ズルいチート勇者なんか好きになってあげないんだから!

せんのあすむ

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駄目だ…勝てない…

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『ドラゴンに遭遇したらとにかく逃げろ。逃げきれなかった時は? 死ぬだけだ』
 それが、国王陛下から農民の老人までが子供にドラゴンのことを諭す時に言うことだ。人間が立ち向かってもまったく勝てる相手じゃない。
 当然だ。相手は雷霆や暴風と同じ<災害>なのだから。雷や暴風相手に立ち向かって何ができると言うのか。
 ブレスを使われたらそれこそ一瞬で全滅する。なのに、そのドラゴンは何かを探すように私達一人一人を睨み付けるだけだった。取り敢えず今のところは。
『誰かを探してる…?』
 私が殆ど思考力を失った頭のどこかでそんなことを思った時、
「どこを見てる! こっちだこっち!!」
 と声を上げる者がいた。思わずそちらに視線を向けた先にいたのは、ドゥケだった。ドゥケが剣を左右に振り、ドラゴンを挑発するように叫んだんだ。
 ドゥケを見たドラゴンは「ガア…!」と僅かに唸り声をあげて牙を剥いたけど、すぐに襲い掛かることはしなかった。
『…え? 狙いは勇者じゃないの……?』
 私がそんなことを思った瞬間、ドゥケが剣を奔らせて宙を薙ぎ払った。その剣先から迸った<力>が、ドラゴンの首を襲う。
 なのに、ギィン!と耳が裂かれるみたいな鋭い音と共に、<力>が弾かれて散るのが見えた。この世のどんなものよりも硬くて強靭と言われるドラゴンの鱗が、魔王軍を一振りで薙ぎ払うドゥケの<力>さえ弾き返した。
『駄目だ…勝てない……』
 その光景を目の当たりにした者は皆、そう思ったに違いない。ドラゴンを挟んで私のほぼ正面にいたライアーネ様さえ、絶望しか感じ取れない表情を松明の灯りに浮かび上がらせてたし。
 でも、ドゥケだけは怯まなかった。
「一発じゃ駄目なら、通るまでやるだけだ!!」
 すかさず剣で再び宙を薙ぐ。だけど、そこから迸った<力>はドラゴンの鱗に弾かれる。
「まだまだぁっ!!」
 そう叫びながら、三度四度とドゥケは<力>を放った。善神バーディナムから授かったそれを。
 それでもドラゴンはまるで風を浴びてるだけのように平然としながら、やっぱり何かを探すように頭を巡らせていた。
『いったい、何を探してるの…?』
「はああ…!!」
 と力を溜めてさらに強い一撃を放とうとしてるドゥケからは目を逸らしたドラゴンの目が、ギュッと絞られるように細くなった。そして口元が笑みを浮かべるように吊り上がり、恐ろしく鋭い無数の牙が覗く。
 汗から何から体中からいろんなものが漏れそうになりつつ「え?」とドラゴンが向けた視線の先にいたのは、
「ポメリア…?」
 だった。
 そしてドラゴンの巨大な右手が、ポメリア目掛けて伸ばされたんだ。

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