転生したし死にたくないし

雪蟻

文字の大きさ
34 / 48
第3章 独立領土 小国ティアラ

真なる契約

しおりを挟む
敵を殲滅し、一時の平穏を得た。
当然だがアリアを丁寧に埋葬し、安らかに眠ってもらうことにした。
しかして、悲しんでいる暇はない。
いや、そもそもわたくしの判断ミスによるものなのだ、わたくしに悲しむ資格はない。

その後わたくしは、この土地の防御を固めることにした。
要塞とまではいかなくとも、毎回中まで侵入されても困る。
なにより、今回こちらの被害は子供一人、確実に次は、軍の規模でお出ましとなるだろう。
追い返すにしろ殲滅するにしろ準備が必要だ。

そうして、ある程度の準備が整った時、魔獣からある提案をされた。
今回の敵がどのような存在か知るつもりがあるなら、さらなる力を得る術を教えるとの事だった。
二つ返事で、わたくしは今、魔獣達の本当の拠点へと来たのだった。

「随分と人間的な拠点ですわね」
「ええ、作り替えましたので」
わたくしに合わせてということだろう。
「それで、一連の騒動の先にいるのはどの国なんですの?」
ユース帝国を効率的に獲得し、これだけの短期間にそれなりの規模による襲撃、個人でどうにかなるものでなく、それなりに大きな組織でなくては説明がつかない。
何より、魔獣をけしかけられるのだ、国ないし、国に匹敵する組織が今回の裏にいるのだ。
「魔導騎士の国、名前はありませんね」
「聞いたことがありませんわね、どういった国なんですの?」
名前の響きからするに、魔法を駆使する騎士のようだが、その程度ならどの国にもいるはずだ。
「私達と敵対しております魔獣達と契約し、多種多様の魔導兵器を作り上げ着々と力をつけている国です。現状あちらの一般的な兵の力で私達魔獣と余裕を持って渡り合える程度の力があると思っていただけたら、その脅威が分かると思いますが」
脅威なんてものでは無い。
本来魔獣とは、人間など歯牙にもかけない程の差があるのだ。
それを一般の兵程度で相手取るとなれば他国としては末恐ろしい国となる。
「それが本当ならば、その国がその気になればユース帝国とは比べ物にならないほどの強国となりますわね」
むしろ、頂点となり他国を支配するようになるだろう。
「ええ、それ故に私達はあの国と戦う術を欲していたのです」
「それが、わたくしとの契約に繋がってくるのでしょうけれど、人と契約してどんな利点が貴女達にあるんですの?」
さらなる力とは、わたくしだけでなく魔獣達にも利点があるはずだ。
そうでないと、力を欲しているのに足でまといを増やすような真似はしないはずだ。
「ただ契約するだけでは、私達になんの利点もありません。ただ、この契約には次の段階があります」
「次の段階? それは、どういうものなんですの?」
説明してくれた内容を整理すると、まず本契約を交わした段階で、契約した魔獣に対して絶対遵守の命令を下せるとのこと。
つまり、わたくしはその気になれば、この魔獣を好き勝手扱えるということである。
しかして、この絶対遵守の命令権を放棄することで、契約は次の段階へと進む。
そうすることで、魔獣は主が生きている限り死ぬことがなくなる、そしてこの状態で、主が死んだとしても、一緒に死ぬことはないとのことだ。
ここまで進めば、魔獣にとっては利点しかないと言えるだろう。
ただ、主であるわたくし側にも利点はある。
それは、3つの力のうちどれか1つを手に入れる事ができるというもの。

・魔獣の使う特殊な魔法を一つだけ使えるようになる

・身体能力の向上、並びに自然治癒能力の向上

・一つだけ特殊な魔獣武器と呼ばれる強力な武器を生成する

どれも人間離れした力を発揮できるようになる。
そしてさらなる先の段階として、同一化と呼ばれる終着を迎える。
これに関しては、濁されたので推測するしかないが、今は置いておこう。

「という事は魔導騎士の国というのは、この魔獣武器を大量に生成しているということですの?」
「いいえ、魔獣武器を生成したのは1度きり、何度も契約を交わして増やしたという訳ではありません。先程も言いましたが、魔導兵器です」
「その魔導兵器ですけれど、もしかして、魔獣武器を再現した兵器ではありませんの?」
考えたくもないが、一番しっくりくるのだ。
もし、魔獣武器をある程度でも再現出来た兵器を大量生産することができれば、他の国を圧倒する最強の軍事力を手に入れられる。
ユース帝国を欲したのは、強国としてのイメージ、そして、それ故のスケープゴート性だろう。
なんせ少数で攻めれば、他国は勝手に大軍をユース帝国に向ける。
その間に、本国から主力を送り込み、脆弱な守りとなった国を攻め落とす。
片手間でどんどん国を手に入れていくつもりなのだろう。
「ご察しの通り、あの国は魔獣武器を再現することに成功したのです。それ故、こちらだけでは対処できずに困っていたのです」
だからこそ、契約を結んでくれる相手を探していたのだろう。
魔獣を自由にできることに興味を示さないであろう相手を。
「それで、どうやったら命令権を放棄できますの? 早く済ませてしまいましょう」
「提案してる身としては、助かりますが本当に構わないのですか?」
やり方は簡単だった、ただ魔力を込め命じるだけ──
「解き放て」
特に何も起こることなく、契約は次の段階へと進んだ。
「本当にあっさりと放棄するんですね」
「必要ありませんもの」
3つの力のうち、どれかは必ず手に入れないといけないと言われたので仕方なく選択した。
魔獣の使う特殊な魔法。
わたくしが使えるのは、何度も串刺しにされたあの魔法。
仕組みも何も分からないけれど、念じれば使える便利な力なので気にせず使うことにする。
「私がいつでも貴女を殺せることを何も恐れないことが私には恐ろしいですね」
「どうかされましたの?」
何か言っていたような気がしたのだが、はぐらかされてしまった。
ただ、予測はできる。
この魔獣は、決して全てを語ってはいない。
わたくしが生きていれば、死なないという点は多分に嘘だ。
正確には、誰かに殺されなければ、だろう。
自分から殺す分はカウントされない、そう思っている。
でなければ、結局人間は足でまといにしかならないのだから。
この契約は、例え裏切られても構わないという意思表示、つまりあの魔獣はいつでも私を殺せる、そして殺したところで何一つ困らない。
これは本来、裏切らせないと命令を下した上でやるものだろう。
わたくしは、それをしなかった。
本当に必要なかったから、わたくしに必要なのは、あの国を滅ぼせる力、アリアを殺したあの国を殺す力。
別にそれは、わたくしがやり遂げる必要も無い。
この魔獣がやってくれるなら、それで構わないのだから──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

公爵夫人は命がけ!

保谷なのめ
ファンタジー
そこそこの家柄に生まれた平凡な貴族令嬢リディア。 そこへ突然、両親が持ってきた縁談相手は「冷酷無比」「人を喰らう」などと恐れられる、〝帝国の剣〟公爵キースだった。 領地へ嫁いだその翌朝。リディアは突如として思い出す——ここは自分が前世で書いた恋愛小説の世界。そして、リディアは本来のヒロインの相手役であるキースの〝死別した元妻〟キャラだったのだ! このままだと『物語』が開始する2年後までに死んでしまう!その運命を変えるため、リディアは作者としての知識と、彼女自身の生きる意志を武器に抗い始める。 冷酷と噂の夫との距離も、少しずつ近づいて――? 死ぬ運命の〝元妻〟令嬢が、物語をぶっ壊して生き残る!運命改変ファンタジー! 小説家になろう、カクヨムでも更新中です。https://ncode.syosetu.com/n1631ku/ 1日1話、毎日更新です!

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...