孤独な姫君に溺れるほどの愛を

ゆーかり

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子どもの頃の私は、人の目を盗んでは泣いてばかりいました。

そんな時、気付けば側に居てくれたのが彼でした。
彼はむっつりと不機嫌顔ながらも、私が泣き止むまで辛抱強く、じっと側に居てくれたものです。

今思えばどうして良いか分からず困惑し、そんな自身に苛立っていたのでしょう。
そんな不器用な彼の優しさに気付くのに、そう時間はかかりませんでした。








彼と初めて会ったのは私が八歳の時。

その頃の私は、最愛の母を亡くしたばかりで泣き暮らし、自分の殻に閉じこもって塞ぎ込んでいました。
父は外交の為国外を飛び回っており、広い屋敷に私はひとりぼっちでした。

そこへ現れたのが母の妹である叔母だったのです。
とても美しく魅力的な彼女に、使用人をはじめ皆はすぐに魅了されました。

亡き姉の代わりに、しばらくこの子の側に居てやりたい──そんな叔母の申し出を父は受け入れ、屋敷への滞在を許したのです。

でも、叔母はすぐに恐ろしい本性を現しました。父が長期不在の折、母に良く似たこの顔が気に入らないと言っては罵倒し、扇子や鞭で体を打たれました。

後々知りましたが、母と叔母はとても仲の悪い姉妹だったようです。叔母は心の底から母を憎んでいて、母に良く似た私はその捌け口にされたのでした。

でも、美貌の持つ力というものは恐ろしいものです。人は「美しい」というだけで心根も美しいと容易く思い込んでしまうものなのです。

使用人達の前では優しく人当たりのいい叔母の凶行に、気付く者は誰もいませんでした。
どれだけぶたれても、叔母は異国のものだという優れた薬を持っていて、痛みはあるのに、私の体に目立つ傷や痣を残すことは決してありませんでした。

叔母は私を物理的に痛めつけること以上に、母に良く似たこの顔が、恐怖や苦痛に歪む様を見るのが堪らなく愉快だったようです。

──なんて醜い子。

私の中にあった自信や誇りのようなものを、叔母はジワジワと砕いて奪ってゆきました。

訴えても誰も信じてくれない。
幼い私には抵抗する術がない。

無力さに打ちのめされ、いつしか私は抵抗し足掻くことを諦めたのです。

そんな生活が3月程続いた頃でしょうか。
ある日人払された屋根裏部屋で鞭打たれていた私は、よろけて階段から転げ落ち、頭を強く打ったようです。

意識不明となった私は、連絡を受けた祖父の采配ですぐに看護設備の整った王宮へと移送されました。

私の意識が戻ったのはそれから1週間程後の事。国外にいた父は急遽帰国し、付き切りで私の側に居てくれました。

目覚めて父の顔を見た瞬間、久方ぶりに涙が溢れました。そして私はこれまで起こったことを全て打ち明けたのです。

はじめ驚いていた父でしたが、私の言葉を信じて、叔母のことを徹底的に調べ上げてくれました。

その結果、実家ぐるみで隠蔽していた真実が明るみに出たのです。

叔母は生まれつき良心というものを持ち合わせていない、そういう類の人間だったのです。

幼少の頃から動物の虐待や殺害を遊戯のように楽しんでいたという叔母。
善悪の境のない彼女は徐々に使用人達まで甚振りはじめ、危機感を募らせた家族は、叔母を決して外には出さず、屋敷の奥に隔離幽閉していたのだとか。

祖父母が亡くなり、次いで母が亡くなり、叔母は監視の目が緩んだ隙をぬって私の前に姿を現しました。

今なら分かります。
母は叔母を監視隔離すると共に守ってもいたのだと。
人の世に出れば必ず身を滅ぼす異分子──母にはそれが痛いほどよく分かっていたのでしょう。

叔母はすぐに捕まり、王族への殺人未遂という罪で処刑されました。最後まで反省することはなく、死ぬその瞬間まで祖父母と母を罵倒し続けていたそうです。

そんな叔母が亡くなったと聞いても、私の心は全く晴れませんでした。
例え叔母がこの世から消えようとも、受けた虐待の記憶は脳裏に焼き付いて離れないのです。

私は悪い子。
とても醜い子。
だからぶたれる──

父は良く確かめもせず、妻の妹だからと簡単に信じてしまった己を悔い、何度も私に詫びました。

けれど父に限らず屋敷の大人達は誰一人として見抜けなかったのです。父を責める気にはとてもなれませんでした。

人間不信気味になり、塞ぎがちな私を心配した父と祖父は、私を人目の多い王宮へ留め置くことにしたのです。

でも、王宮は美しくも冷たい牢獄のようでした。
王族として表面上敬われてはいるものの、誰もが一線を画し、冷ややかで事務的なのです。

祖父は私を気にかけ、可愛がってはくれましたが、あまりに忙しく頻繁に会うことはできません。

王宮でも人の温もりを感じることが出来ず、寂しさと記憶による苦しみは日々募るばかりでした。
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