【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

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第二幕 六 「そうだ。彼が名探偵・霧崎光だ。」

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     六

「傷か・・・・。多分、君の予感は当たっているよ。」
 重々しくため息をつく警部。
 霧崎の視線は、鋭くなっていく。
 名コンビの反応に、新進気鋭の探偵二人もただならぬ気配を感じている。
「当たっている・・・・、ということは、まさか首の傷というのは・・・・。」
「・・・・・私が答えるよりも、実物を見てもらった方がいいだろう。」
 警部はそう息を吐き出すように言うと、背後へと振り返った。
 主人の孝造に、視線を合わせる警部。
「もう一人、紹介してもいいですね?」
「事件さえ解決すれば儂は一向に構わん。好きにしてくれ。」
 孝造は躊躇することなく許可する。
 そして、孝造は隣に控えていた水島に顎だけで命令する。
 水島は、一瞬の遅延もなく命令通りに、先程入ってきたドアの方に歩き出す。
「私の他に、もう一人。警察からの協力者がいる。彼は、こういった事件を専門にしている。」
 警部の説明の中、水島に案内されて一人の男が室内に入ってくる。
「今回の事件に関して、彼も助力してくれるだろう。彼は科警研から派遣された男だ。」
 入ってきたのは、重々しい警部の声音には不似合いな男だった。感じのいい笑みを浮かべ、人懐っこそうな顔だ。このような場所で会わなければ、端正な顔つきはアイドルや俳優と見間違えてしまうほどだ。背はやや高め、瞳は知性的なきらめきを湛え、スタイリッシュな細身のスーツは、クールビズ仕様。ファッションリーダーといっても、過言ではない。
「探偵の皆さん、こんにちは。科警研から来ました、竹川純哉です。この事件に関して、皆さんの貴重なご意見を聞かせていただければと思っています。」
「まだ若いが、アメリカで犯罪心理学を学んだそうだ。」
 アメリカ帰り。その響きは、正にエリート。
「竹川、霧崎君に例の写真を見せてやってくれ。」
 警部の命令口調。瞳の中に一瞬過ぎった光は、たたき上げの刑事のエリートの若造に対する意地のようだった。
「はい。えーっと、霧崎さんって、あの名探偵の霧崎さんですか?」
 命令口調に慣れているらしく、竹川は謙虚に頷く。
「そうだ。彼が名探偵・霧崎光だ。」
 誇らしげに霧崎を紹介する警部。
 霧崎は笑顔を浮かべて手を差し出した。
「そんなに持ち上げられては居心地が悪いが。よろしく、俺が霧崎光だ。」
「よろしくお願いします。竹川純哉です。」
 握手に応じた竹川は有名人に会えて喜んでいるようだった。
「それで、竹川。写真を見せてくれるか?」
 初対面だというのに霧崎は親しげに竹川を呼び捨てにしていた。
 だが、そんなフランクな態度も竹川は意に介せずに、従順に霧崎へと写真を差し出した。
「これです。これが、被害者の首筋の写真です。」
 差し出した写真には、被害者・野村の顎の下から鎖骨までがアップになって写っていた。
 鎖骨の上の辺りには、先が尖ったようなもので引っ掻いたような傷が残っていた。
「やはりな。」
 写真を見つめながら、霧崎は呟く。
「どういうことですか?」
 一枚の写真に、榊原も琉衣も興味を引かれた様子で集まってくる。好奇心を抑えきれないといった様子だが、顔には厳格なものが浮かんでいる。
「こ、これは。」
 写真を見た途端、榊原の様子も激変する。顔面蒼白のち絶句。
 琉衣は口を押さえたまま、声も出せないようだった。
「REST IN PEACE。これは・・・・。」
「そうだ。我々警察は、この事件を一連の殺人鬼の犯行と断定した。君も知っているだろう?『死の押し売り師』だよ。」
 遺体の写真の首元には、紅い血の滲んだ引っ掻き傷で『REST IN PEACE』と刻んであった。刻印のようなその傷は、墓碑に刻むメッセージだ。
 探偵たちは写真を覗き込んだまま、黙り込んでしまう。警察によってもたらされた情報は、一つの事件を迷宮へと導くようなものだった。
「大体の内容は分かってもらったと思うのだが。」
 今まで、室内の最奥の椅子に鎮座していた主人が、立ち尽くす者たちに威厳のある声を響かせる。
「儂の依頼はこの事件の早期解決だ。」
 厳しく放たれた命令。有無を言わせぬ存在感。
 主人の命令の後、今度は機械的で事務的な声が続く。
「その殺人鬼を捕まえるなり、新しい犯人を見つけるなり、方法は各自に任せますので、この事件を一刻も早く解決してください。」
 写真の前に集った探偵達には、肯定の返事を返すことも出来なかった。難しい顔で黙り込んだまま、それでも写真を見つめている。
 ただ一人、探偵の輪に入っていないヒョウは、写真に一瞥をくれることもなく、室内の空気に構うことなく、ただ不敵に微笑んでいた。
 ヒョウの微笑みは、まだ特定の人物には向けられていなかった。

  新しい登場人物は殺人鬼。
   事件は混迷を深め、真実の前には暗雲が立ち込めていく。
    警察をも巻き込んで、一行は何処に導かれていくのか?
     それは、まだ誰にも分かっていない。
      だが、事件は進んでいく。
       殺人鬼すら巻き込んで。
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