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「え……?」
「ただいまリラ」
記憶よりも大分声が低くなっているように感じます。背も伸びて、甘かった顔立ちに大人の精悍さが加わって……何だか知らない男の人のように感じて気後してしまいました。
身じろぎもできずにいる私に焦れたように、唐突に現れたエドはツカツカと距離を詰め、隣にドカっと腰を下ろしました。
「なんだよリラ、もう俺のこと忘れたのか?」
相変わらずバカだな、と笑う顔にようやく知る面影を見出して、緊張の糸が解けました。
「久しぶりに会うのに、相変わらず失礼な人ね」
「ああ、本当に久しぶりだよな」
エドはじっと私の顔を見詰めます。その不躾な眼差しに何だか落ち着かなくなって、思わず目を逸らしてしまいました。
「そんなにじっと見ないで、紳士失格よ」
「ああ、いや……本当にリラなんだなと思ってさ」
「何よそれ」
ぷっと吹き出すと、エドも少し照れたように笑いました。
「侍女達は良い仕事してるよな」
「まあ、どういう意味かしら?」
「いや……見違えるほど綺麗で、ビックリした」
ドキリとしました。
エドからそんなことを言われるのも、そんな熱の籠った眼差しを受けるのも初めてで、波紋のように広がる動揺を隠さなければと必死で言葉を探しました。
「え、エドからそんな言葉を聞ける日がくるなんて……皆に特別手当出さなきゃいけないわね」
「ああ、たっぷり出してやると良い」
エドは微笑んで鷹揚に頷きました。
本当に王宮の侍女達は腕も仕事ぶりも超一流です。朝早くから頑張ってくれた皆に報酬と何かちょっとしたプレゼントを送ろうと心に決めました。
「ねぇエド、私ね、あなたと夜コッソリ庭に出て空を眺めたことを思い出していたのよ」
「ああ、夜警の騎士に見つかって良く怒られたよな」
「ふふ、そうだったわね。でも楽しくてやめられなかったのよね」
再び空を見上げると、エドもつられるように見上げました。
「ああ、ここじゃ星は見えないな」
「ええ、でも月は綺麗だわ」
あの頃と何も変わらない月、そして隣にはエド。思い返せばどれもがかけがえのない思い出です。
私は夜が嫌いでした。
重く垂れ込める夜のしじまは、孤独や悲しみの記憶を増幅させて、夢にまで忍び寄って私を苦しめるのです。
彼はそんな私の痛みに気付いていたのかもしれません。口には出しませんでしたが、夜になるとよく様子を見に部屋を訪ねてくれました。
エドが側にいてくれたから、私は寂しさや孤独を忘れ、そしていつしか闇を恐れなくなったのです。
エド、エド……私、本当にどれだけあなたに会いたかったことか──
「リラ……?」
ああ、ダメですね、気の緩みと共に涙腺も緩んでしまったようです。私はエドから顔を背けて俯きました。
「ダメ、見ないで」
胸が痛くて苦しくて張り裂けそうです。泣きたくなんてないのに涙が止まりません。
嬉しいのに、エドとの再会で心が過去に引きずられるのです。でもこの涙はそれだけではない、そんな気がしました。
「約束したのに、側にいられなくてごめんな。もう何処にも行かないから」
そう囁くと、エドは背後から私を抱きしめました。記憶よりずっと大きな体は、すっぽりと私を包み込んでしまうのでした。
「エド、ごめんなさい。やっとあなたと会えたのに、私……」
「悲しい涙じゃないんだろ? なら、良い」
エドは私を振り向かせると、私の顔を胸に押し当てました。
「胸貸してやるから、好きなだけ泣け。今日だけ許してやる」
「今日だけ?」
「お前との約束守れなかった詫びに今日だけ、な」
「ケチ……」
「もう泣かせないから、今日だけだ」
トクリと心臓が跳ねました。サラリとこんな殺し文句を吐いてしまえるなんて……エドはさぞかしモテるのでしょうね。そう考えると、自覚できるくらい気持ちが沈みました。
男性にとって恋を重ねることは甲斐性ともみなされる世です。王族で見目もいいエドに、そういった誘惑が多いことは想像に難くありません。
離れていた3年、何もないなんてことはないでしょう。これだけ魅力的な男性になったエドですから。
会えた喜びと同じくらい、それが今の私には無性に悲しかったのです。
「ただいまリラ」
記憶よりも大分声が低くなっているように感じます。背も伸びて、甘かった顔立ちに大人の精悍さが加わって……何だか知らない男の人のように感じて気後してしまいました。
身じろぎもできずにいる私に焦れたように、唐突に現れたエドはツカツカと距離を詰め、隣にドカっと腰を下ろしました。
「なんだよリラ、もう俺のこと忘れたのか?」
相変わらずバカだな、と笑う顔にようやく知る面影を見出して、緊張の糸が解けました。
「久しぶりに会うのに、相変わらず失礼な人ね」
「ああ、本当に久しぶりだよな」
エドはじっと私の顔を見詰めます。その不躾な眼差しに何だか落ち着かなくなって、思わず目を逸らしてしまいました。
「そんなにじっと見ないで、紳士失格よ」
「ああ、いや……本当にリラなんだなと思ってさ」
「何よそれ」
ぷっと吹き出すと、エドも少し照れたように笑いました。
「侍女達は良い仕事してるよな」
「まあ、どういう意味かしら?」
「いや……見違えるほど綺麗で、ビックリした」
ドキリとしました。
エドからそんなことを言われるのも、そんな熱の籠った眼差しを受けるのも初めてで、波紋のように広がる動揺を隠さなければと必死で言葉を探しました。
「え、エドからそんな言葉を聞ける日がくるなんて……皆に特別手当出さなきゃいけないわね」
「ああ、たっぷり出してやると良い」
エドは微笑んで鷹揚に頷きました。
本当に王宮の侍女達は腕も仕事ぶりも超一流です。朝早くから頑張ってくれた皆に報酬と何かちょっとしたプレゼントを送ろうと心に決めました。
「ねぇエド、私ね、あなたと夜コッソリ庭に出て空を眺めたことを思い出していたのよ」
「ああ、夜警の騎士に見つかって良く怒られたよな」
「ふふ、そうだったわね。でも楽しくてやめられなかったのよね」
再び空を見上げると、エドもつられるように見上げました。
「ああ、ここじゃ星は見えないな」
「ええ、でも月は綺麗だわ」
あの頃と何も変わらない月、そして隣にはエド。思い返せばどれもがかけがえのない思い出です。
私は夜が嫌いでした。
重く垂れ込める夜のしじまは、孤独や悲しみの記憶を増幅させて、夢にまで忍び寄って私を苦しめるのです。
彼はそんな私の痛みに気付いていたのかもしれません。口には出しませんでしたが、夜になるとよく様子を見に部屋を訪ねてくれました。
エドが側にいてくれたから、私は寂しさや孤独を忘れ、そしていつしか闇を恐れなくなったのです。
エド、エド……私、本当にどれだけあなたに会いたかったことか──
「リラ……?」
ああ、ダメですね、気の緩みと共に涙腺も緩んでしまったようです。私はエドから顔を背けて俯きました。
「ダメ、見ないで」
胸が痛くて苦しくて張り裂けそうです。泣きたくなんてないのに涙が止まりません。
嬉しいのに、エドとの再会で心が過去に引きずられるのです。でもこの涙はそれだけではない、そんな気がしました。
「約束したのに、側にいられなくてごめんな。もう何処にも行かないから」
そう囁くと、エドは背後から私を抱きしめました。記憶よりずっと大きな体は、すっぽりと私を包み込んでしまうのでした。
「エド、ごめんなさい。やっとあなたと会えたのに、私……」
「悲しい涙じゃないんだろ? なら、良い」
エドは私を振り向かせると、私の顔を胸に押し当てました。
「胸貸してやるから、好きなだけ泣け。今日だけ許してやる」
「今日だけ?」
「お前との約束守れなかった詫びに今日だけ、な」
「ケチ……」
「もう泣かせないから、今日だけだ」
トクリと心臓が跳ねました。サラリとこんな殺し文句を吐いてしまえるなんて……エドはさぞかしモテるのでしょうね。そう考えると、自覚できるくらい気持ちが沈みました。
男性にとって恋を重ねることは甲斐性ともみなされる世です。王族で見目もいいエドに、そういった誘惑が多いことは想像に難くありません。
離れていた3年、何もないなんてことはないでしょう。これだけ魅力的な男性になったエドですから。
会えた喜びと同じくらい、それが今の私には無性に悲しかったのです。
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