孤独な姫君に溺れるほどの愛を

ゆーかり

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「それでももし、泣くようなことがあったら?」

冷たく沈み込みそうな心に蓋をして、私はエドにしがみつきました。そんな私の頭をエドは優しく撫でます。

「全部舐め取ってやる」

頬に熱を感じました。
きっと私の顔は今真っ赤になっていることでしょう。涙なんてあっという間に引っ込んでしまいました。

「もうエドのバカ! 年下のくせにからかわないで!」

「一つしか違わないだろ。今なんてお前の方が年下みたいじゃないか」

ぐっと言葉に詰まりました。確かにその通りです。エドにしがみついて子どものように泣いていたのですから。

「き、今日だけよ……」

ボソっと反論すると、エドはククっと笑いました。

「ホントに、やっとお前の元に帰ってきたんだな。リラは相変わらず面白い」

ムっとして顔を上げると、思った以上に近い距離で視線が合いました。何となく逸らしたら負けのような気がして、エドの瞳を真っ直ぐに捉えます。

エドはふっと微笑むと、私の頬を撫でて額を合わせました。

「そのネックレス、着けてくれたんだな」

「ええ、素敵なネックレスをありがとうエド。とても気に入ったわ」

「よく似合ってる。なあ、意味分かってるよな?」

「え?」

「それを着けてくれたってことは、それがお前の返事だって受け取っていいのか?」

雷に打たれたような衝撃でした。
まさかエドが一人の男性として私にこのネックレスを送ってくれていただなんて──

自身の瞳と同色の宝石を異性に送る行為は、求愛や親愛の意の証。

従弟としての親愛の証と受け取ったものの、心の片隅ではもしや、という気持ちもなくはありませんでした。
エドの私への想いには、ほんの少しでも親愛以上の何かが含まれているのではないかと。

エドはそれを言い逃れできないタイミングで私に突きつけたのです。

エド、本当に?
本当にあなたは私のことを──?

身を離してエドの瞳を覗き込みました。すると今まで見たこともない、熱く燃え滾るような眼差しが私を射抜くのでした。

囚われた──そんな感覚に足元が崩れ落ちていくようでした。

世界が変わってしまう。
無邪気な子どもでいられた優しい時間は過去のものへ、取り巻く全てが別の何かに塗り替えられてゆく。他ならぬエドの手によって──

この時私は、途方に暮れた酷く情けない顔をしていたのだと思います。エドは優しく微笑むと、宥めるように頬を撫でました。

「もしそうだと言ったら、何が変わるの?」

「何も。俺はこれまで通りリラの味方だし、リラが嫌がることはしない。ああ、いや……極力しないよう心掛ける」

エドが言い直した言葉に少し引っかかりながらも、敢えて追求することはしませんでした。

「エド、私──」

「リラ様、遅くなり申し訳ありません」

慌ててエドから離れました。
従姉弟同士とはいえ、適切とはいえない近すぎる距離でした。今更ながら心臓がドクドクと早鐘のようで壊れてしまいそうです。

「あ、ロラン……ありがとう」

動揺しつつ差し出された水を受け取ると、ロランはエドの前に跪きました。

「許す、名乗れ」

「ロラン・セヴクと申します、殿下」

ロランが名乗った途端、エドの纏う空気がひゅっと冷えたものに変わりました。

「そなたが……陛下が許したのか」

「はい」

「エド、ロランはお爺様が任命した私の騎士なのよ」

エドは何も言わずにすっと目を閉じると、深く息を吐きました。そして私の手を掴んで立ち上がると、有無を言わさず抱き上げたのです。その拍子にグラスが手から零れ落ち、地に叩きつけられ砕けました。

「え、エド!?」

「リラは体調が優れない故部屋で休ませる。陛下にはそう伝えよ」

「あ、歩けるわ、下ろして」

ジタバタする私など意にも解さず、エドは跪くロランを冷たく見下ろしました。

「リラは俺が付き切りで看護する。そなたはもう下がって休め」

「……承知いたしました」

二人のピリピリと張り詰めた空気に、私はかけるべき言葉を失いました。

「落ちないよう掴まってろ」

エドに促されるまま、私はエドの首にしがみつきました。ふわりと香る知らない香水にドキリとします。

重くはないのかしら?

私の心配をよそに、エドは私を抱き上げたまま颯爽とパーティフロアを後にしたのでした。
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