転生したし死にたくないし

雪蟻

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番外(単発)

2人のティアラ様

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それは、突然起こった。
目の前が光に包まれたと思ったら、見知らぬ場所にいた。
「ねぇ、フィア? ここがどこだか分かるかしら?」
「少なくとも、私の知っている場所ではありませんね」
フィアが知らないとなると困りましたわ。
なんせ、フィアは端から端まで世界を行き来していたはずですもの。
知らないということは、未開の地ということですわね。
「ところで、フィアから見てあれはどちらが悪そうに見えるかしら?」
「中隊規模で女性二人を追いかけ回している方が悪く見えますね」
んー、わたくしとしましては追いかけている方は国軍のように見えますので、もしかしたら追いかけられている側が大罪人の可能性もあると思っております。
「では、そちらに味方しましょう。蹴散らしますわよ」
「主様のお好きにどうぞ。手助けはどちらがお好みで?」
「同化する程じゃありませんわ。魔法を貸してくださいまし」
いつもの槍の他に雷撃の魔法を借り受け駆け抜ける。
「女性相手に随分と大人数ですのね、よほど相手が不足しているのかしら?」
「君のような少女が言うようになるとは、世も末だな」
ざっと見るに、この人が隊長でしょう。
身長はおおよそ2m程度。
身の丈程の大剣に威厳ある鎧。
視界を狭めるのを嫌ったのか兜はつけていない。
歴戦の猛者と言ってもいい風貌の男だ。
そんな彼が率先して前に出るということは、圧倒的力を持って殲滅する部隊ということ。
「どちらが悪い人なのか分かりかねますが、武力行使にしては大人気ない方を悪とみなしておきますわ。言い訳は聞きません立ち去りなさい」
しっかりと研ぎ澄ました殺気を向けておきますわ。
見た目小娘のわたくしでは、威力は半減というところでしょうけど。
ぷんすこー(可愛らしい女の子が以前やっておりました)みたいな微笑ましい感じになっていないことを祈りますわ。
「悪いが子どもであっても戦場にいる以上は殺す」
言うが早いか一気に距離を詰め、大剣を振り下ろす。
本来なら避けるのだが、今はこちらの強さを見せつける方が重要なので真っ向から槍で受け止める。
「驚きましたわ。かなり重い一撃ですこと」
少々、甘く見ておりましたわ。
魔導兵器でも、ここまでの威力のものはあまり見ませんわ。
「こんな所に出てくるのだから強いのだろうと思ったが、まさか正面から止めてみせるとはな」
受け止められたと見るや、すぐに引き下がり立て直すとは、やりますわね。
鍔迫り合いのようにしてくるかと思いましたのに。
そうしてくれたら、雷撃で感電死とかやれましたのに残念ですわ。
「わたくしこれでも最強の1人でしたのに自信を無くしますわ」
そのまま後ろの隊員の皆様を蹴散らそう。
加勢されたら困りますし、何より部下をかばいながらわたくしと戦うのはこの隊長さんでも無理でしょうから。
「させるか! エルシア行くぞ!」
『イエス、マスター。展開します』
なにやら不思議な声質の女性の声がしたかと思えば、串刺しにしてあげようと下から突き上げようとした槍が硬い壁に激突したようにひしゃげてしまいましたわ。
「あら、読まれてしまいましたわね。でも、そちらばかりに気をやっている余裕がおありかしら?」
今度はこちらから距離を詰めて、槍を振り下ろす。
突き刺してもいいのですけれど、この槍のいい所は、そうそう壊れないことですのよ。
「ぐっ、どこにそんな重みがあると言うんだ、少女の重さじゃないぞ」
「わたくしが見た目に反して、重いみたいな発言はやめてくださるかしら!」
心外だわ。
「エルシア、お返しだ」
『展開、爆熱方陣』
足元に赤い魔法陣とでも呼ぶべき紋様が浮かび上がったので砕く。
「予想するに、広範囲を高熱で包むのかしら? ならこんなのはどうかしら?」
空中に何百もの槍を出現させる。
「なっ! まずい」
「これだけ沢山いらっしゃるのですもの。狙いをつけなくても当たりますわ。貫け!」
もちろん、バッチリ狙いをつけているのですけれど。
この程度の人数なら簡単に狙えますわ。
『展開、守護方陣』
「余所見してられるのかしら?」
「卑怯な」
卑怯とは失礼ですわね。
殺し合いをしているのですもの。
勝った方が正義ですのよ。
「あら、中隊規模で女性を追い回していた方の発言とは思えませんわね」
「エルシア」
『生成、巨人の巨剣』
巨人のとつけておきながら巨剣とは、それはまた随分と桁外れの大きさの剣ですのね?
なんて、ふざけようと思ったらふざけたサイズの剣が降ってきた。
5本ぐらい。
「砕け散れ」
まぁ、でかいだけですので、壊しますけれど。
「くそが!」
「防がないと肉片になってしまうじゃありませんの」
それにしても、エルシアというのは、わたくしにとってのフィアと似たような存在であると判断できるのですけど、わたくしの知る魔法と大きく違う点がある。
それは、魔力が目に見えるという事だ。
「桁外れの魔力量に、流れるような強力な魔法。貴様どんな属性を持っている」
はて、属性とは何かしら?
と言っても、ここで素直に言っても拗れそうなので、それとなく誤魔化しておこうと思う。
「答える必要があるのかしら? それとも、弱点を教えてくださいと頼んでいるのかし──」
「やっと隙を見せたな」
首を締め上げるように掴まれて持ち上げられてしまった。
ほんの少し力を込められれば、たちまちわたくしの首は折れることだろう。
両手で掴んでいるところを見るに、エルシアとかいう存在は、なにも掴んでいる必要は無いということだろう。
「しゅく、じょに、みだりに触らないで、くれますかしら」
途切れ途切れに文句をつけつつ、広範囲に雷撃を放つ準備を整える。
「無駄だ、その程度ならエルシアの陣を砕く事など不可能だ」
エルシアとやらが、どんな魔法を駆使しているのか知らないが、この程度の障壁でわたくしの魔法を防ごうとは、舐められたものですわね。
消し炭にして差し上げましょう。
『マスター、退避推奨!』
「ぬっ!」
ついでとばかりに首をグキっとやられましたわ。
「けほっ、酷いじゃありませんの。首から下が動かなくなったらどうしてくれますの?」
それで固定されても魔法で体を動かすので問題は無いのだけどね。
とはいえ割と致命傷だったので治療を済ませておく。
「化け物め」
「それで、まだやりますの? 退却してくださるのなら、見逃しますわ」
そろそろ分が悪いと思って欲しいものである。
「ちっ、退却だ。これ以上こだわっても得るものは無い」
引き際を弁えている隊長で助かりますわね。
「何を戯けたことを、臆病風にでも吹かれましたか」
などと妄言を吐いていた1人の頭を吹き飛ばす。
「あらあら、避けることはおろか、反応もできない弱者がやけに強気ですわね? まだ同じ意見の方がおられるのでしたらもっと凄惨に殺して差し上げましょうか?」
隊長の判断に的外れな意見を述べるような役立たずは彼の部隊に必要ないだろう。
「まさか敵であるはずの君が憤るとはな…… 感謝する。引くぞ」
今度はすんなりと引いてくれた。
損失は役立たず1名のみ。
彼が首を切られる心配はないだろう。
「さて、それではあなた方の事情をお聞きしましょうか。まさか、断りませんわよね?」


話を聞いた事をまとめると、元婚約者の王太子が他国の王と結託し自らの国を手中に収め、聖女と呼ばれる彼女で色々と楽しもうと先の隊長の部隊を捕縛部隊として動かしたようだ。
王族の生き残りの第3王太子殿下を連れて再起を図る彼女達は無事にその殿下を逃がしたようだが、かの隊長が追いついたのだろう。
連れの女性がかなり強いようで、蹴散らしつつ逃げ続けていたが数の暴力には勝てず追い詰められていたところにわたくしがたどり着いた。
とのことである。
「それで、あなた方の名前はなんと仰るのかしら?」
「私がリアで、こちらがとある事情で私の使い魔をしてもらっているティアラお姉様です」
思い切り吹き出してしまったのは、仕方ないことだと思いますの。
「どうされましたの?」
使い魔のティアラお姉様とやらに心配されてしまった。
脳内でフィアが珍しく笑い続けているので、ちょっとイラッとする。
「いえ、知人と同じ名前でしたので驚いただけです」
自分と同じ名前の人が、同じような呼ばれ方をしているのは、なんとも不思議な気分ですわね。
「名乗らせておいてどうかと思いますが、わたくしのことはティーとお呼びくださいな」
ティアでは、ティアラお姉様の愛称である可能性が高いため、もっと縮めることにした。
「では、ティー様と」
「いえ、ティーとだけお呼びくださいませ。落ち着きませんので」
さすがに昔ならともかく、今は様をつけて呼ばれるほどの立場にない。
「じゃあ、ティーちゃんって呼んでも──」
「リア、そんな失礼なことをするように教えた覚えはありませんわよ」
どうも、このティアラお姉様はそれなりに高い地位にいるようである。
少なくとも伯爵以上の家の令嬢であるのは、確かだろう。
「構いませんよ、愛称に様付けされるより嬉しく思いますわ」
今まで1度たりとも愛称で呼ばれた事などないのだから、この機会をふいにするのは勿体ないのである。
「そうは言いますが、ティー様はかなり高位な貴族、或いは王族の方でしょう?」
「元王族ですわね、今は平民より下の身分ですわよ。税を収めているわけではありませんもの」
表舞台から去った後は、各地で色んな姿で暮らしてましたけど、定住はしてませんからね。
税金はすべてスルーしました。
その代わりに、盗賊団やらを壊滅させてましたので許してくださることでしょう。
「ティーちゃん誰に嵌められたの?」
「リア、失礼ですわよ」
ストレートに聞いてくるのは珍しいのですわね。
王族の時でしたら、指導するところですけれど。
「わたくしが、自主的に抜けたとは思いませんのね」
「ティーちゃんなら、王族として生まれたのなら最後まで責務を果たす気がしたのだけど」
リア様は、感覚を大事にしますのね。
「弟殺しの冤罪で国外追放になりましたのよ。もう全て解決済みですけれど、戻るべき国がもうありませんの。ですので、各地で悪党退治しながら旅をしておりますのよ」
突っ込まれる前にさらさらと事実を述べる。
嘘は言わない。
ただし、全部は言わない。
詮索されないように言うにはこれが一番なのだ。
「ごめんなさい」
「気にしないでくださいな」
実際、あの時は余計なことを考えている暇などなかったのよね。
「そう言えば、ティーちゃんって何歳なの?」
「見た目よりは生きてますわよ」
さすがに、だいたい120歳ですわね。
なんて言うと、ふざけていると思われるので言わない。
時に事実は、事実故に信じて貰えなくなるのだ。
「実は、20歳とかいうオチが」
「リア、いい加減にしませんと、怒りますよ」
それにしても、リア様とティアラお姉様はどういう関係なのかしらね?
「ところで、属性とはなんですの? わたくしの知っている魔法とかなり違うようなので混乱していたのですけれど」
「ティーちゃん、これに魔力を流してくれる?」
真っ黒な球ですわね。
刻印と同じで魔力を蓄えることが出来るのかしら?
「えっ、属性なし? ティーちゃんどうやって魔法使ってるの!」
「魔力を集めて、イメージを形にするというのが一般的ではありませんの?」
薄々思ってはいましたけど、わたくしの知っている常識外の場所ですわね?
「イマジナリーマジック」
「存在しないとは酷い言われようですわね」
実際に使っているというのに。
「それだけ、使い手がいない魔法です。かつて存在していたとされる魔法。その真偽が定かでないため、イマジナリーと付けられているのです」
間違いなく、わたくしが知っている世界ではありませんわね。
「つまり、貴女方は使えないという事ね」
「はい、ティー様。必要でしたら、この世界で魔法と呼ばれるものが何であるか説明致しましょうか」
ティアラお姉様曰く、この世界における魔法とは、自らに宿る魔力を元に、生まれ持った属性という才能に左右されて使う技術とのこと。
つまり、その属性に当てはまらない事象は起こせないということ。
ティアラお姉様の属性は水。
かなり高位の使い手のようで、水に宿る癒しの特性を引き出し、回復魔法を使えるとの事。
対して、リア様の属性は聖。
回復や浄化といった性質を持ち、致命傷であっても治療でき、死してすぐであれば魂を引き戻し使い魔として蘇生させることも出来るそうである。
ただし、この蘇生法は生涯に1度だけしか使えない奇跡だそうだ。
そんな属性だが、ユニーク、レア、ノーマルと区分を付けているらしい。
ティアラお姉様の場合はノーマル。
リア様はユニーク。
そして、現在国を乗っ取った王とやらは、多分ユニークであろうとのこと。
彼は、世界中のユニーク属性持ちを力ずくで手に入れているそうだ。
理由は分からないとのことだが、わたくしには1つ予想がついている。
教えてはあげないが。

「それじゃあ、わたくしはこれで」
「え、手伝ってくれないんですか?」
なんで手伝わないといけないのかしら?
悪い人じゃなかったというだけで、特にわたくしが頑張る必要性を感じませんわね。
「殲滅すればよろしいのかしら? でしたらよろしくてよ?」
あの隊長さんとなら全力で戦えそうですし、楽しめると思いますわ。
世界の命運とやらは、もうわたくしの手に委ねられる必要なんでありませんもの。
「いえ、願えるのならレジスタンスとの合流までの護衛を」
「でしたら、目立つだけ目立ってあげますわ」

ということで、わたくしは敵の拠点とやらを虱潰しに壊滅させていきましたわ。
これがなかなか、苦戦しないので虚しくなりましたわ。
隊長さんがかなり強いので、少し期待していたのですけれど、拠点を任されている割には、残念な結果ですわね。

「フィア、そちらはどうです?」
「主様の予想通りの結果ですね」
こんなこともあろうかと、フィアに2人の護衛をひっそりとやってもらっている。
件の王が接触してくるだろうと思ったのだ。
こんな分かりやすく、目立っていたら囮だと分かりますものね。
そして、これだけ目立てば来てくれますわよね。
「2ヶ月ぶりかしら? 隊長さん」
「よくもまぁこれだけの短期間で、暴れ回れるものだ」
正直、件の王は話にならないぐらい弱いと判断している。
理由その1、やたら女性を狙う。それもユニーク属性持ち。
理由その2、隊長以外の戦力は数のゴリ押し。
理由その3、リア様に関してかなり執着している。
以上3つの理由から彼の目的は回復魔法。
そして、彼のユニーク属性は強奪系であろう。
発動条件は屈服させること。
男性が女性相手にそれをする上でいちばん簡単なことがあるものね?
つまりは、死なないだろうなってまで安全マージンを取らないと攻勢に出れない雑魚である。
わたくしの敵ではない。
「さあ、潰し合いましょう。あなたなら大歓迎よ」
「見かけによらず、戦闘狂とはな。だが、それもまた良し」
開始の合図なんてものはいらない、ただお互いに潰すのみ。
そこら中に仕込んでいたのか周辺一帯が輝くほどの魔法陣が一斉に起動する。
「鬼滅法陣、劫火」
「カッコイイ名前ですわね」
辺り一面を灰にするつもりかと言うような熱量の炎。
わたくしはそれを蓋をするように上から押さえつける。
「名前なんてありませんわよ?」
「ちっ、相変わらず常識外れな魔法だ」
わたくしの方が長く生きているのだ、まだまだ
彼ぐらいの若い子に負けてあげるわけにはいかない。
「こういうのはどうかしら? ヒュドラ喰らい尽くせ」
「召喚魔法だと! エルシア行けるか?」
『ひねり潰しましょう、生成 巨人の握撃』
久しぶりに完全体で作り上げましたのに大きな手で握りつぶされましたわ。
まあ、見事に引っかかってくれた訳ですけれども。
「残念、ハズレ」
「そのまま返そうか」
初めて本気で死ぬかと思いましたわ。
と言うのも、1キロ圏内纏めて地面が崩れた。
でもって落ちた。
奈落の底に。
『獄門解放』
「砕け散れ、1人で落ちてなるものですか」
「元より、自爆技だ。付き合ってもらうさ」
これが魔法によるものならば、わたくしの敵ではないのですけれど、一旦は落ちないといけませんわね。
「では先に、地獄に落ちなさいな」
「ぐっ、空中でもお構い無しか……」
串刺しにして差し上げましたわ。
『反転 天罰』
倍返しの間違いじゃないかしら。
全身穴だらけになりましたわ。
お互い血だらけになりながら砕け散った底へと落下する。
そこでわたくしの意識は1度途切れた。

「起きたか」
「あら、わたくしに欲情する変態だったのかしら?」
起きたら全裸である。
「魔力のみで下着から作り上げるほうが余程変態じみていると思うがな」
「あらあら、ここ魔力が集まりませんわね、懐かしい感覚ですわ」
魔力を散らす空間ということですわね。
あまり、わたくしには効果がありませんけれど。
「身体強化も使えないこの空間ならばと自爆のつもりだったのだがな」
「このわたくしが、危険を感じないわけがないでしょう?」
獄門とやらだけは、排除したのだ。
割とギリギリだったと思いますけれど。
「こちらは、致命傷。そちらは回復済み。空間は崩壊間近か…… 完敗だな」
「の割には元気そうですわね」
この獄門とやらの名残が理由でしょうけど。
「役割が残っているからな。エルシア」
『契約解消、継承に移行』
「フィア以外の使い魔は必要ないですわ」
何をいきなり始めているのかしら。
「悪いが止めようが無い。エルシアは現契約者を打倒した者に継承されるように定められている」
『貴女には申し訳ありませんが、私は貴女に使われる存在になりたいと思いますので、1度貰われてください。その後は貴女の意思に任せますので』
意外と丁寧にお願いされたので諦めることにする。
フィアには後で謝っておきましょう。
「仕方ありませんわね。隊長さんの役割でもあるのでしょうし、勝利者の義務として受け入れますわ」
「服が消えたのはちょうど良かったな」
はい? 今なんと仰いましたの?
という、わたくしの疑問は口に出ることなく、また意識を失った。

「身体中をまさぐられたような感覚がしますわ」
「もう起きたのか、早いな。俺の時は1週間は寝ていたぞ」
体感としては2時間程度だろうか、かつて潜入の時に仕方なくイロイロされた時の感覚が身体中を襲っているがさすがに、この男がケダモノになったわけではないだろう。
「それで、これはエルシアの趣味ですの?」
「いや、それがエルシアの本体だ。意志を持つ魔法が彼女の正体だ」
本人が最も扱いやすい形態を取るとの事だったので、これがエルシアの思うわたくしに適した姿なのだろう。
「喪服?」
「黒い花嫁衣裳だな、武器は既にあるし、鎧は動きを阻害する。となると、着飾る方にしたのだろう」
確かに、服は武器になる。
「エルシア、華やかなのは構いませんが、艶やか過ぎます。もう少し子供向けにしてください」
『嫌です、マスターは身長は子供でしょうが、蠱惑的な魅力をお持ちです。活かすべきと判断します』
「時と場合の話です、必要であれば自分の体を武器にしますが、常にそれを振りまく気はありません。メリハリがないと人は慣れるものです」
いつも見せつけていると必ず慣れてしまう。
いざと言う時に、最も効果的なタイミングで行うことに意味があるのだ。
「末恐ろしいな、お前は」
「あら、淑女の嗜みですわよ?」
まあ、その嗜みの場たる社交界には1度も行く機会はありませんでしたけれど。
『マスター、今度はお気に召すかと思いますが』
「エルシア、気に入りましたが、いきなり脱がさないでくださいますか、痴女と思われるのは心外ですので」
前向きに検討しますとの返事でしたので、次同じことをしたらお仕置しましょう。
「では隊長さん、わたくしはもう行きますわね」
「時間稼ぎに付き合ってくれるとは、この程度誤差の範囲か」
「いいえ、どういう訳かフィアが負けてしまったようなので誤差の範囲なんてものではないぐらい、焦ってはいますのよ」
不測の事態にも程がある。
『マスター、急ぐのでしたら』
「いいえ、このまま獄門を奥まで進みます。先程から、わたくしを呼んでいるようなので」
フィアのことは心配だが、わたくしが生きている限り、死ぬことは無い。
「ではな、小さき英雄」
「子供に小さいと言われる筋合いはありませんが、若き英雄よ、安らかに眠りなさい」
腑に落ちない顔をしていましたが、無視しましょう。
目の前の未発達な少女のようなものが、120年生きている化け物とは思わないことでしょう。
振り返ることなく、わたくしは奥へと進む。
距離は問題ない、呼び声に応えればいいのだから。
「来てあげましたわよ」


「我が聖剣の前にひれ伏すがいい」
そんな声が聞こえた。
「あれが光の魔剣ですか」
(ええ、私の片割れです)
獄門の先で待っていたのは一振の禍々しい何かを放つ黒一色の剣だった。
銘はナハト。
夜という意味があるそうだ。
引き抜けば良いのだろうと乱雑手に取ったらものすごく怒られたのは、納得いきませんわね。
ナハトが言うには、かつてこの世界に平和をもたらした英雄が持つ二振りの剣の1つが解き放たれてしまったので、どうにかして欲しいとのことだ。
かつての英雄は、非常に心の強い人間で魔剣の誘惑すら打ち勝つことが出来ていたらしいのだが、彼の死後本来封印すべき魔剣が聖剣として扱われてしまったらしい。
見た目が、輝かしく純白な剣と、いかにも禍々しい黒い剣。
どちらが、魔剣と思うかと言われたら仕方ないだろう。
持ち主たる彼は何度も聖剣はこちらだと教えていたそうなのだが、強靭な精神力を持ってしても魔剣の力が強いのだと周りから思われていたらしい。
わたくしとしては、魔剣が周りを取り込んだのだろうと思っている。
「隣にいるのはリア様ですわね。目が虚ろですけれど」
(目がいいのですね)
「いいえ、視界を飛ばしているだけですわ」
情報を得るには、便利ですのよね、五感を飛ばすというのは。
「ふむ、どうやら周りを洗脳して配下にしているようですわね。さすが魔剣ですわ」
わたくしの世界より凄い魔法は、これが初ですわね。
『マスター、どうされますか』
(私としましては、片割れさえ砕いてくれればそれで構いませんが)
「時間をかける気はありませんわ」
獄門から戻ってきたのはこちらで1年が経っている。
ティアラお姉様の気配は感じるので、封印されているのだろう。
使い魔に洗脳はできなかったのか、リア様が何かしたのかは判断がつかないが。
「ヒュドラ、蹂躙なさい」
突如として演説中の場にヒュドラなんて出てくれば、本来ならばパニックになるだろう。
本来ならば。
「ふん、魔竜など相手にも──」
「エルシア、燃やし尽くします。インフェルノ」
『起動』
ヒュドラは魔力で作られる。
即ち、巻き込んでも消えることがない。
周辺一帯に魔法陣を展開。
そのまま起動。
わたくしは燃えることがないので、突っ切る。
まずは、リア様の回収。
「貴様、我の妻を強奪するか、身の程知らずめ」
「魔剣に飲まれた雑魚に何が出来るのかしら?」
「へぇ、私のこと知ってるんだ。てことは、お姉様の契約者さんなの?」
急に姿が変わったかと思うと、そこには、白い髪の金色の目を持つ少女がいた。
可愛い。
「そうですわね、貴女のお姉様の契約者と言えるかもしれませんわね」
実際は、正式な契約を結ばずにあっさりと封印を解いてしまったので、所有者としての方が意味合いとして強い。
「じゃあ、殺さないとだね」
言うが早いか、わたくしの身体が爆散する。
「お返しですわ」
なので、こちらも報復する。
「いたぁーい。お姉さんなんで死なないのぉ?」
「貴女が飲み込んでしまったフィアのせいですわね?」
たぶん? きっと?
「あー、あの綺麗な女の子かー 美味しかったです」
「ペッしましょうねー」
思い切りぶん殴りました。
「いたぁーい。お姉さんおうぼー」
「あら? 吐き出すかと思いましたけれど」
困りましたわね?
(あの、早く片割れを砕いて下さります?)
「フィアを回収しないと一生消えちゃうじゃありませんの」
間違いなく?
「お姉様、そんなに私の事嫌いなの?」
「まあいいですわ。 とりあえず仮初の主様は退場してもらいましてと」
ナハトを使って切り捨てる。
「うわぁ、ビックリするからやめてよ」
「はいはい、謝りますから大人しくしててくださいな」
この魔剣、可愛いので貰ってもいいですわよね?
(絆されないでくれませんか)
「かつての主も、見捨てられなかった理由でしょうに」
『マスター、敵が集まってきます』
魔弾を作り、そこら中に放つ。
「話の邪魔ですわ、消え失せなさい」
威圧を魔力に込めて放つ。
「そこで大人しくしておいて下さいな」

ということでのんびりと魔剣とお話をした結果を述べる。
わたくしが2本とも持つことで成立。
国同士の争いに関与しないと盟約という魔法のもと宣言し、わたくし個人で1つの領地に引きこもる。
リア様とティアラお姉様はわたくしの領地にて保護。
強奪王は、殺せば奪われた属性が持ち主に戻るそうなのでグチャっとしておいた。
領民になりたがったものだけ引き取って領地経営。
魔法をフル活用しているので、割と快適だと口コミでも広がったのか移民が増えているので、領地を広げている。
まぁ、昔は龍が住んでいたなんて言われる山の奥地で、気候が厳しいので余程特殊な属性持ちか、わたくしと同じ魔法が使えないとここに領地は作れないので少々広げても問題ない。
ここだけで完結してるし。
そのうち、年齢制限つけて他所でも大丈夫になれば他の領地に行ってもらうつもりである。
広げ過ぎると周りが焦るのだから仕方ない。
そろそろ満員である。
とまぁ、こんな感じである。

「お姉さん。元の世界に戻らないの? 私たちなら簡単に繋げられるよ?」
「嫌ですよ、どうせ戻ってもすることありませんし、こんな風に撫でても怒らない女の子、手放すのも嫌ですし」
「えへへー、お姉さん大好きー」
あーやばい、可愛い。
(いい加減砕きなさい)
最近、ナハトが可愛くないんですのよね。
フィアをペッと出してくれない分、気長に待ってるだけですのに。
『マスター、また不届き者が来たようです』
「いつもの国ですわね。帰ってもらいましょうか」
とりあえずは、しばらくはこの地を守ることとしましょうか。

──────────────
はーい、長々と失礼しました。
前世のティアラ様と今のティアラ様を強制的に会わせて見ました。
単発ですので、分割できずに駆け足しつつ、終わらせます。
長編で書こうか悩んでいるんですが、細かく書くのが苦手でして、止まってしまいそうなので、気が向きましたら。
ちなみに、獄門にお互い無傷で入ると、ティアラ様がボコボコにされます。
体格差はどうしようも出来ません。 
ですが、ティアラ様が死なないので、獄門が時間切れで崩壊してしまいます。
ですけど、こっちルートで書くと、ティアラ様全裸ですからね。
ロリババアとは言え、ねぇ?
ということでまた、お会いしましょう(逃げる)
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ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

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