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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㊵『願いごと』
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四十
二人の上げた灯籠がどんどん高度を増していき、豆粒ほどのサイズになる。
たくさんの灯籠が並んで高く上がっていく空は、本当に幻想的な光景だった。
あまりに幻想的な光景に、知らず知らず沢崎直の瞳が涙で滲む。
空を見上げていたおかげで、その涙が零れ落ちることはなかったのは幸いだった。泣いたと知ったら、心配性の従者にまた心配されかねない。
並んで空を見上げながら、ヴィルがふいに口を開く。
「アルバート様。」
多弁な方ではなく、自ら口を開くことの少ない従者の言葉に、沢崎直は耳を傾けた。
「こんなふうに、昔、一緒に灯籠を飛ばしたことが何度かあるんですよ。」
ヴィルが感慨深そうに語り始めたのは、アルバートとの幼い頃の思い出だった。
沢崎直は記憶喪失の主人らしく、知らない昔語りにそのまま何も言わずに耳を傾け続けた。
「……アルバート様が姿を消される前にも、いつかまた行きたいとおっしゃられていて……。またこうして一緒に来ることが出来るとは思いませんでした。」
一年前のアルバートの失踪。それからのヴィルの主人捜索の日々。他にも、ヴィルは従者をクビになりそうだったこと。
沢崎直が異世界に来てから知ったアルバートとヴィルの主従の絆を思い、沢崎直の胸はギュッと締め付けられた。
灯籠はたくさんの願いを乗せてどこまでも上っていく。
沢崎直は色んなことを飲み込んで、ただ笑顔でヴィルに告げた。
「また一緒に来ましょうね。お祭り。」
「はい。ぜひ。」
その時、ヴィルの傍にいるのは沢崎直かアルバート氏かは分からない。
それでも、ヴィルが幸せそうにしてくれるなら、沢崎直はそれでいいとそう思った。
そのくらいヴィルがその時浮かべた笑顔は幸せで輝いていたからだ。
それから……。
結局、沢崎直は地道に地に足の着いた努力を続けていた。
冒険は近場での薬草採取を基本に、時々ギルドに通っている。
あの日以外は特におかしなこともなく、ただ採取した薬草をギルドに地道に納品する日々が続いている。そのことに沢崎直は大きな安堵を抱いていた。魔石を拾ったあの日のようなことが立て続けにあれば、沢崎直の柔な心臓では耐え切れず、冒険者を辞めていたかもしれない。
あの日に得た報酬は、沢崎直にとっては異世界での初任給にあたるので、お世話になった人に贈り物を買うことに使った。屋敷の人達や、師匠、それにヴィルにもである。あまり気を遣わせすぎないように消え物にしたのは、モブ女なりの気遣いであるが、ヴィルにだけはちょっとした身に着けるものを贈りたかったので、消え物とは別にその美しい黒髪を括るための紐を贈った。そのくらいのささやかな欲望くらいは、モブ女であっても容赦してほしいなぁと、ガチファンとして謎の遠慮と感想を心に抱いた。
剣も魔法も空手も乗馬も鍛練は続けていたが、目に見えての上達はない。
唯一、目に見えて変化があったとすれば馬のジョナサンとすごく仲良くなったことだ。
ジョナサンは初めから懐いてくれてはいたが、あの日から目に見えて慕ってくれるようになった。羽虫に襲われていたのを助けたおかげで、沢崎直のことを認めてくれたのかもしれない。
ちなみに、あれからはモンスターの目撃情報はなく、調査依頼も出されたが収穫はなかったようで、まだ完全ではないから警戒は必要だが、沢崎直のお気に入りの場所はほぼ安全ということになった。
モンスターが確認されない以上、師匠の出番はないらしい。
少しだけ警戒しながらではあるが、沢崎直はお気に入りの場所にジョナサンとヴィルと一緒に薬草探しに出かけられるようになった。
師匠の手土産の酒は未だに量より質のラインナップにしているが、そろそろ量を運んでもいいのかもしれないと沢崎直は思い始めていた。もちろん、ヴィルは手土産自体必要ないと思っているようである。
今日も強さを増した夏の陽射しを浴びながら、残念イケメン(inモブ女)の毎日は続いていく。
いつか来る終わりを思い、出来るだけ心残りのないように沢崎直は地道に一歩一歩大地を踏みしめて歩いていく。その一歩がどれだけ小さくても、歩みを止めることはない。
いつか何かが実を結ぶと信じて、転んでもまた起き上がるのだ。
他人から見ればそれがどんな無様でも関係ない。自分の実力と身の丈を知って、ささやかな幸せを求めるのがモブ女である。
上手くいかないことだらけでも、沢崎直は何とか前を向く。
沢崎直の傍らには推しがいてくれる。
その喜びを糧に、沢崎直は今日もその足で異世界を歩いていくのだった。
……あとは余談ではあるが、最後に追記しておく。
馬のジョナサンは沢崎直のことを生涯の主としてヴィルと同等の忠誠を誓うことになったが、それは沢崎直が自分の命を救ってくれたからに他ならない。
あの日、沢崎直が魔法拳・押忍(仮)で駆除した羽虫のようなモノこそ、目撃されたモンスターであったのだが、当人の沢崎直がそれに気づくことはなかった。
自分で倒したモンスターの魔石を沢崎直は自分で拾っただけなのだが、そのことを知るのはジョナサンのみであったし、ジョナサンが沢崎直にそれを伝える術は今のところこの世界には存在しないのだった。
二人の上げた灯籠がどんどん高度を増していき、豆粒ほどのサイズになる。
たくさんの灯籠が並んで高く上がっていく空は、本当に幻想的な光景だった。
あまりに幻想的な光景に、知らず知らず沢崎直の瞳が涙で滲む。
空を見上げていたおかげで、その涙が零れ落ちることはなかったのは幸いだった。泣いたと知ったら、心配性の従者にまた心配されかねない。
並んで空を見上げながら、ヴィルがふいに口を開く。
「アルバート様。」
多弁な方ではなく、自ら口を開くことの少ない従者の言葉に、沢崎直は耳を傾けた。
「こんなふうに、昔、一緒に灯籠を飛ばしたことが何度かあるんですよ。」
ヴィルが感慨深そうに語り始めたのは、アルバートとの幼い頃の思い出だった。
沢崎直は記憶喪失の主人らしく、知らない昔語りにそのまま何も言わずに耳を傾け続けた。
「……アルバート様が姿を消される前にも、いつかまた行きたいとおっしゃられていて……。またこうして一緒に来ることが出来るとは思いませんでした。」
一年前のアルバートの失踪。それからのヴィルの主人捜索の日々。他にも、ヴィルは従者をクビになりそうだったこと。
沢崎直が異世界に来てから知ったアルバートとヴィルの主従の絆を思い、沢崎直の胸はギュッと締め付けられた。
灯籠はたくさんの願いを乗せてどこまでも上っていく。
沢崎直は色んなことを飲み込んで、ただ笑顔でヴィルに告げた。
「また一緒に来ましょうね。お祭り。」
「はい。ぜひ。」
その時、ヴィルの傍にいるのは沢崎直かアルバート氏かは分からない。
それでも、ヴィルが幸せそうにしてくれるなら、沢崎直はそれでいいとそう思った。
そのくらいヴィルがその時浮かべた笑顔は幸せで輝いていたからだ。
それから……。
結局、沢崎直は地道に地に足の着いた努力を続けていた。
冒険は近場での薬草採取を基本に、時々ギルドに通っている。
あの日以外は特におかしなこともなく、ただ採取した薬草をギルドに地道に納品する日々が続いている。そのことに沢崎直は大きな安堵を抱いていた。魔石を拾ったあの日のようなことが立て続けにあれば、沢崎直の柔な心臓では耐え切れず、冒険者を辞めていたかもしれない。
あの日に得た報酬は、沢崎直にとっては異世界での初任給にあたるので、お世話になった人に贈り物を買うことに使った。屋敷の人達や、師匠、それにヴィルにもである。あまり気を遣わせすぎないように消え物にしたのは、モブ女なりの気遣いであるが、ヴィルにだけはちょっとした身に着けるものを贈りたかったので、消え物とは別にその美しい黒髪を括るための紐を贈った。そのくらいのささやかな欲望くらいは、モブ女であっても容赦してほしいなぁと、ガチファンとして謎の遠慮と感想を心に抱いた。
剣も魔法も空手も乗馬も鍛練は続けていたが、目に見えての上達はない。
唯一、目に見えて変化があったとすれば馬のジョナサンとすごく仲良くなったことだ。
ジョナサンは初めから懐いてくれてはいたが、あの日から目に見えて慕ってくれるようになった。羽虫に襲われていたのを助けたおかげで、沢崎直のことを認めてくれたのかもしれない。
ちなみに、あれからはモンスターの目撃情報はなく、調査依頼も出されたが収穫はなかったようで、まだ完全ではないから警戒は必要だが、沢崎直のお気に入りの場所はほぼ安全ということになった。
モンスターが確認されない以上、師匠の出番はないらしい。
少しだけ警戒しながらではあるが、沢崎直はお気に入りの場所にジョナサンとヴィルと一緒に薬草探しに出かけられるようになった。
師匠の手土産の酒は未だに量より質のラインナップにしているが、そろそろ量を運んでもいいのかもしれないと沢崎直は思い始めていた。もちろん、ヴィルは手土産自体必要ないと思っているようである。
今日も強さを増した夏の陽射しを浴びながら、残念イケメン(inモブ女)の毎日は続いていく。
いつか来る終わりを思い、出来るだけ心残りのないように沢崎直は地道に一歩一歩大地を踏みしめて歩いていく。その一歩がどれだけ小さくても、歩みを止めることはない。
いつか何かが実を結ぶと信じて、転んでもまた起き上がるのだ。
他人から見ればそれがどんな無様でも関係ない。自分の実力と身の丈を知って、ささやかな幸せを求めるのがモブ女である。
上手くいかないことだらけでも、沢崎直は何とか前を向く。
沢崎直の傍らには推しがいてくれる。
その喜びを糧に、沢崎直は今日もその足で異世界を歩いていくのだった。
……あとは余談ではあるが、最後に追記しておく。
馬のジョナサンは沢崎直のことを生涯の主としてヴィルと同等の忠誠を誓うことになったが、それは沢崎直が自分の命を救ってくれたからに他ならない。
あの日、沢崎直が魔法拳・押忍(仮)で駆除した羽虫のようなモノこそ、目撃されたモンスターであったのだが、当人の沢崎直がそれに気づくことはなかった。
自分で倒したモンスターの魔石を沢崎直は自分で拾っただけなのだが、そのことを知るのはジョナサンのみであったし、ジョナサンが沢崎直にそれを伝える術は今のところこの世界には存在しないのだった。
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