ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

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ここのルールに従えないなら

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『もう長くねえんだ』

常連客の一人の言ったことは、私にもすぐに分かった。店主は、日を追うごとにやつれていったんだ。

私達は今後のことも考えてここで一旦、金をまとめて稼いでおくことにしてた。だから『最後まで』とはいかないかもしれないけど、できる限りは付き合ってもいい。

「いてて……!」

店主は、仕事中にもそう呻いて腹を押さえてうずくまる。すると常連客達が、

「ああ、ああ、俺達は自分で勝手にやらせてもらうからよ、じいさんは休んどけ」

「そうそう。もう歳なんだからよ。無理すんな」

常連客達は皆、店主に残された時間が少ないことを察しているみたいだった。

でも、それを見た新参者が、

「なんだぁ? ここじゃ客にやらせんのかよ。それで金とろうってのか? ふざけんな!」

と声を上げると、

「ああ? ここにゃここのルールってもんがあんだ。てめぇみてぇなポッと出がごちゃごちゃ言うんじゃねえよ。おとなしく座ってろ!」

「舐めた口きいてっと俺達全員を相手にすることになるぜ!?」

常連客達がスゴむ。でも相手も、

「んだあ!? 群れなきゃ何もできねえ腰抜けが随分と大きな口叩くじゃねえか!?」

と引き下がらない。で、杯を床に叩き付けたもんだから、

「ここのルールに従えないなら出てってもらう…」

私も<店の用心棒>として、店側につく。

「んだあ!? このガキぃ!!」

明らかにまっとうな生き方をしてない<脛に傷を持つ身>と思しきその新参者は、自分の半分くらいの体格しかない私を見て一層居丈高になり、掴みかかってきた。

「はあ……やれやれ……」

判で押したみたいな分かりやすい反応に私は呆れつつ、その手を掴んで捻りあげつつ<雷撃>を食らわせた。

「ぎゃぴぃっ!!」

カエルみたいな悲鳴を上げつつ、そいつは私の前に膝を着く。雷撃で体が痺れて動かなくなったんだ。

「おとなしく飲んでるか、それが嫌なら出て行け。店のルールに従えない奴は<客>じゃない」

私はそう告げて手を離す。するとその新参者は、

「くそっ! ふざけんな! 客じゃねえってんなら金なんか払うか!!」

そう捨て台詞を残しながら店を出て行った。

普通の店なら<一見いちげんさん>も大事にして次も来てもらわないといけないかも知れないけど、この店はもう……

そんな私達を見て、店主は、

「なにやってくれてんだ、てめぇら! そんなことしてたら客が寄り付かねえだろうが! 店を潰す気か!」

とか言いながらも、その顔は笑ってた。

だから常連客達も、

「なに言ってんだ。元々ここは俺達常連がいるからもってるだけじゃねえか」

「そうだそうだ。俺達がいなきゃとっくに潰れてらあ、こんな店」

「確かに。酒は安物に水を混ぜて増やしてるだけだわ、料理はクソ不味いわでよ」

なんて、言葉とは裏腹な笑顔なのだった。

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