転生したし死にたくないし

雪蟻

文字の大きさ
24 / 48
第2章 学院の中でも準備です

契約

しおりを挟む
惨状と呼ぶに相応しかった調理場は、どうにか綺麗にし、サンドイッチをわたくしとアリアのサポートなしで作れるようになるまで必死に教えこんだ。
ええ、それはもう必死に。
これで、当日はあの子達でどうにかできるはず。
……はず。

そんな事は棚の上にでも置いて、あの時の魔獣の行動が何を意図したものなのか調べませんと。
人間より知性が高いなんて言われてる生き物が、意味もなく噛んできて、挙句にその傷をヒールで治すなんて面倒なこと、しないはずなのだ。
「ティアラ様、魔獣関連の本を読み漁るのもいいですけれど、ポーズだけでもお弁当の準備をしてもいいと思いますが」
「嫌よ、時間の無駄じゃない。せっかくじっくり調べられるのよ? 調べ尽くさないともったいないじゃないの」
そんなこんなで調べて分かったことは、あの行動でありえる可能性が二つだということ。
一つ目は、呪い。
噛んだ際に魔力を流し込み、傷を塞ぐことで魔力を閉じ込めて、じわじわと毒のように命を蝕んでいくという遅効性の呪い。
二つ目は、仮契約。
主として、認めてやってもいいと気に入った人間に印を刻む。
今回は十中八九後者であろう。
もし呪いならわたくしは、体調を崩しているはずである。
ただ、まだ印を付けられただけに過ぎない。
正式に成立させるには、こちらから印に魔力を流し、直接魔獣と交渉する必要がある。
どうやら魔獣は、わたくし達人間と言葉を交わす術があるらしい、気にはなるが、1人でいる時にやるべきだろう。
印を刻まれたのはわたくしだ。
わたくし以外とは、言葉を交わす気はないかもしれない。
それだけならいいが、もし、わたくし以外はどうなってもいいと思っていたら、それこそ大変なことになる。
機嫌を損ねて学院が更地になる可能性だってあるのだ。
慎重にやらなくてはならない。
今は、1人になれる夜まで、見落としがないように魔獣のことを調べ尽くすことにする。

夜になり、アリアが自室に戻ったことを確認して印に魔力を込める。
思念というのだろうか、湖のイメージがよぎった。
たぶん、来いということだろう。
何かと縁のある場所になりつつある気がする。

魔法も使い誰にも気づかれていないことを確認して湖に来た。
そこには、見えるところには何もいなかった。
「よく来たな、人間の娘。まずは力を示してもらおう」
突如聞こえてきた声の後、あの時も見た雷の槍が大量に襲ってきた。
障壁を作り受け止める。
どうせすぐに壊れるので、何枚もの障壁を作り、こちらから衝突させる。
「アサルトシールド」
そのまま攻撃を粉砕する勢いで、障壁で押し返す。
「魔法の練度は想像以上だな。よかろう、汝を主と認めてやってもいいだろう」
「わたくしに印を刻んだのは、あなたではないはずですわ」
わたくしにイメージを伝えてきた子と、雰囲気が違う。
明確な言葉にはできないけれど、違うと断言出来る。
「ほう? なぜそう思う」
「あなたの雰囲気は、受け止めてくれる強さを感じますが、わたくしをここに来るように伝えてきたイメージから感じた雰囲気は、受け止めるのではなく、受け入れてくれる、包まれるような柔らかな雰囲気でしたわ」
だからこそ、今目の前にいるであろう魔獣は、わたくしに印を刻んだ子とは別の魔獣だと言い切れる。
「相変わらず、あのお姫様は勘が鋭い」
「なんの話ですの?」
お姫様?
どういう意味でしょう。
「だから言ったでしょう? 仕えるに値する者だと」
困惑していると、闇の中から一人の女の子が現れた。
見た目だけなら、わたくしと大差ない、年齢に見える。
「どちら様かしら?」
「本気で問うておりますか? 」
たぶんあの時の魔獣だと推察できる。
しかし、そうだとすると魔獣は人間には到底到達できない域まで魔法を扱えることになる。
「いいえ、ただ確信がなかっただけですわ」
「ふふ、私達は基本的に人の姿にはなりません。魔力の無駄ですから、資料などにも記されてはいないでしょう。確信がないのは当然です」
やはり、魔法で姿を変えているようだ。
人間の使う魔法で似たことが出来るものがある。
固有魔法 ートランスー
術者の体を一時的に作り替え、別の生物になる魔法。
無機物にはなれない代わりに、空想の生き物にも姿を変えられるらしい。
魔獣からすると、魔力の無駄程度の魔法のようだが……
「それではなぜ、その魔力を無駄にしてまで人の姿になっているのかしら?」
「この姿の方が、貴女は話しやすいでしょう? それに私は、貴女に生涯仕えるつもりなのですから、人の姿の方が効率的です」
そう言われると確かに、効率が良いだろう。
「でも、わたくし仕えてもらう程のことをした覚えがありませんわよ?」
「ふふふ、貴方にとってはそうでしょうね」
相手の方がわたくしなんかより、遥かに上の存在にも関わらず、格下のわたくしに仕えてくれるというのが分からない。
そして、この魔獣は何故かを答えてはくれない気がする。
ならわたくしに出来るのは、何故と聞くことではなく、どうなって欲しいのかを聞くことだろう。
「では、私に求めるものは何かしら? わたくしより遥かに強いあなたが、なんの見返りもなく仕えてくれるとは思えませんわ」
「ええ、もちろんただではありませんよ。求めるのはただ一つ、強くなってください。魔獣と呼ばれる私達と戦えるほどに」
魔獣同士でも争いがあるということだろう。
あの時怪我をしていたのは、他の魔獣との争いの結果だったと考えると納得も行く。
人間に、魔獣を圧倒する力などないのだから。
「なぜ、あなた達からすれば脆弱のはずのわたくしに戦って欲しいんですの?」
「ひとつ、魔獣である私に回復の魔法を使えたこと。ふたつ、私の攻撃を初歩的な障壁魔法で防いだこと。みっつ、気配を消していたはずの私の仲間を正確に捉えたこと。以上の点から貴女は私達と戦える素質を持っていると判断しました。それに、貴女はどこか、いえ、これは言わないでおきましょう」
詳しくは語らない、必要以上の情報は与えない。
どうも、わたくしを試しているような気がする。
「人間を巻き込んだ大きな争いが起こりかねないから、戦えるようになれということかしら?」
「いいえ、既に起きております。私達は自衛が出来ればそれでいいのです。そのためには、貴女のような人間が必要です」
既に人を巻き込んだ魔獣同士の争いが起きていて、わたくしのような人間が必要。
難問だわ。
「今日はここまでにしましょう。契約は正式に交わしましょうか、貴女に全てを捧げ、貴女をこれまで以上に強くしてあげます。さしあたっては、明日また夜に1人でこの場所に来てください」
そう告げると、闇に溶けるように消えていった。
明日から、修行ということだろう。
怖いが、楽しみでもある。
なにせ、人より高度な魔法を学べるかもしれないのだ、わたくしの目的にも合致する。
明日の夜が今から既に楽しみだ。
さしあたってはーー
「戻って寝ましょう、明日に響いてしまいますわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

処理中です...