ラブレター ~追憶のププリーヌ~

せんのあすむ

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三人組の逃避行

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「なにこれ…どうなってるの?」

全然知らない道をとぼとぼ歩いてたら、おぶってた女の子が目を覚ました。「下ろして」って言うから下ろしてあげた。

「ここどこ? お屋敷は?」

そう聞かれたから、兵隊が屋敷に火を着けたから私がおぶって逃げてきたって説明した。そしたらその女の子は怒って、

「どうしてそんなことするの!? 屋敷に帰して! 私はあのお屋敷にいなくちゃいけないの!」

って言いながらまた泣き出した。

「なんだよこいつ。助けてもらって偉そうに」

海賊見習いの男の子が怒ってたけど、私はそんなに気にならなかった。

「帰りたいんだったら帰っていいよ。でも私はもうあの屋敷には行かない」

そう言って山の方に向かって歩き出した。女の子はしばらく迷ってたみたいだけど、結局、私たちの後についてきた。でもちょっと歩いただけで、

「疲れた。足が痛い。もう歩けない」

って文句を言い出した。

「何だこいつ? これくらい歩いただけで文句とか、どこのお姫様だよ」

海賊見習いの男の子は全然平気そうだった。私は人形だから疲れるってことがないから平気だった。仕方ないからまた私が女の子をおぶった。

そのまま歩いてると女の子は今度は、

「お腹減った。何か食べるものないの?」

って聞いてきた。そしたら海賊見習いの男の子がすごく怒り出して、

「お前、いい加減にしろよ! 文句ばっかり言うんなら帰れよ!」

って怒鳴った。女の子は黙ったけど、またポロポロ涙を流して泣き始めた。泣き虫なメイドさんだなって思った。海賊見習いの男の子も、

「お前、メイドのクセにどんだけ根性なしだよ。よくそんなのでメイドとかやってるな」

もう怒ってるって言うより呆れてるみたいにそう言った。すると女の子が言い出した。

「私、メイドじゃないもん。ほんとは貴族の跡取り娘だもん」

だって。聞けば、ここの隣の隣の国の貴族の娘だったけど、国そのものが貧乏でやっていけなくて、他の国に助けてもらう代わりに王女様も含めて貴族の子供達までがそれぞれの国で働くことになったんだって。それでこの女の子はここの領主の屋敷で昨日から働き出したみたい。でも今まで働いたことなくて上手にできなくて怒られてばっかりでそれで泣いてたらしかった。大変だね。

だからほんとはあの屋敷にいなくちゃいけなかったんだけどこんなことになってどうしたらいいのか分からないみたい。山の中をかなり歩いてきて麓が見えるところに来たら、まだ屋敷のあたりが燃えてる感じだった。屋敷だけじゃなくてそれ以外にも広がってる感じかも。

その時、女の子が「下ろして」って言った。だから下ろしてあげたら茂みの中に入っていこうとした。この暗いところで人間がそんなことしたら危ないのにと思った。海賊見習いの男の子も「危ないぞ」って言って追いかけようとしたら「ついてこないで!」って怒られた。それで私も気がついて「トイレだと思う」って男の子に言った。

男の子が顔を真っ赤にして私にところに戻ってきた。船の中だと男の人しかいなかったもんね。私は人形だし。

しばらくして女の子が戻ってきた。靴下の片方がなかったら多分トイレのときに使ったんだと思った。人間ってほんとに不便だって思った。

女の子をまた背負って歩き出した。どこに向かってるのかも誰にも分からないけどとにかく歩いた。私は平気でも、さすがに海賊見習いの男の子も疲れてきてるように見えた。女の子は静かにしてるけど、もう喋る元気もないってことだと思った。

もしかしたらこのままじゃ危ないかもしれないって思い始めた時、山の中に灯が見えた。星の光とか月の光とかじゃない。確かに灯だった。

「あそこまで行ってみよう」

私は男の子に声をかけて歩いた。男の子も「おう…」と元気はなかったけど答えてくれた。

灯のところについたら、それは小さな家だった。とにかく何か食べ物を分けてもらえないかと思ってドアをノックした。

「ごめんください。ごめんください」

ドアが開くと、そこにいたのは優しそうなお婆さんだった。お婆さんは私たちの姿を見て驚いた感じだった。

「夜遅くすいません。道に迷ってしまって、何か食べるものをいただけませんか」

私がそう言ったら、お婆さんは家の中に入れてくれて、野菜のスープを出してくれた。海賊見習いの男の子とメイドの女の子はそのスープを食べた。

「子供らだけでこんな夜に山越えなんて、どうしてそんなことを?」

そう聞かれて私は、

「人買いから逃げてきたんです」

って言っておいた。と言っても、私はすごく立派なドレスを着てるし、女の子はメイド姿だし、男の子はいかにも下男って格好だし、信じてもらえなくても当たり前かなと思ってたのに、お婆さんは「それは大変だったね」って言って、「今日は遅いからここで休んでいきなさい」って言ってくれた。しかもちゃんとしたベッドまで貸してくれた。町に出て行った子供たちのだって言ってた。

女の子はすごく疲れてたみたいですぐに寝てしまった。でもやっぱり泣きながらだった。だけど男の子は灯を消してから私に話しかけてきた。

「なあ、なんかおかしくないか…? あのお婆さん、親切すぎだろ。しかも一人でこんな山奥に住んでるとか。どうやって生活してんだよ」

私は人形だからそういうのよく分からないけど、人間がそう思うんだったらそうなのかもしれないと思った。

「だからあのお婆さんが何かしようとしたり、他に誰か来たって思ったら起こしてくれよ」

男の子はそう言って寝た。私が人形だってことをよく分かってる気がした。

もちろん私は寝なかった。寝ようと思えば寝られるけど、寝なくても平気だった。そしたら夜明けぐらいになって、外で人の話し声が聞こえた。小さい声でヒソヒソ話してたから内容までは分からないけど、男の人が何人もいてるのは分かった。

「起きて、誰か来た。起きて」

私は男の子に声をかけた。すると男の子はバッと飛び上がるみたいにして起きて、壁の隙間から外を見てた。

「ちくしょう、やっぱり兵隊だ。あの婆さんは多分、ここを通る奴らを見張るのが仕事なんだ。でもあの兵隊、俺たちがいた屋敷の奴でも、屋敷に攻めてきた奴でもないな。他の国の兵隊か? もう隣の国に来てたのかな」

そんなことが分かるとかすごい男の子だと思った。男の子は反対側の壁の隙間から外を見て、

「よし、こっちの崖にはさすがに兵隊もいないな。お前、ちょっと耳貸せ」

って言われて私は頭を近づけた。そして男の子に言われたとおり、シーツとか私が着てたドレスとか靴下とかをつなげて紐にするよう言ってきた。紐ができたらまだ寝てて起きそうにない女の子をベッドの下に押し込んで私も一緒にそこに隠れた。

男の子は崖になった方の窓を開けてそこから私と男の子で作った紐をそこから垂らした。でもその紐で逃げるんじゃなくて、柱をするすると登って天井に隠れた。そのまま待ってると、しばらくして部屋のドアが開けられた。入ってきたのはあのお婆さんじゃなくて兵隊だった。

「いない!? 逃げたぞ! シーツと服で紐を作って崖から逃げやがった!」
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