ズルいチート勇者なんか好きになってあげないんだから!

せんのあすむ

文字の大きさ
6 / 105

あれが、勇者……?

しおりを挟む
「ま、次からは気を付けな。戦場じゃ俺も気を付けてるけどさすがにプライベートな時間まではいつもいつも見てられないしよ」
 厭味ったらしくするりと剣を操って鞘に収めたドゥケを、私はギリギリと歯を食いしばりながら睨み付けてた。
 と、次の瞬間、私の目の前にドゥケの顔が来てた。それと同時に私の唇に何かが触れる感触が―――――
『…っ!?』
 唇だった。ドゥケの唇が私の唇に……!
 それに気付いて体を除けようとしたけど、疲れ切った私の体は腰が抜けたみたいにその場に崩れ落ちてしまった。しかもドゥケに支えられながら。
 チャラチャラヘラヘラしたそいつの腕が私の体を支えてることに気付くと同時に、まるで太い大木に寄り掛かったみたいな感触があった気がした。ドゥケの腕は、私の体の重みを完全に受け止めて全く動かなかった。それがどれほどのことか、さすがに私にも分かった。
 それを理解した私の背筋を、冷たいものが奔り抜ける。それは、途方もない力の差を思い知らせるものだった。先にそれに気付いたことで、唇を奪われたことは頭から吹っ飛んでた。
『な…何なのこいつ……!? 人間じゃない……!?』
 そう感じるほどのものだった。私達がどんなに鍛えても辿り着けない境地にこいつがいることを感じてしまった。
 それからようやく唇を奪われたことを思い出して、今度はカアッと顔が熱くなった。初めてだった。初めてだったのに……!!
「―――――!!」
 怒ると言うより、勝手に涙が溢れてた。怒鳴りつけてやりたかったのに声は出ず、私は力の入らない脚で何とか地面を踏みつけて、その場から走り去った。
「どうしたの?」
 自室に戻ると、同室の騎士団員達が私を見て言った。
「何でもない…!」
 唇を何度も拭いながら私はそう言って、着替えを手に取って湯あみ場へ向かった。何度も頭から湯を被って唇を洗った。
『汚らわしい汚らわしい汚らわしい……っ!!』
 あいつの唇の感触を消したくて何度も洗うのに、それは消えてくれなかった。悔しくて悔しくて泣けてきて、咄嗟にぶん殴ってやれなかった自分が情けなくてまた涙がこぼれた。
『許さない許さない許さない…っ!!』
「絶対に許さない……っ!!」
 ……でも、許さないといくら頭で思っても、私の体は覚えてた。あいつの腕に支えられた時に感じたものを。あれは人間では絶対に勝てないものだと心底感じた。<初めて>を奪われたことを理由にあいつに戦いを挑もうとか考えるだけで、体が勝手に震えだしてしまう。
『あれが、勇者……?』
 あれほどの境地に達しないと、魔王軍を退けることはできないの……?

 湯を浴びてるのに、私の体が冷え切っていくのを感じてたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...