【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

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第一幕 五 「私がここにいるという意味を分かっておいでですか?」

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     五

「お待たせいたしました。」
 奥の扉から、現れたのは二人の男。
 一人は先程の機械のような男だ。もう一人は新顔だった。
「ふんっ。」
 室内に集まった人間全てを見下すような視線で見つめ、取るに足らないとでも言いたげに鼻を鳴らす、威圧的な風格と権威主義に凝り固まったような年配の男。身に着けているダブルのスーツは高級ブランドのものだ。ごま塩の混じった頭をキレイに撫でつけ、整えられた髭が口の上にはたくわえられている。
「皆様方の依頼主である当屋敷の主人の吉岡孝造です。」
 孝造と呼ばれた主人が、どっしりと椅子に腰を下ろす。
 機械のような男は、座った主人に葉巻を差し出して火をつけた。
 孝造が葉巻を燻らし始めると、機械のような男は集められた探偵たちに向き直った。
「私は第一秘書の水島玲司です。今から皆様方に、今回の依頼の説明をします。」
 単刀直入。あまりにも簡潔で明快に、機械のような男は話を進めていく。相手の反応など意に介せず、自分の仕事をこなすためだけに存在しているようだ。
 今まで輪になっていた探偵たちも、それぞれに独自のスタイルで秘書・水島の話を聞き始めた。談笑時の雰囲気とは違い、探偵には不可欠な鋭い知性のきらめきが瞳の中には見え隠れしていた。
「皆様方には、一ヶ月前に当屋敷で起きた殺人事件の捜査と解決をしていただきたいのです。報酬は前金で半分、残りは成功報酬とさせていただきますので。」
「成功報酬ですか?」
 水島の淀みない機械口調に、初めて琉衣が言葉を挟んだ。
 水島の顔は変わらなかったが、背後に控えていた孝造の眉が片方軽く持ち上がった。
「不満かね?」
 佇まいと同様に上から押さえつけるような口調。慣れない者ならば、この一言だけで竦み上がってしまいそうだ。
「いえ、あの、そういうわけじゃ。」
 孝造の視線の圧力に対抗できずに、俯いた琉衣の声は小さくなって消えてしまった。
 孝造は葉巻を灰皿に置くと、鼻を鳴らす。
「気に入らないのなら、帰ってもらって構わん。探偵は他にもたくさんおる。」
 決め台詞のように、捨て台詞のように吐き捨てる孝造。それ以上は口を閉じ、葉巻を再度燻らせ始めた。
 孝造が引っ込んだところで、水島が自分の仕事を再開する。
 琉衣も、話を聞くために俯いていた顔を上げていた。
「事件については、後ほど資料をお持ちします。詳しい話は、その時に致します。」
 そこで一旦話を止めると、水島はフレームなしの眼鏡の薄いレンズ越しに集まった探偵全てに視線を送った。
「以上、ここまでで何か質問がございますか?」
 確認の視線。確認の質問。
 水島と視線が合うたびに、了承の視線を返す探偵たち。
 だが、最後に水島の視線がヒョウへと送られた時、そこに了承の視線はなかった。
 微笑を口元に浮かべたまま、軽く手を上げているヒョウ。
「質問を一つ、よろしいですか?」
 ヒョウの態度に、初めて水島の瞳の色が動きを見せた。
「どうぞ。」
「では、お聞きします。今回の依頼内容は理解できましたが、貴方がたが我々を指名した理由を知りたいのです。孝造氏の言葉を借りれば、探偵は他にもたくさんいます。ですが、ここに集ったのは四人。私は孝造氏と懇意にさせていただいているわけではありませんし、何か理由がおありなのでしょう?」
 ヒョウの微笑に変化はなく、質問は孝造ではなく水島に向けられていた。
 水島は薄いレンズの中のダークブラウンの瞳に、ヒョウの微笑を映した。
「こちらの独自の情報網により、実力のある方に来ていただいたと思っていただければ幸いです。」
「儂が選んだことが気に入らんというのか?」
 ヒョウと水島の会話の外から、主人の孝造が口を挟んだ。口調には不機嫌さが表現され、ただでさえ威圧的な視線に怒りが乗せられている。
 水島に向けていたヒョウのサファイアの視線が孝造へと向けられた。
「いえ、そういうことではなく。聞きたいのは一点だけです。」
 ヒョウの笑みが深くなる。
「私がここにいるという意味を分かっておいでですか?」
「どういう意味だ?」
 地底から響くような孝造の声音。
 孝造の威厳と怒りに拮抗しているのは、優雅に微笑んでいるヒョウだ。
「私は依頼を選びます。私が関わった以上、事件の解決方法は私に一任してもらえるのですよね?」
「こちらが要求しているのは、事件の早期解決です。」
 孝造の罵声が響く直前、冷徹に響く機械の声が割り込む。
 そのまま場を引き取ると水島は続けた。
「方法などは各自に任せます。必要ならば、当屋敷に滞在なさっていただいても構いません。事件解決までは、手厚く歓迎いたします。警察とも内密に協力を要請していますので、必要な情報などは用意できます。もうじき事件資料を持って、警察の捜査協力者も派遣されてきますので。」
「警察が?」
 独り言のように霧崎が呟く。
 そこで、孝造は鼻を鳴らす。
「儂に動かせぬものはない。」
 それはまさしく世界を裏で操れるほどの権力者の台詞だった。自己顕示欲と支配欲を満たした男の台詞だった。
 屋敷の外ではうるさいくらいに蝉が啼いている。命の限り啼く蝉の声は、忍び寄るように、壁を突き抜けるように、力いっぱい響き渡っていた。
 
 集められた四人の探偵達。
  四人が紐解いていく謎。
   警察をも巻き込んで、
    事件は、どう展開していくというのか?
     命を燃やすかのような蝉の声が、
      事件現場には響き続けていた。
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