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第五幕 七 「リンちゃんは凍神さんの何?」
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七
「さすがに時と場合にもよるけどね。女って言うのは、結構有益な武器になるのよ。知ってるでしょう?」
「情報収集に役立つということですか?」
ヒョウの言葉に琉衣は艶然と微笑んだ。いつもの明るい女性の外見とは別の顔だ。
胸元を強調するように、琉衣は椅子に座ったままのヒョウの前に立ち、膝に手を置こうとする。
だが、見上げるようにした琉衣の視界に飛び込んで来たのは、圧倒的な威圧だった。
「触るな。」
響いたのは絶対零度の拒絶。怒り。
「毒のあるものに寄生するのは利巧とは言えませんよ。」
あまりに圧倒的な力の差は、経験や修行などでは到底埋められぬ才能とも言えるものだった。圧倒的な力の前に存在するのは、恐怖と畏敬と諦め、そして自失だ。
「あ、・・・・・。」
呼吸すら忘れて、琉衣は素に返り、静止している。
動くことすら出来ない琉衣の耳に、大仰なため息が聞こえる。
「勘違いしてもらっては困ります。貴方の武器が通用しない相手など、この世界にいくらでもいるのですよ。」
「お、大人の女には、興味ないってこと?」
何とか搾り出すように、琉衣は声を出した。
その途端、ヒョウの威圧が消失した。
冷えていた温度すら戻り、ヒョウは腹を抱えて笑い始める。
琉衣は、その気に乗じて安全圏の椅子まで避難していた。
「何が可笑しいの?だって、貴方、いつもリンちゃん連れてるじゃない!」
用のなくなった胸のボタンを掛け直し、椅子で膝を抱え、取りあえず抗議してみる琉衣。色仕掛けは拒絶されるわ、何故か笑われているわで、琉衣には怒ることしか出来ない。
「くっくっくっ、横山サンがあまりに可笑しなことを仰るからですよ。」
「だって、武器が通用しないって。凍神さん。私だって結構、百戦錬磨なのに。」
自信も粉砕され、琉衣は退行現象のように老獪さが消えていた。
「すみません。貴方の自信を奪うつもりはなかったんですがね。そうですね、自信を取り戻したいのなら、今度は名探偵殿を標的にしたら如何でしょう?案外、簡単に引っかかると思いますよ。」
やっと笑いを抑え、ヒョウが微笑を取り戻す。
琉衣はふくれっ面をしていた。
「何よ。酷いよ、凍神さん。何もあんなに笑わなくてもいいじゃない。」
ふくれっ面の琉衣に微笑を向けて、ヒョウは肩を竦めて見せる。
「そちらについては、勘違いをされても困ることはありませんが、貴方の勘違いは笑うしかありませんでしたよ。貴方はリンを何だと思ってらっしゃるのですか?」
「だから、恋人でしょ?」
少し苛立ちながら琉衣は答える。
「だって、客室だって一室借りただけなんでしょ?恋人じゃなきゃ、何なの?確かに、あんまり誉められた趣味じゃないわよ。でも、法律に引っかからなきゃ、最後は当人同士の問題だし。」
そこで、琉衣は不意に言葉を止めた。何か思い当たることでもあったようで、今までの苛立ちが吹き飛び、顔をにんまりさせた。
「もしかして、凍神さん。世間体とか気にする方だったり?だから、懸命に否定したみたり?」
他人の秘密や弱みを握った時の琉衣の顔。それは、老獪さと言うよりは、悪戯な笑みといった感じだ。
どこか無遠慮な琉衣の視線の中、ヒョウは呆れ返ったようにため息をついていた。
「世間体ですか?もし、そんなものが気になり、貴方の言った通り、リンが恋人だったのなら、私はリンを連れて歩きますか?」
「歩くはずないか。」
琉衣は出た答えに落胆する。ヒョウの言葉は正論だ。
「でもでも、だったら、リンちゃんは凍神さんの何?助手なだけじゃないでしょ?」
食い下がるような琉衣の質問。
ヒョウはさも何事でもないかのように答えた。
「さすがに時と場合にもよるけどね。女って言うのは、結構有益な武器になるのよ。知ってるでしょう?」
「情報収集に役立つということですか?」
ヒョウの言葉に琉衣は艶然と微笑んだ。いつもの明るい女性の外見とは別の顔だ。
胸元を強調するように、琉衣は椅子に座ったままのヒョウの前に立ち、膝に手を置こうとする。
だが、見上げるようにした琉衣の視界に飛び込んで来たのは、圧倒的な威圧だった。
「触るな。」
響いたのは絶対零度の拒絶。怒り。
「毒のあるものに寄生するのは利巧とは言えませんよ。」
あまりに圧倒的な力の差は、経験や修行などでは到底埋められぬ才能とも言えるものだった。圧倒的な力の前に存在するのは、恐怖と畏敬と諦め、そして自失だ。
「あ、・・・・・。」
呼吸すら忘れて、琉衣は素に返り、静止している。
動くことすら出来ない琉衣の耳に、大仰なため息が聞こえる。
「勘違いしてもらっては困ります。貴方の武器が通用しない相手など、この世界にいくらでもいるのですよ。」
「お、大人の女には、興味ないってこと?」
何とか搾り出すように、琉衣は声を出した。
その途端、ヒョウの威圧が消失した。
冷えていた温度すら戻り、ヒョウは腹を抱えて笑い始める。
琉衣は、その気に乗じて安全圏の椅子まで避難していた。
「何が可笑しいの?だって、貴方、いつもリンちゃん連れてるじゃない!」
用のなくなった胸のボタンを掛け直し、椅子で膝を抱え、取りあえず抗議してみる琉衣。色仕掛けは拒絶されるわ、何故か笑われているわで、琉衣には怒ることしか出来ない。
「くっくっくっ、横山サンがあまりに可笑しなことを仰るからですよ。」
「だって、武器が通用しないって。凍神さん。私だって結構、百戦錬磨なのに。」
自信も粉砕され、琉衣は退行現象のように老獪さが消えていた。
「すみません。貴方の自信を奪うつもりはなかったんですがね。そうですね、自信を取り戻したいのなら、今度は名探偵殿を標的にしたら如何でしょう?案外、簡単に引っかかると思いますよ。」
やっと笑いを抑え、ヒョウが微笑を取り戻す。
琉衣はふくれっ面をしていた。
「何よ。酷いよ、凍神さん。何もあんなに笑わなくてもいいじゃない。」
ふくれっ面の琉衣に微笑を向けて、ヒョウは肩を竦めて見せる。
「そちらについては、勘違いをされても困ることはありませんが、貴方の勘違いは笑うしかありませんでしたよ。貴方はリンを何だと思ってらっしゃるのですか?」
「だから、恋人でしょ?」
少し苛立ちながら琉衣は答える。
「だって、客室だって一室借りただけなんでしょ?恋人じゃなきゃ、何なの?確かに、あんまり誉められた趣味じゃないわよ。でも、法律に引っかからなきゃ、最後は当人同士の問題だし。」
そこで、琉衣は不意に言葉を止めた。何か思い当たることでもあったようで、今までの苛立ちが吹き飛び、顔をにんまりさせた。
「もしかして、凍神さん。世間体とか気にする方だったり?だから、懸命に否定したみたり?」
他人の秘密や弱みを握った時の琉衣の顔。それは、老獪さと言うよりは、悪戯な笑みといった感じだ。
どこか無遠慮な琉衣の視線の中、ヒョウは呆れ返ったようにため息をついていた。
「世間体ですか?もし、そんなものが気になり、貴方の言った通り、リンが恋人だったのなら、私はリンを連れて歩きますか?」
「歩くはずないか。」
琉衣は出た答えに落胆する。ヒョウの言葉は正論だ。
「でもでも、だったら、リンちゃんは凍神さんの何?助手なだけじゃないでしょ?」
食い下がるような琉衣の質問。
ヒョウはさも何事でもないかのように答えた。
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