刺青将軍

せんのあすむ

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五 華一掬 1

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 さても開封は、早馬が報せた再びの勝利に沸き立った。かの四代目皇帝、仁宗などは飛び上がらんばかりに喜んで、

「今回の戦いに参加した兵士たち全員に、たんと褒章をはずめ。惜しんではならぬ。でなければこの後、狄青のような人物は出てこなくなるぞ」

 と左右へ言ったほどであったという。

 その「褒章」を報せるには、彼の知っている人物が一番であろうということで、韓琦が出迎えを兼ねて、先だってと同様、宮城門へ行くことになった。

(科挙を経ていない人間が、ついに枢密使になったか)

 今回、狄青に与えられた位は、現在の韓琦と同位である。簡単に言えば、副宰相から宰相に出世した、ということになろう。

(私は一体、喜んでいるのか、残念がっているのか)

 街のみならず、宮中全体が浮かれ騒いでる中を、韓琦は門へ向かいながら苦笑しつつ、(己も当然喜ぶべきである)と自分に言い聞かせている。だが、

(向後、彼が負うであろう困難については、私の関知するところではない)

 とも、冷静に思っている。

 勝利に浮かれた街の喧騒のほとんどは、軍部の人間が繰り出した酒場や食堂から発せられたものだ。日常勤務の間に与えられた小憩中、それらの店に寄った兵士たちは、

「今回の戦いで功を上げたのは、俺達と同じ刺青者だ」

「かの刺青将軍は、文官の奴らが誰も出来なかったことを、あっという間に成功させたのだ」

 昼日中から大声で語り笑い、かつ飲み食いしては、

「結局、文官の奴らなんぞ、戦いにおいては、てんで役立たずだということさ」
 
 堂々と言うまでになっていた。

 事実なのだから、文官のほうとて言い返す言葉が見つからない。実際に、兵士たちがたむろしてる酒場を通りかかった折、

「見ろ、役立たずが行くぞ」

 などと野次られているのを、韓琦も見た。

 さすがの兵士たちも、最高官史である韓琦には面と向かって罵らぬ。だが、軍部においては、上官である文官の命令を聞かぬ兵士が出てきたらしいことを彼は知っていた。

 自分へそのような愚痴をこぼしに来た官僚のことを思い出して、

(彼らの気持ちも分からないではないが)

 門の屋根の下でぴたりと足を止め、韓琦はわずかに苦笑する。

 これまでは、文官が散々兵士たちを軽んじ、蔑んできたのだ。それに対する不満が今回のことで一気に吹き出してしまったのだろう。

 韓琦が残念がっているのはまさにそのことについてであり、

(彼は成功しないほうが良かった)

 成功するにしても、一度くらいは大負けしてから、兵士たちの力を借りて辛くも勝った、という形になればよかった、と、彼は思った。

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