60 / 83
他人に自慢できない明かせない人生
しおりを挟む
ここに集まっている人間達は、店主を始め、皆、およそ他人に自慢できない明かせない人生を送ってきた者達なのは私にも察せられた。
ほとんどは家族もいない。もしくは家族にも見捨てられた者達なんだろうな。
でも、だからこそ、この店に集まって酒を飲んでくだをまいて、癒されるんだ。
そして、店主自身がそう。ここにいる人間達は家族みたいなものなんだろう。
こうして、一ヶ月後、営業中に店主は倒れ、そのまま息を引き取った。常連達に看取られながら。
「じいさん、ゆっくり眠れよ」
「天国で娘に会えるかな?」
「いやあ、どうだろ。娘が病気で苦しんでんのに酒飲みに行って、その間に死んでたんだぜ?」
「ああ、それで女房がブチ切れて家を出てってそれっきりだってんだから、行くのは地獄だろ」
「ま、それで言やぁ俺達だってたぶん地獄行きだし、じじいに先に行っといてもらった方が安心ってもんだな」
「でも、地獄って、そんな簡単に先に行った奴に遭えるほど狭えもんなのか?」
「言われてみたらそうだな。この世の奴の半分が地獄に行くとしても、この世より狭かったらすぐに溢れるだろ」
「確かに。ずっと昔からの奴もいるだろうしな」
「そう考えたら地獄ってのも変なところだよな」
「俺は、地獄で務めを果たしたら虫に生まれ変わるって聞いたぜ? だからどんどん虫に生まれ変わっていなくなってんじゃねえの?」
「虫かあ、それも悪くねえかもな。余計なこと考えなくて済みそうだし」
「でも、虫って酒飲めんのか?」
「酒が飲めねえのは辛えよな」
「俺はじじいと同じで酒の所為で女房子供に逃げられたし、やめられんならそれでいいよ」
なんてことを口々に言いながら、常連の一人が用意してたという棺に店主を収めてた。
そこに役人が来て、店主が死んだことを確認する。
でも、あからさまに面倒そうだった。もし、店主が病じゃなくて誰かに殺されたんだとしても、『病で死んだ』ってことにしそうな様子だった。
それだけ見限られてる者達なんだろう。確かに、医者も診てくれないかもしれない。
だけど、こうやって常連客達に見送ってもらえるだけ、この店主はマシなのかもしれない。野良子なんて、それこそ獣と同じ扱いだから……街の外に捨てられて、他の獣の餌になるだけだから。
そして店主は、私宛に手紙と給金を残してくれていた。こうなることを、店主自身、察していたんだろう。
『こんな老いぼれの店で働いてくれてありがとうな。そんなにもたねえかもしれないが、二ヶ月分の給金は出しとくからよ、受け取ってくれ』
「……」
その手紙と給金を手にして、私は店を出たのだった。
ほとんどは家族もいない。もしくは家族にも見捨てられた者達なんだろうな。
でも、だからこそ、この店に集まって酒を飲んでくだをまいて、癒されるんだ。
そして、店主自身がそう。ここにいる人間達は家族みたいなものなんだろう。
こうして、一ヶ月後、営業中に店主は倒れ、そのまま息を引き取った。常連達に看取られながら。
「じいさん、ゆっくり眠れよ」
「天国で娘に会えるかな?」
「いやあ、どうだろ。娘が病気で苦しんでんのに酒飲みに行って、その間に死んでたんだぜ?」
「ああ、それで女房がブチ切れて家を出てってそれっきりだってんだから、行くのは地獄だろ」
「ま、それで言やぁ俺達だってたぶん地獄行きだし、じじいに先に行っといてもらった方が安心ってもんだな」
「でも、地獄って、そんな簡単に先に行った奴に遭えるほど狭えもんなのか?」
「言われてみたらそうだな。この世の奴の半分が地獄に行くとしても、この世より狭かったらすぐに溢れるだろ」
「確かに。ずっと昔からの奴もいるだろうしな」
「そう考えたら地獄ってのも変なところだよな」
「俺は、地獄で務めを果たしたら虫に生まれ変わるって聞いたぜ? だからどんどん虫に生まれ変わっていなくなってんじゃねえの?」
「虫かあ、それも悪くねえかもな。余計なこと考えなくて済みそうだし」
「でも、虫って酒飲めんのか?」
「酒が飲めねえのは辛えよな」
「俺はじじいと同じで酒の所為で女房子供に逃げられたし、やめられんならそれでいいよ」
なんてことを口々に言いながら、常連の一人が用意してたという棺に店主を収めてた。
そこに役人が来て、店主が死んだことを確認する。
でも、あからさまに面倒そうだった。もし、店主が病じゃなくて誰かに殺されたんだとしても、『病で死んだ』ってことにしそうな様子だった。
それだけ見限られてる者達なんだろう。確かに、医者も診てくれないかもしれない。
だけど、こうやって常連客達に見送ってもらえるだけ、この店主はマシなのかもしれない。野良子なんて、それこそ獣と同じ扱いだから……街の外に捨てられて、他の獣の餌になるだけだから。
そして店主は、私宛に手紙と給金を残してくれていた。こうなることを、店主自身、察していたんだろう。
『こんな老いぼれの店で働いてくれてありがとうな。そんなにもたねえかもしれないが、二ヶ月分の給金は出しとくからよ、受け取ってくれ』
「……」
その手紙と給金を手にして、私は店を出たのだった。
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる