16 / 187
第一部
第二章 理想の王子様、現る。(しかし、貴方も男)①『沢崎直』
しおりを挟む
一
沢崎直にとって、恋愛とは辛く悲しいものだった。
モブ女の学生時代などキラキラとは縁遠いのは当然で、どこか遠い世界のような一軍の陽キャたちの青春を傍目に眺めることはしても、自分の元にそんな青春が舞い込むことはなかった。
大学時代にやっとのことで初めて出来た恋人も、結局相手の浮気が原因で別れた。
社会人になり、次に出来た恋人には浮気どころか二股の末、沢崎直の方が先に付き合い始めたというのに二番目の女にいつの間にか降格していて、あまりにもバカらしくて別れた。
そして、しばらく恋愛は懲り懲りだと思っていた沢崎直の凝り固まっていた心を解きほぐしてくれた最後の恋人は………。
誠実だったはずの恋人は……。
あざと女の毒牙に掛かり、裏切りの末に沢崎直を捨てた。
ゆくゆくは結婚をと考えるくらいには将来のことを匂わせる発言をしていたあの男は、ある日を境に突然素っ気なくなり、忙しいが口癖になった。デートの約束はいつも直前でドタキャンされるようになり、連絡がつきにくくなった。付き合いたての頃は、マメに連絡を返してくれる優しくて気配りが出来て真面目な男だったはずなのに……。
ある日、久しぶりに会った男は沢崎直が料理をする後姿を見て言った。
「直もさぁ、もう少し女子力って云うの?そういうの身に着けたら?」
「は?」
「……何か、色気とか、そういうの?」
確かに、化粧映えもしない地味顔で、女性にはあまり褒め言葉とは思えない質実剛健的な要素を持ち合わせたのが沢崎直という人間だ。それでも、前まではそういう真面目なところがいいと、この男も言っていたはずだ。すっきりとした性格が気分がいいと、笑顔で褒めていたではないか?
沢崎直は恋人の主張が突然変わったことに危機感を覚えた。
「女子力って何?」
とりあえず質問してみた。
かねてから、沢崎直には『女子力』という言葉の正確な意味が理解できなかった。
使う人間によって、使う用途によって、あまりにも意味が変化して具体性がないにも関わらず、共通概念のように存在し、一時期は猫も杓子も踊らされていた言葉。
「女子力は女子力でしょ?」
はい、出ました。沢崎直は心の中で両手を広げて呆れて見せた。
フリルのスカートを着れば女子力アップ。化粧がうまく出来れば女子力アップ。料理が出来れば女子力アップ。自分磨きで女子力アップ。素直で可愛いのは女子力が高い。このポーズは女子力が高く見える。女子力アップの裏ワザ。果ては、この商品を買えば女子力アップ。結局、正解はどこにある?
野菜を手際よく切り終え、片づけを済ませ、鍋でスープを煮込みながら、エプロン姿の沢崎直は、あくまでも笑顔で恋人へと振り返った。
「具体例を聴いてるんだけど?」
「……そういうとこじゃない?」
(どういうところだ?)
あくまでも笑顔でありながら、心の中で青筋を立てた。
沢崎直の心中に気付かず、男は淡々と続ける。
「可愛げとか、色気とか、そういうの。……何かさ、直って萎えるんだよ。」
沢崎直は眼鏡の下の眉間を軽く指で揉んだ。
「今のやり取りだってさ。もっと他にないの?料理だって、味が悪いわけじゃないけど、彩りとか、作ってる時のエプロン姿とか、萎えてくるんだよ。」
淡々と人を傷つけている間、男はスマホの画面から一度だって視線を上げはしない。
(……この男、特定の誰かと私を比べてやがる。)
沢崎直のはらわたはふつふつと煮えくり返った。
だが、あくまでも一定の冷静さを保ったまま、沢崎直は会話を続けた。
「で?女子力が何なの?」
沢崎直にとって、恋愛とは辛く悲しいものだった。
モブ女の学生時代などキラキラとは縁遠いのは当然で、どこか遠い世界のような一軍の陽キャたちの青春を傍目に眺めることはしても、自分の元にそんな青春が舞い込むことはなかった。
大学時代にやっとのことで初めて出来た恋人も、結局相手の浮気が原因で別れた。
社会人になり、次に出来た恋人には浮気どころか二股の末、沢崎直の方が先に付き合い始めたというのに二番目の女にいつの間にか降格していて、あまりにもバカらしくて別れた。
そして、しばらく恋愛は懲り懲りだと思っていた沢崎直の凝り固まっていた心を解きほぐしてくれた最後の恋人は………。
誠実だったはずの恋人は……。
あざと女の毒牙に掛かり、裏切りの末に沢崎直を捨てた。
ゆくゆくは結婚をと考えるくらいには将来のことを匂わせる発言をしていたあの男は、ある日を境に突然素っ気なくなり、忙しいが口癖になった。デートの約束はいつも直前でドタキャンされるようになり、連絡がつきにくくなった。付き合いたての頃は、マメに連絡を返してくれる優しくて気配りが出来て真面目な男だったはずなのに……。
ある日、久しぶりに会った男は沢崎直が料理をする後姿を見て言った。
「直もさぁ、もう少し女子力って云うの?そういうの身に着けたら?」
「は?」
「……何か、色気とか、そういうの?」
確かに、化粧映えもしない地味顔で、女性にはあまり褒め言葉とは思えない質実剛健的な要素を持ち合わせたのが沢崎直という人間だ。それでも、前まではそういう真面目なところがいいと、この男も言っていたはずだ。すっきりとした性格が気分がいいと、笑顔で褒めていたではないか?
沢崎直は恋人の主張が突然変わったことに危機感を覚えた。
「女子力って何?」
とりあえず質問してみた。
かねてから、沢崎直には『女子力』という言葉の正確な意味が理解できなかった。
使う人間によって、使う用途によって、あまりにも意味が変化して具体性がないにも関わらず、共通概念のように存在し、一時期は猫も杓子も踊らされていた言葉。
「女子力は女子力でしょ?」
はい、出ました。沢崎直は心の中で両手を広げて呆れて見せた。
フリルのスカートを着れば女子力アップ。化粧がうまく出来れば女子力アップ。料理が出来れば女子力アップ。自分磨きで女子力アップ。素直で可愛いのは女子力が高い。このポーズは女子力が高く見える。女子力アップの裏ワザ。果ては、この商品を買えば女子力アップ。結局、正解はどこにある?
野菜を手際よく切り終え、片づけを済ませ、鍋でスープを煮込みながら、エプロン姿の沢崎直は、あくまでも笑顔で恋人へと振り返った。
「具体例を聴いてるんだけど?」
「……そういうとこじゃない?」
(どういうところだ?)
あくまでも笑顔でありながら、心の中で青筋を立てた。
沢崎直の心中に気付かず、男は淡々と続ける。
「可愛げとか、色気とか、そういうの。……何かさ、直って萎えるんだよ。」
沢崎直は眼鏡の下の眉間を軽く指で揉んだ。
「今のやり取りだってさ。もっと他にないの?料理だって、味が悪いわけじゃないけど、彩りとか、作ってる時のエプロン姿とか、萎えてくるんだよ。」
淡々と人を傷つけている間、男はスマホの画面から一度だって視線を上げはしない。
(……この男、特定の誰かと私を比べてやがる。)
沢崎直のはらわたはふつふつと煮えくり返った。
だが、あくまでも一定の冷静さを保ったまま、沢崎直は会話を続けた。
「で?女子力が何なの?」
32
あなたにおすすめの小説
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる