【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

夢追子(@電子コミック配信中)

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最終幕 十一 「待ってください!凍神さん」

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      十一

「くっくっくっ、そんなモノ、貴方が書いたのでしょう?警察に送られた書簡は、あいまいな表現が多く、警察の内部情報などがあれば犯人以外にも書けます。それでなくても、貴方の仕事は殺人鬼の行動を分析し、分類し、予測するプロファイラーだ。貴方は警察の中で誰よりも死の押し売り師を理解しているはずです。そんな貴方が、書簡を贋物と見抜けないはずもない。しかし、貴方は見抜かなかった。理由は明白です。」
「嫌だなぁ。あれは贋物なんですか?僕としては痛いミスですね。」
 あくまでもさりげなく、何処までも自然に、受け流そうとする竹川。
 ヒョウは、竹川を正面から見据えた。
「別に、警察に密告しようなどとは考えていませんが、そのシリアルキラーの呼称だけは気に入りません。名付け親の貴方ならば、変えることも出来るのではないですか?」
 何処までも透明で、何処までも涼しげなヒョウの声音。断罪も、賞賛も、恐喝も、憎悪も、何もない。ただあるのは、圧倒的な迫力と威圧だけだ。見下ろすように、投げかけられる。疑問符に意味はない。敬語にすら、敬意は込められていない。便宜上使っているだけだ。
「死の押し売り師は、死の押し売り師ですよ。」
 竹川は何処までも笑顔だった。あくまでも理性的に、外面を崩すことはない。対抗するように、対峙するように、受けて立つ。
 ヒョウはそんな竹川に微笑んだ。瞳に狂気を宿して。
「自己顕示欲、支配欲、それに好奇心ですか・・・・。闇に魅入られましたね?竹川サン。」
「嫌だなぁ。僕達プロファイラーは、闇と対峙するからこそ、闇と一線を引かなくてはいけないんですよ。」
 ははは、と、竹川は爽やかに笑ってみせる。瞳が笑っていないので、それはあまりにも虚しい響きにしかならない。
 室内に響く竹川の笑い声。
 ヒョウの顔は、急速に温度を失くし、笑みを消していた。
「それでは、私も貴方の先の申し出をお受けするわけにはいきません。金輪際、貴方と話すことはないでしょう。貴方は私の美意識に反します。」
 酷く冷めたため息と、軽蔑の眼差しを竹川に投げつけ、ヒョウは歩き出した。竹川という人間に興味すらなくし、存在を認めることすら止めている。
 先に扉の前で待っているリンに、何事もなかったかのように微笑みかけるヒョウ。
「さて、帰りましょう。リン。この屋敷に、もう用はありません。」
 リンの鈴が肯定の音をヒョウに届ける。
 竹川の存在を完全に抹消して、退室の挨拶すらせずに、ヒョウは扉に手をかける。
 そんなヒョウの背中には、慌てた様子の弁解がましい竹川の声が掛けられる。竹川は他人に無視されることになれていないのだろう。人当たりのいい態度は、人に好かれたいという欲望の裏返しだ。ヒョウの絶縁状のような言葉は、竹川の存在そのものの否定として響いたに違いない。
「待ってください!凍神さん。」
 しかし、ヒョウの耳には届かない。振り返ることもなく、リンとの会話を止めることもない。竹川の呼びかけなど風の音くらいにしか、思っていない。
「待って、凍神さん。」
 悲痛さの増した竹川の声。同情を誘うような声だ。笑顔もなくなり、余裕も消えている。足を縺れさせながら、扉を開けて客室から去っていこうとするヒョウの背中を追う。
「待って!待って!」
 親を必死に追う子供のように情けない声。置いてきぼりにされることに、何かトラウマでも抱えているような、そんな風にも響く。
 けれど、ヒョウは止まらない、振り返らない。興味を失ったものに対して、自分の美意識に反するものに対して、ヒョウの態度は一貫して残酷だ。情けのカケラもかける気はない。同情や優しさなどといった温度のある感情は、存在すらしていない。
「待って、待てよ!」
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