邪を引いたから?」
「ううん。カナタが風邪を引いているって分かったのはぼくたちがここに来てからだよ」
だったら、ルアンはなぜ2人を解放したのか?
「ぼくと兄ちゃんが…カナタに会って、カナタがどんな気持ちなのかを確かめて来いって」
「は!?どういうことだよそれ!?」
もしかして僕はルアンに試されているのか?とカナタは勘ぐった。
もういいと、ガルフに出会わなければよかったと、ルアンの前で言ったから、僕が直接ガルフを突き放すよう仕向けてきたのか。
…ガルフは、僕が言った言葉をルアンから聞いたのかな。
そんな思いでカナタは気まずそうにガルフをじっと見ていた。
ガルフはふい、とカナタから視線を逸らした。
ガルフの表情も気まずさに彩られていて、やはりルアンがガルフに伝えたんだとカナタは確信した。
「あの、ガルフ…ごめん、僕は…」
ルアンに言った言葉のことをカナタは謝ろうとした。
けれど、ガルフはカナタの思った以上に慌てた様子を見せて、カナタの謝罪を遮った。
「いや、いいんだ、分かってる…俺は、最低な奴だよな。謝るのは、俺の方だ」
そう言って申し訳なさそうにするガルフのことをカナタはよく理解が出来なかった。
ガルフは自分が、たとえカナタが使用人としてでも一緒に居てくれればそれでいいんだと思ったことをカナタを目の前にしたときに、急激に後悔し始めたのだ。
「なんでガルフが謝るのさ…」
「あ?それ言うんなら、なんでカナタは謝ってるんだよ?」
互いに違和感を覚え始める。
どうやら、ルアンは互いに口にしたことを相手に伝えていなかったようだと気づき始めた。
そんな中でそれぞれが罪悪に対する後悔と申し訳なさを含んだ表情で俯いている合間にルウがひょこっと入ってきた。
「2人ともヘンなの~!」
「なんでだよ」
落ち込みながら返事をしたカナタとガルフの声がハモってしまった。
「だってさ、兄ちゃんはカナタと一緒がよくって、カナタも兄ちゃんと一緒にいたいんでしょ?今は一緒にいるのに、そんな顔してるんだもん。ヘンなの!」
「あ…」
あまりにも単純明快な答えを口にしたルウに、カナタとガルフは何かに目覚めたようにハッとした。
「(そうだよ、僕はガルフとずっと一緒に居たいと思っていたはずだ。ガルフのことを好きになって、もう元の世界に戻れなくてもいいとすら思っていたのに。なんで諦めてるんだよ)」
「(俺はずっとルウと一緒に生きてきた。群れから抜けて2人だけで。そんな中で出会ったカナタを、俺は絶対に自分のものにするって決めたはずなのによ…)」
互いの相手への想いは、人狼の『条件』なんかで消えるものだったのか?
違う、そんな程度で消えるものでも、薄れてしまうものでもない。
「 僕は 君が好きだ。ずっと一緒にいたい」
思い出すことのできた決意が息を吹き返して、ガルフはカナタに駆け寄った。
カナタは布団を蹴散らして、ベッドから起き上がった。
離れていた2人は再び繋がって、強く抱きしめ合った。
「やっぱり離れたくない!僕はこれからもずっと、ガルフとルウの3人で生きていきたいよ」
「俺もだカナタっ!『条件』なんかで縛られたもんなんかじゃねえ、俺たちの意思で、一緒にいてえ」
ずっと埋めていて、見ないようにしていた想いを素直に打ち明け合った。
自分を偽って、諦めようとしていた。
けれど、こうして再会して改めて知ってしまったぬくもりや笑顔、優しさ…それらを手放すことなんかできるはずがなかった。
そして何よりも、カナタとガルフの互いに想い合って愛する気持ちを。
それをもう一度思い出して、噛み締めるように抱きしめ合う2人は、二度とこの気持ちを揺るがせたりなんかしないと心に誓った。
「好きだよ…ずっと好きだ、ガルフ…」
「俺もだ。愛してる。お前はこれからもずっと俺のもんだ、カナタ」
涙を瞳に浮かべる2人は時間の許す限り抱きしめ合っていた。
……
「ちゃんと、アドルフ様に伝えよう」
ゆっくりと身体を離して、カナタはガルフをまっすぐ見つめて告げた。
「ああ。もうどんな『条件』も呑まねえ。何としてでも、俺はカナタと生きていく」
決意を露わにした2人を、ルウは嬉しそうに、そして満足そうに見ていた。
「やっぱり兄ちゃんとカナタはそうでなくっちゃね!」
えへへ、と笑うルウを見ると、先ほどまで抱きしめ合っていたカナタとガルフは今頃になって顔を赤らめた。
「話はまとまったようね」
マイラが扉をノックして開けた。
「マっ、マイラ!見てたの?」
戸惑うカナタを見て、マイラは少しだけ笑い首を横に振った。
「まさか、私がそんな無粋なマネをするわけないでしょう」
そんなマイラを見ていたガルフは真剣な表情で質問を振った。
「マイラ、ルアンは一緒じゃねえのか」
「ええ。彼なら、自分が手伝うのはここまでだ、とか言って帰って行ったわ」
「そうか、わかった。サンキューな」
もうルアンは人狼側の立場に戻ったのだろう。
そんなルアンにカナタとガルフは感謝はしているが、また挑まなければ相手なのだと再確認した。
拳を握るガルフの瞳には、失われかけていた強い青い炎のようなものが宿っていた。
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