孤独な姫君に溺れるほどの愛を

ゆーかり

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「リラ様は本番にお強いようですね」

練習の時同様優しくリードしながらロランが微笑みます。

「あなたのお陰だわロラン。今日まで毎日本当にありがとう」

ミスというミスもなくファーストダンスを終え、私は万感の思いを込めてロランに膝を折りました。

ふっと視線を上げると、満足そうに目を細めてこちらを見ている祖父と目が合いました。どうやら及第をもらえたようでホっと胸が軽くなりました。

不意に喉の渇きを覚え、通りがかった給仕から飲み物を受け取ってそれを一気にあおります。

「あ! リラ様それはアルコールでは」

途端にかあっと胃の腑の辺りが熱くなり、ふらりと立ちくらんだところをロランに抱き留められました。

「あ……ごめんなさいロラン、少し外の空気が吸いたいわ」

「分かりました、庭園の方で少し休みましょう」

ロランは腰を抱くように私を支えながら、庭園まで連れ出してくれました。

冷えた風が火照った頬を撫で、心地よさにふるっと身体が震えました。
そして夜の香りを纏った空気を思い切り胸に吸い込みます。

「大丈夫ですか、リラ様」

「ええ、アルコールなんて初めて飲んでしまったわ。フワフワしていて、なんだかとても気分がいいのよ」

「リラ様はアルコールには弱いようですね。私が側に居る時で本当によかった」

「迷惑をかけてしまったわ、ごめんなさいロラン……私、こんなにたくさん人のいる所は初めてで……緊張してしまっていたみたいね。良く確かめもしないで飲んでしまったわ」

「リラ様のことで迷惑に思うことなど、ただの一つもありませんよ」

ロランが優しく微笑みました。私の騎士は、本当にどこまでも甘くて優しい。やっぱり非のうちどころのない物語のヒーローのような人です。

「今日はリラ様のお披露目と成人の祝いも兼ねての夜会ですので、ここに居る皆がリラ様に興味津々なのです」

「……そのようね」

皆の視線が、好意的なものばかりではないことに気付いていました。

初めて公の場に姿を現す私は、王家に連なるものとして、果てはロランのパートナーとして値踏みされていたのでしょう。

特に女性達の視線は露骨で不躾でした。ロランが居てくれなければ、居竦まれるような恐怖で動けなくなっていたことでしょう。本当に私は弱いと、嫌になる程痛感しました。

「強固な鎧が必要だわ」

「鎧、ですか」

「ええ、社交界はまるで心の戦場ね。先ずは心を守る鎧が必要だと肌で感じたのです」

「そうですね。鎧にはなれませんが、リラ様が望む限り私が剣となり盾となりましょう」

すいっとロランは優雅に一礼しました。

「私の騎士は本当に頼もしい。ありがとうロラン」

王家に連なる私の婚姻は、様々な思惑によって定められるのでしょう。ロランがその相手であるのか否か、お爺様は未だにその胸の内を明かしては下さいませんが。

「リラ様、水をお持ちしましょうか」

「ええ、ありがとう」

丁度喉の渇きを覚えました。ロランはすぐに察して動いてくれたようです。本当に私の騎士は優秀すぎますね。

ベンチに腰掛けたままロランの後ろ姿をボンヤリ見送って、何気なく空を見上げました。会場が明るいのであまり星は見えませんが、下弦の月が綺麗な夜です。

こんな夜はよく、エドとコッソリ庭に出て二人で空を眺めたものでした。

あの星を繋ぐとリラが失敗したケーキみたいだとか、あっちの星は怒ったエドの顔みたいだとか、たわいもないことを言い合っては喧嘩しました。

「楽しかったな……」

「何が楽しかったんだ?」

突然の声にビックリして振り返った途端、頭が真っ白になりました。
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