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第三幕 四 「本当に警察に嫌われているんですね」
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四
「かといって、君達の協力に期待していないわけではない。力を合わせて、この事件を含めた死の押し売り師事件を解決させようじゃないか。」
所信表明演説のような警部の気合の入った宣言。
いち早く同意したのは霧崎だ。さすが名コンビ、息はピッタリだ。
「はい、やりましょう、警部。我々共通の敵、死の押し売り師を見事逮捕してやりましょう。」
熱く握手を交し合う二人。誰もこのコンビの行く手は阻めそうもない。
だが、この熱い団結に水を差すように、着信音が室内に流れた。
「すみません、僕です。」
携帯電話を取り出して、立ち上がったのは榊原だ。眼鏡をクイッと上げると、電話に出るために作戦会議から離れていった。
突然の着信音のせいで、せっかく盛り上がりかけた作戦会議にはしらけたムードが漂い始める。
解散ムードさえ漂い始める中、今まで意見に耳を傾けているだけだった琉衣がおずおずと手を上げた。
「あのー、いいですか?」
誰にでもなく質問の許可を求める。
「どうぞ。」
許可を出したのは警部だった。
「結局、力を合わせてがんばろう!っていうのは分かったんだけど、具体的なことがよく分からないんです。探偵さんが集まって、何から始めればいいんでしょうか?死の押し売り師を捕まえればいいんですか?そんなこと出来るんでしょうか?」
ノリだけでは進めない。琉衣の指摘は当然だ。
だが、霧崎はめげることはない。
「そうだな。出来ると言いたいが、それは分からない。だが、やれるだけのことはやろうと思う。よし、では、こうしよう。横山君も俺も、独自にこの事件の情報を集めてくる。それを一日に一回、ここに持ち込んで、一緒に情報の検討をしよう。そこに、警部も同席してもらう。共同戦線を張るということでどうだ?一人でダメでも、協力すれば何とかなるかもしれない。三人寄れば文殊の知恵だ。」
琉衣には願ってもない協力のチャンスだ。琉衣は勢いよく霧崎に頭を下げた。
「よろしくお願いします。霧崎さんの助手として頑張ります!」
「はっはっはっ、あくまでも同業者なんだから。助手じゃなくて、良き友人として頑張ろう!」
気持ちよく笑いながら霧崎は握手の手を差し出した。
琉衣は嬉しそうにその手を握っていた。
「暑い。」
リンがまた小さな声で呟く。
リンの呟きはヒョウの耳にだけ届き、ヒョウの口元の微笑を深くさせた。
「すいません。」
そんな協力体制の整った場に、先程一時離脱した榊原が電話を終えて帰還する。
「おお、榊原。お前も一緒にどうだ?」
体育会系のノリで霧崎が榊原を誘っている。
だが、榊原は渋い顔をして首を振った。
「すいません。お話は嬉しいんですが、急遽、別の仕事が入ったんです。かなりの上得意の客なので、どうしても外せなくて・・・・。」
売り出し中の探偵は客取りも必死だ。探偵といえども、客商売であることに変わりはない。有力な顧客がつかなければ、採算が合わずに立ち行かなくなってしまう。
それでも、榊原は名残惜しそうだった。採算を度外視しても、今回の名探偵との協力体制というのは魅力的な事件なのだろう。経験も稼げれば、名声も得られる。上得意の客でなければ、にべもなく断っていただろう。
「そうか。残念だな。」
霧崎は引き止めない。
榊原はため息をついた。
「すいません。」
気落ちした様子の榊原の肩に霧崎の大きな手が置かれる。
「大丈夫だ。お前が探偵を続けていれば、また会うこともある。そうしたら、また一緒に手を組んで事件を解決しよう。いや、それとも推理対決の方がいいか?」
気持ちの良い励まし。
榊原はどうにか顔を上げた。
顔を上げた先には、警部の顔もある。
「君は優秀そうだ。また一緒になる機会があったら頼りにすることにしよう。」
若く優秀な人材を見つめる暖かな眼差し。そういう意味での警部の視線は満点だった。
その上、警部は小声で忠告を続ける。あくまでも先達の一人として若人に。
「それに、この事件、もしかしたら無事に済まないかもしれないぞ。何といっても、組み合わせが最悪だ。凍神ヒョウと死の押し売り師。災厄の二条だ。君は、まだ若い。命は大切にした方がいい。」
「本当に警察に嫌われているんですね。あの男は。」
納得するように頷く榊原。
背後ではヒョウが典雅に微笑んでいる。二人の会話は当然耳に届いている。
「まあまあ二人とも。凍神については、俺は賛成しないぞ。」
二人の間に割って入り、宥めるような霧崎。
霧崎の言葉に警部は不服そうだった。
「何故、霧崎君はアイツの肩を持つのか?ふんっ、全く分からん!」
ぶつぶつと呟く警部は置いておいて、霧崎は榊原にも握手の手を差し出した。
「お前さえ良ければ、今回の事件の報告をしよう。どうだ?」
「は、はい!お願いします。」
思っても見ない申し出に、榊原は力強く霧崎の手を握り返した。
力強い笑顔に見送られ、榊原は去っていく。
「かといって、君達の協力に期待していないわけではない。力を合わせて、この事件を含めた死の押し売り師事件を解決させようじゃないか。」
所信表明演説のような警部の気合の入った宣言。
いち早く同意したのは霧崎だ。さすが名コンビ、息はピッタリだ。
「はい、やりましょう、警部。我々共通の敵、死の押し売り師を見事逮捕してやりましょう。」
熱く握手を交し合う二人。誰もこのコンビの行く手は阻めそうもない。
だが、この熱い団結に水を差すように、着信音が室内に流れた。
「すみません、僕です。」
携帯電話を取り出して、立ち上がったのは榊原だ。眼鏡をクイッと上げると、電話に出るために作戦会議から離れていった。
突然の着信音のせいで、せっかく盛り上がりかけた作戦会議にはしらけたムードが漂い始める。
解散ムードさえ漂い始める中、今まで意見に耳を傾けているだけだった琉衣がおずおずと手を上げた。
「あのー、いいですか?」
誰にでもなく質問の許可を求める。
「どうぞ。」
許可を出したのは警部だった。
「結局、力を合わせてがんばろう!っていうのは分かったんだけど、具体的なことがよく分からないんです。探偵さんが集まって、何から始めればいいんでしょうか?死の押し売り師を捕まえればいいんですか?そんなこと出来るんでしょうか?」
ノリだけでは進めない。琉衣の指摘は当然だ。
だが、霧崎はめげることはない。
「そうだな。出来ると言いたいが、それは分からない。だが、やれるだけのことはやろうと思う。よし、では、こうしよう。横山君も俺も、独自にこの事件の情報を集めてくる。それを一日に一回、ここに持ち込んで、一緒に情報の検討をしよう。そこに、警部も同席してもらう。共同戦線を張るということでどうだ?一人でダメでも、協力すれば何とかなるかもしれない。三人寄れば文殊の知恵だ。」
琉衣には願ってもない協力のチャンスだ。琉衣は勢いよく霧崎に頭を下げた。
「よろしくお願いします。霧崎さんの助手として頑張ります!」
「はっはっはっ、あくまでも同業者なんだから。助手じゃなくて、良き友人として頑張ろう!」
気持ちよく笑いながら霧崎は握手の手を差し出した。
琉衣は嬉しそうにその手を握っていた。
「暑い。」
リンがまた小さな声で呟く。
リンの呟きはヒョウの耳にだけ届き、ヒョウの口元の微笑を深くさせた。
「すいません。」
そんな協力体制の整った場に、先程一時離脱した榊原が電話を終えて帰還する。
「おお、榊原。お前も一緒にどうだ?」
体育会系のノリで霧崎が榊原を誘っている。
だが、榊原は渋い顔をして首を振った。
「すいません。お話は嬉しいんですが、急遽、別の仕事が入ったんです。かなりの上得意の客なので、どうしても外せなくて・・・・。」
売り出し中の探偵は客取りも必死だ。探偵といえども、客商売であることに変わりはない。有力な顧客がつかなければ、採算が合わずに立ち行かなくなってしまう。
それでも、榊原は名残惜しそうだった。採算を度外視しても、今回の名探偵との協力体制というのは魅力的な事件なのだろう。経験も稼げれば、名声も得られる。上得意の客でなければ、にべもなく断っていただろう。
「そうか。残念だな。」
霧崎は引き止めない。
榊原はため息をついた。
「すいません。」
気落ちした様子の榊原の肩に霧崎の大きな手が置かれる。
「大丈夫だ。お前が探偵を続けていれば、また会うこともある。そうしたら、また一緒に手を組んで事件を解決しよう。いや、それとも推理対決の方がいいか?」
気持ちの良い励まし。
榊原はどうにか顔を上げた。
顔を上げた先には、警部の顔もある。
「君は優秀そうだ。また一緒になる機会があったら頼りにすることにしよう。」
若く優秀な人材を見つめる暖かな眼差し。そういう意味での警部の視線は満点だった。
その上、警部は小声で忠告を続ける。あくまでも先達の一人として若人に。
「それに、この事件、もしかしたら無事に済まないかもしれないぞ。何といっても、組み合わせが最悪だ。凍神ヒョウと死の押し売り師。災厄の二条だ。君は、まだ若い。命は大切にした方がいい。」
「本当に警察に嫌われているんですね。あの男は。」
納得するように頷く榊原。
背後ではヒョウが典雅に微笑んでいる。二人の会話は当然耳に届いている。
「まあまあ二人とも。凍神については、俺は賛成しないぞ。」
二人の間に割って入り、宥めるような霧崎。
霧崎の言葉に警部は不服そうだった。
「何故、霧崎君はアイツの肩を持つのか?ふんっ、全く分からん!」
ぶつぶつと呟く警部は置いておいて、霧崎は榊原にも握手の手を差し出した。
「お前さえ良ければ、今回の事件の報告をしよう。どうだ?」
「は、はい!お願いします。」
思っても見ない申し出に、榊原は力強く霧崎の手を握り返した。
力強い笑顔に見送られ、榊原は去っていく。
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