転生したし死にたくないし

雪蟻

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番外(単発)

自由気ままに

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「殿下の御心のままに」
「さっさと消え失せろ」
それが、わたくしと殿下との最後のやり取り。
必死に頑張った全てが報われなかった。
そんな、断罪の一コマである。

わたくし、ティアラ・クレストは公爵家の令嬢である。
と言っても、学生の内は爵位を継ぐことが出来ないだけであり、領地経営は既にわたくしの采配で行っている。
本来は、王妃教育の一環で民に対して責任を持つということを自覚させるためのものだったが、思いのほか向いていたらしい。
王妃教育と言えば察することが出来るだろうが、わたくしの婚約者が王太子殿下なのだ。
と言っても、婚約を解消しようと思っている。
それというのも、わたくしたちの婚約は政略的なものであり、わたくしはともかく、殿下は好きでもない相手との婚約である。
それ故に、これまでのわたくしたちの仲が進展することはなかった。
愛のない結婚。
貴族として生まれたなら致し方ないこと。
殿下も割り切ってはいたと思う。
わたくしとしても、いずれ愛が芽ばえることもあるだろうと、割り切ってはいた。
もちろん、努力しなかったわけではない。
殿下の好みも把握しているし、殿下の求めている女性に近づこうと磨いてきたつもりだ。
ただ、努力ではどうにもならない事があっただけなのだ。
始まりは、貴族の子女が通う学院にとてつもない平民が編入してきたことから始まる。
薄い金色の髪に、緑の瞳。
小柄ではあるが、凛とした姿の美しい少女。
類を見ない程の魔力量に難病でさえ回復してみせる強力な癒しの魔法。
聖属性という非常に珍しい属性を持つ平民。
名は、リア。
平民のため家名はないが、その圧倒的な希少性により、陛下が後ろ盾となるほどの少女。
本来なら学院に通う事などできない身分ではあるが、その貴重な人材を失うわけにはいかず、特例で編入が認められた。
そして殿下はそんな彼女に恋をした。
ただの平民であれば、わたくしは注意したことだろう。夢を見るのはおやめ下さいと。
だが、リアは違う。
彼女は王族の仲間入りをしても良いだけの力を価値を持っている。
そう、わたくしの代わりに彼女ならなれる。
わたくしもそれなりの魔法の才はある。
水属性の魔法を持ち、よほどの大きな怪我でない限り治療することが出来る癒しの魔法に、水という自由度の高い魔法により攻撃も防御も出来、辺境伯に嫁いで国の防衛を務めるということもできなくはない程度には有用性はある。
それでも、リアと比べると見劣りするのだ。
これで、リアが嫌な子なら良かったのに、彼女はとても一生懸命で、可愛らしくて、憎めなかった。
幼少の頃より付き合いのあるはずの殿下の1度たりとも見たことの無い笑顔を引き出す彼女をわたくしは憎めなかった。
辛くて、泣いて、怒って、でも、憎めなかったのだ。
だって、リアは素敵な人だったから。
貴族のしきたりを知らず、理不尽に怒られても、覚えてみせるので教えて欲しいと頭を下げる子なのだ。
だから、わたくしは自分が辛くなると分かっていても彼女に手を差し伸べてしまった。
「学びたいのでしたら、わたくしが教えて差し上げます、これでも公爵家の一員です。誰にも文句を言わせない完璧な淑女にしてみせましょう」
リアは決して物覚えが良いわけでもなく、所作に関してもなかなか身につかなかった。
ただ、一生懸命なのだ。
諦めることなく、めげることなく覚えるまで頑張り続けるのだ。
だから、わたくしはより一層リアに教え込んだ。
そして、わたくしは恋を諦めることしたのだ。
「お父様、殿下との婚約を白紙に戻せないでしょうか」
「突然どうした、もしや、かの平民の女が──」
「リアはとてもいい子ですわ。わたくしが身を引く必要性を感じるほどに」
わたくしの説得に、父はかなり渋りながらも白紙に戻せるよう動いてくれることになった。
もちろん、わたくしも黙って待ってなどはいないが、王妃教育を受けていると言っても気軽に陛下にお目通りが叶うわけではない。
公爵令嬢と言えど、そこまでの力はない。
ただ、ある程度の人脈はあるのだ。
リアの有用性、殿下との関係、わたくしとの関係、この3点を的確に広げる。
婚約者を奪った平民などと言わせるわけにはいかない。
そんな努力のもと、わたくしの婚約は白紙になることが決まり、リアと殿下の婚約が密かに進められた。
そして、卒業を祝うパーティの中、わたくしはあらぬ罪を着せられ、婚約破棄を殿下より言い渡された。
大きな罪は、聖女とも言われるほどの心優しきリアを殺そうとしたというもの。
実際、彼女は何者かにより意識不明の状態にあった。
その犯人とされたのが、嫉妬に狂ったと噂のわたくしだ。
とは言え、かなり杜撰なものであったので、すぐに冤罪となるだろう。
簡単に騙される殿下もどうかと思うが、まだ修正は効くだろう。
そう思い、学園をあとにして、家の馬車に乗って帰路につこうとしたわたくしだったが、駆け寄ってきた子どもに対処が遅れてしまった。
でも考えてみても欲しい、せっかく恋心に蓋をして、身を引いて準備を進めていたら冤罪で婚約破棄などと言われるのだ、精神的に余裕がなかったのは仕方ないと思う。
「お嬢様?」
そんな声が聞こえた時に、わたくしは崩れ落ちた。
腹部にナイフを深く刺されて。

このあとの話はリアから聞いたものになる。
まず、わたくしを殺そうとした子どもは、かつてリアが助けた夫婦の子どもで、聖女様と呼んでリアを慕っていた少年だった。
彼は、そんな聖女様を殺そうとしたとされるわたくしが許せなかったそうだ。
わたくしは、その家族に支援として色々と動いていたのでかなりショックだった。
なにせ、両親がすぐに動けるようになった訳ではなかったのだ、領民でもあったので、子どものためにお金に関しても含めて色々と保証したのだが、まさか刺されるとは思っていなかった。
これもリアから聞いたのだが、わたくしが冤罪による断罪を受ける前に既に王都だけでなく、各領地にわたくしが醜い嫉妬で聖女様を害したと噂が流れていたらしい。
幸い、ほとんどの人が馬鹿らしいと取り合わなかったので、広がっている割に信じられてはいなかったとのこと。
だが、かの少年は信じてしまっていたようで、自分たちを助けてくれた領主様や聖女様と違ってなんて最低なやつなんだと、そんなやつは死んでしまえばいいと凶行に走ったようだ。
なかなか正確に、ナイフを突き立ててきたので、かなりの練習をしたのだろう。

「とまぁ、このような感じだったそうですよ、ティアラお姉様」
「わたくし、領主様だったはずなんですけど、それは?」
「ティアラお姉様と伝えられているのと、領主様と伝えられているのとでは、認識に齟齬が出ると思うんですけど」
まぁ、王妃になる予定の人間が、卒業と同時に女公爵になるだなんて思わないから仕方ないのかもしれない。
ちゃんと理由はあるのだが……
まず、わたくしが爵位を継ぎ、殿下と結婚すると当然、公爵家に空きができる。
もちろん公爵家を潰すわけにはいかない。
となると、誰かに継いでもらうわけだが、この時わたくしが継いでいることに意味が生まれる。
そう、わたくしが任命できるのだ。
条件付きではあるが。
その条件は、優秀であること。
わたくしの任命する後任が、公爵という爵位を継ぐに値する程の力を持つと認められて初めて任命できる。
ここで重要なのが、力を持てばいいということ。
つまり、身分は関係ない。
最も優秀である者に任せることが出来る。
それは平民であっても構わない。
とまぁ、そのような思惑があったのだ。
「ところで、良かったのかしら? 殿下のことを好きだったのでしょう?」
「もちろん、慕っておりました。ですが、やってしまった事の取り返しがつかないのです。もう殿下は王位を継承できませんし、既に王族からも外されています」
となると、必然的にリアは引き離される。
リアとは身分が・・・違う。
「そう…… 本当なら、貴女は王妃として迎え入れてもらえるはずだったのだけど」
「王妃にはティアラお姉様がなるべきですし、陛下もそのつもりでおられるとのことです」
そう、わたくしはあの後生死をさまよい続け、リアに引き戻され、第3王子殿下との婚約を結ぶこととなった。
第1王子殿下は、今回王族から外され、第2王子殿下は既に、隣国のお姫様の婿養子となっている。(当時、王位継承権を返上してそれが受理されていたため、国交をより強く結ぶためにも最適な政略結婚だった)
「とはいえ、公爵になるのは大変よ? 任命はできたけれど、前のように心のおもむくままにってわけにはいかなくなるのだから」
「ティアラお姉様の力になれるだけで構いません」
かくして、わたくしは結局王妃となり、リアは公爵となり聖女と慕われながら、わたくしの良き理解者として共に国を反映させていくことになる。

最後に王族を除籍された方の殿下の顛末だが。
王家に仕える黒い部分担当の皆様が然るべき処置をしたとのこと。
まだわたくしも知らされていないもの達である。
わたくしの愛した人はそうやって消えていった。
割り切れることは無かったとだけ告げておく。



───────────────
タイトルの自由気ままには、私の気分のことです。
ティアラ様の前世案の1つです。
本来なら、助からずに死んだ後、リアが聖女パワーでティアラ様の意識部分だけを引き戻し、使い魔として現世に定着させる。
なんてやり方をしたせいで、中身空っぽなティアラ様が転生してしまうという流れでした。
おのれ、リア、お前のせいで転生後のティアラ様がゼロから魔法を覚える羽目に!
ちなみに、こっちのティアラ様の刺された事件は、思わず反射的に反撃しようとしてしまい、子ども相手にそんな事するわけにはと、ブレーキとアクセルを同時に踏むような無茶をした結果、グサッと行った感じです。
反射に任せて反撃してると子どもが消し飛びます。
こっちのティアラ様も大概な程、強いのです。

P.S.
悪役令嬢的なもの書こうとしてた時の思いつきでもあったのでほんとはこれ長編予定だったんですよねー、と独り言を添えます。
続きません。
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