転生したし死にたくないし

雪蟻

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第2章 学院の中でも準備です

契約

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惨状と呼ぶに相応しかった調理場は、どうにか綺麗にし、サンドイッチをわたくしとアリアのサポートなしで作れるようになるまで必死に教えこんだ。
ええ、それはもう必死に。
これで、当日はあの子達でどうにかできるはず。
……はず。

そんな事は棚の上にでも置いて、あの時の魔獣の行動が何を意図したものなのか調べませんと。
人間より知性が高いなんて言われてる生き物が、意味もなく噛んできて、挙句にその傷をヒールで治すなんて面倒なこと、しないはずなのだ。
「ティアラ様、魔獣関連の本を読み漁るのもいいですけれど、ポーズだけでもお弁当の準備をしてもいいと思いますが」
「嫌よ、時間の無駄じゃない。せっかくじっくり調べられるのよ? 調べ尽くさないともったいないじゃないの」
そんなこんなで調べて分かったことは、あの行動でありえる可能性が二つだということ。
一つ目は、呪い。
噛んだ際に魔力を流し込み、傷を塞ぐことで魔力を閉じ込めて、じわじわと毒のように命を蝕んでいくという遅効性の呪い。
二つ目は、仮契約。
主として、認めてやってもいいと気に入った人間に印を刻む。
今回は十中八九後者であろう。
もし呪いならわたくしは、体調を崩しているはずである。
ただ、まだ印を付けられただけに過ぎない。
正式に成立させるには、こちらから印に魔力を流し、直接魔獣と交渉する必要がある。
どうやら魔獣は、わたくし達人間と言葉を交わす術があるらしい、気にはなるが、1人でいる時にやるべきだろう。
印を刻まれたのはわたくしだ。
わたくし以外とは、言葉を交わす気はないかもしれない。
それだけならいいが、もし、わたくし以外はどうなってもいいと思っていたら、それこそ大変なことになる。
機嫌を損ねて学院が更地になる可能性だってあるのだ。
慎重にやらなくてはならない。
今は、1人になれる夜まで、見落としがないように魔獣のことを調べ尽くすことにする。

夜になり、アリアが自室に戻ったことを確認して印に魔力を込める。
思念というのだろうか、湖のイメージがよぎった。
たぶん、来いということだろう。
何かと縁のある場所になりつつある気がする。

魔法も使い誰にも気づかれていないことを確認して湖に来た。
そこには、見えるところには何もいなかった。
「よく来たな、人間の娘。まずは力を示してもらおう」
突如聞こえてきた声の後、あの時も見た雷の槍が大量に襲ってきた。
障壁を作り受け止める。
どうせすぐに壊れるので、何枚もの障壁を作り、こちらから衝突させる。
「アサルトシールド」
そのまま攻撃を粉砕する勢いで、障壁で押し返す。
「魔法の練度は想像以上だな。よかろう、汝を主と認めてやってもいいだろう」
「わたくしに印を刻んだのは、あなたではないはずですわ」
わたくしにイメージを伝えてきた子と、雰囲気が違う。
明確な言葉にはできないけれど、違うと断言出来る。
「ほう? なぜそう思う」
「あなたの雰囲気は、受け止めてくれる強さを感じますが、わたくしをここに来るように伝えてきたイメージから感じた雰囲気は、受け止めるのではなく、受け入れてくれる、包まれるような柔らかな雰囲気でしたわ」
だからこそ、今目の前にいるであろう魔獣は、わたくしに印を刻んだ子とは別の魔獣だと言い切れる。
「相変わらず、あのお姫様は勘が鋭い」
「なんの話ですの?」
お姫様?
どういう意味でしょう。
「だから言ったでしょう? 仕えるに値する者だと」
困惑していると、闇の中から一人の女の子が現れた。
見た目だけなら、わたくしと大差ない、年齢に見える。
「どちら様かしら?」
「本気で問うておりますか? 」
たぶんあの時の魔獣だと推察できる。
しかし、そうだとすると魔獣は人間には到底到達できない域まで魔法を扱えることになる。
「いいえ、ただ確信がなかっただけですわ」
「ふふ、私達は基本的に人の姿にはなりません。魔力の無駄ですから、資料などにも記されてはいないでしょう。確信がないのは当然です」
やはり、魔法で姿を変えているようだ。
人間の使う魔法で似たことが出来るものがある。
固有魔法 ートランスー
術者の体を一時的に作り替え、別の生物になる魔法。
無機物にはなれない代わりに、空想の生き物にも姿を変えられるらしい。
魔獣からすると、魔力の無駄程度の魔法のようだが……
「それではなぜ、その魔力を無駄にしてまで人の姿になっているのかしら?」
「この姿の方が、貴女は話しやすいでしょう? それに私は、貴女に生涯仕えるつもりなのですから、人の姿の方が効率的です」
そう言われると確かに、効率が良いだろう。
「でも、わたくし仕えてもらう程のことをした覚えがありませんわよ?」
「ふふふ、貴方にとってはそうでしょうね」
相手の方がわたくしなんかより、遥かに上の存在にも関わらず、格下のわたくしに仕えてくれるというのが分からない。
そして、この魔獣は何故かを答えてはくれない気がする。
ならわたくしに出来るのは、何故と聞くことではなく、どうなって欲しいのかを聞くことだろう。
「では、私に求めるものは何かしら? わたくしより遥かに強いあなたが、なんの見返りもなく仕えてくれるとは思えませんわ」
「ええ、もちろんただではありませんよ。求めるのはただ一つ、強くなってください。魔獣と呼ばれる私達と戦えるほどに」
魔獣同士でも争いがあるということだろう。
あの時怪我をしていたのは、他の魔獣との争いの結果だったと考えると納得も行く。
人間に、魔獣を圧倒する力などないのだから。
「なぜ、あなた達からすれば脆弱のはずのわたくしに戦って欲しいんですの?」
「ひとつ、魔獣である私に回復の魔法を使えたこと。ふたつ、私の攻撃を初歩的な障壁魔法で防いだこと。みっつ、気配を消していたはずの私の仲間を正確に捉えたこと。以上の点から貴女は私達と戦える素質を持っていると判断しました。それに、貴女はどこか、いえ、これは言わないでおきましょう」
詳しくは語らない、必要以上の情報は与えない。
どうも、わたくしを試しているような気がする。
「人間を巻き込んだ大きな争いが起こりかねないから、戦えるようになれということかしら?」
「いいえ、既に起きております。私達は自衛が出来ればそれでいいのです。そのためには、貴女のような人間が必要です」
既に人を巻き込んだ魔獣同士の争いが起きていて、わたくしのような人間が必要。
難問だわ。
「今日はここまでにしましょう。契約は正式に交わしましょうか、貴女に全てを捧げ、貴女をこれまで以上に強くしてあげます。さしあたっては、明日また夜に1人でこの場所に来てください」
そう告げると、闇に溶けるように消えていった。
明日から、修行ということだろう。
怖いが、楽しみでもある。
なにせ、人より高度な魔法を学べるかもしれないのだ、わたくしの目的にも合致する。
明日の夜が今から既に楽しみだ。
さしあたってはーー
「戻って寝ましょう、明日に響いてしまいますわ」
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