【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

夢追子(@電子コミック配信中)

文字の大きさ
35 / 82

第五幕 六 「だったら、どうする?」

しおりを挟む
     六

 コンコン。

 凍りつきそうなほど、急速に温度の下がった室内に訪問者のノックが響き渡る。
「どちら様ですか?」
 他人への応対用として、仮面の微笑が顔に張り付く。
「私です。凍神さん。琉衣でーす。」
 扉の向こうからは明るい琉衣の声が響く。
 ヒョウは椅子に腰掛け、長い手足を組んだ。
「どうぞ。」
 入室許可はあっさりと下りる。
 扉は外から開かれ、氷点下の室内に外気が流れ込んだ。
「こんにちは!一日ぶりですね。」
 元気の良い再会の挨拶。ヒョウとの温度差で対流が起きそうだ。
「ええ。何か御用ですか?横山サン。」
 涼しげと言うよりは、冷え切った声音。響きは空々しく寒々しい。
「あら?リンちゃんは?」
 ヒョウの声音に気付かないのか、ただ気付かぬフリをしているだけなのか。琉衣は自分のペースで室内に入ると室内を見回した。
「用事で出ていますよ。」
 椅子から立ち上がることのないヒョウ。顔に浮かぶ微笑は凍りついたように形を変えない。
「ふーん。そっか。」
 琉衣は軽く呟く。リンが目的ではなかったようで、事のついでに聞いただけといった様子だ。
「ねぇ、凍神さん。昨日から何か進展あった?」
 探るような口ぶりではなく、琉衣の声音は日常会話の続きのように響く。
「さっき聞いたんだけど、凍神さんは昨日から今日にかけて、この家でイロイロと調べてたんでしょ?」
「ええ。私は、こちらで証言の洗い直しなどをやっておりましたよ。貴方は如何ですか?」
 ヒョウも特に警戒する様子はなく、すらすらと答える。二人は協力体制をとっているわけではないが、二人とも気にしていないようだった。
「私は、そうね。あんまりって感じかな。やっぱり、一日じゃ、何から調べればいいのかも分かんないから。」
「名探偵殿に頼れば、きっと有益な情報をもたらしてくれるでしょう。」
「そうね。霧崎さんだもんね。」
 挨拶のような会話を終え、琉衣はヒョウの前に椅子を移動させると陣取るように座った。椅子の背もたれに両腕を乗せ、その上に顎を乗せる。ヒョウと琉衣は、琉衣の椅子の背もたれを挟んで向かい合った。
「ねえ、突然だけど、変なこと聞いていい?」
 愛嬌のある笑顔を向ける琉衣。
 ヒョウは、ただ肩を竦めて見せた。
「お好きなように。」
「じゃあ聞くけど。凍神さんは、何で霧崎さんの協力を断ったの?」
「断ってはいけませんか?」
 質問に返されたのは質問。
 琉衣は気にせずに続ける。
「だって、霧崎さんと協力した方が早く事件が片付くじゃない。それに、霧崎さんなら実力も確かだし。」
「まるで冬虫夏草のような言い分ですね。」
 ヒョウの声音に笑い声が混じる。
 琉衣の瞳にも悪戯な輝きが混じった。
「いけない?強いものには寄生した方が、対立するより得るものは大きいのよ。」
「実に素直な言い分です。」
 年若く童顔な顔つきには不似合いな老獪さを見え隠れさせつつ、琉衣が華やかに微笑む。
 ヒョウは足を組みかえ、微笑の奥のサファイアの瞳を輝かせた。
「それで、貴方は私にも寄生しようとやってきたというわけですか?」
「だったら、どうする?」 
 挑発するような琉衣の言葉。琉衣は椅子を降りると、一歩ずつ迫るようにヒョウに近づいた。一歩近づくごとに、胸のボタンを一つずつ外していく。
 活動的だったパンツスーツは、そのストイックさとは対照的なコケティッシュな雰囲気を醸し出す。
「さすがに時と場合にもよるけどね。女って言うのは、結構有益な武器になるのよ。知ってるでしょう?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

処理中です...