ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

文字の大きさ
51 / 83

大事なご用事

しおりを挟む
王立図書館の蔵書は、さすがの量だった。

私はページをざっと見るだけで内容が頭に入ってくるから一冊を読むのに時間は掛からないけど、それでも数が多いから全部は読みきれないかもしれない。

それに、小さいアーストンにとっては私達のしていることはさすがに退屈で、彼には絵本を読んでもらってたんだけど、それにも飽きてくると、

「な~! な~! 遊ぼうよ~!」

ライアーネにしがみついて言い出して。

「ごめん、ごめんね、ママは今、大事なご用事してるから」

そんな風に言って小さいアーストンを納得させようとするんだけど、小さい子供がそんな大人の理屈を理解してくれるわけがない。

するとトーマが、

「アーストン、俺が剣の稽古をつけてやろうか?」

と訊くんだけど、

「やだ! ママがいい!」

ってライアーネに抱き付いてしまって。そこでトーマは、ライアーネに向き直って、

「仕方ない。ライアーネ、本の方は俺がやっとくから、アーストンの相手をしてやってくれないか?」

と口にした。それに対してライアーネは、

「でも、それじゃ……」

少しでも早く手掛りを掴みたい気持ちが見える様子で口にする。だから私は、

「私は別に急いでないから。時間はたっぷりあるよ。だけどアーストンにとっては、母親との時間は今しかないんだ。私よりアーストンを優先するべきだよ」

って告げさせてもらった。自然とそう口に出た。

ジルは、私の隣にいるとすごくおとなしくしてる。それはたぶん、必要ない時にはじっとして無駄に力を使わないようにして、少しでも食べたものを長持ちさせようっていう、<生き延びるための習慣>なんだろうな。

そうしないと、いつ食べられるか分からなくて、死ぬかもしれないから。

だけど小さいアーストンは、ちゃんと、両親も揃ってて守られてて、ジルみたいな習慣を身に付ける必要がなかった。

だったら、それでいいと思う。せっかく守ってもらえる環境があるんなら、その中で生きられるうちは生きたらいいと思うんだ。

いずれは小さいアーストンも大人になって、今度は自分が誰かを守る立場になるだろう。その時に、自分がちゃんと守ってもらえてたっていうのがあれば、今のトーマやライアーネと同じことができるんじゃないかな。

人間はそうやって、世代を重ねていくんじゃないかな。

私は死ぬことのない滅びることのない魔法の人形だから人間みたいにはする必要もないから、余計に客観的な立場で見られるんだって気がする。

私の言葉に、

「ごめん、じゃあ、そうさせてもらうね」

ライアーネは小さいアーストンを連れて外に出ていったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...