孤独な姫君に溺れるほどの愛を

ゆーかり

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「エド、さっきから変よ? ロランのことも知っていたの?」

何とか首だけ持ち上げて見上げると、エドは皮肉げに口の端を吊り上げました。

「知ってるも何も……俺の両親を暗殺した一族に連なる者だ」

「え……」

言葉を失いました。
何故……何故祖父は私にそんな一族の者を?

「首謀者は、ロランの母方の実家の者とされている」

「そ、んな……」

「ロランの母親は事件後死んでしまったけどな。自殺とされたが……今となっては真相は闇の中だ」

ようやく先程のエドの態度も腑に落ちました。そして時折見せたロランの寂しくも苦しげな眼差し──その理由もここにあるのだと察せられたのでした。

「お爺様はどうして私にロランを……」

「ロランの父親は直接事件に関わってはいないが、事件の責任と変わらぬ忠誠の証として、侯爵家の全権利権限を王家に委譲した。だからセヴク家の全ては王家のものだ。もちろんロランもな」

重罪人に連なる一族として、ロランは連座を免れる代わりに王家に絶対の服従を誓わされていたのでした。

「何も知らなかったわ……単純に婚約者候補の一人だとばかり思っていた……」

あんなに献身的で優しかったのも、全ては王家への忠誠故──

「いや、あの狸ジジイの事だからそうなってもいいと思ってリラの騎士にしたはずだ」

「まあ……それじゃお爺様は相当ロランを信頼しているのね」

「かもな」

苦々し気に顔を顰めながら、エドは深い溜息を吐きました。
ロランの境遇を聞いても、不思議と彼への信頼は揺らぎませんでした。これまで私に見せてくれていた顔全てが偽りだとは思えなかったからです。

けれどエドの気持ちを思うと、とても複雑な心地がしました。
奪うものと奪われたものと。
どちらも己の意思とは関係のない所で、理不尽にも深い傷を負わされているのです。

事件があった当時、ロランはまだ9歳。彼が事件に直接関わっていることはまずあり得ませんが、それでも一族に連なるものとして、彼は輝かしい未来を奪われたのです。

理性で分かってはいても、エドも簡単には割り切れないでしょう。
人の心とはままならぬもの。

どちらの痛みも察せられるからこそ、どちらにも肩入れができない……もどかしい板挟みの様な心地に囚われるのでした。

「エド、ロランのお爺様への忠誠は本物だと思うわ。彼は私にも誠意をもって仕えてくれている」

「……へえ」

エドの苛立ちを孕んだ眼差しに怖気づきそうになりますが、私は目を反らしませんでした。

「ねえ、騎士たちは何かあると拳で語り合う、タイマンというものをすると聞いたことがあるの。エド、ロランと一度思い切りやりあってみてはどうかしら?」

途端にエドは大きく目を見開くと、思い切り吹き出しました。

「お前、専業の騎士に王子と思い切りやり合えって言えるのか?」

「う……確かにそれもそうね……立場もあるし本気では……無理よね……」

あまりにも考えなしにバカなことを言ってしまったと落ち込みました。そんな私の頭を宥めるようにポンポンとエドは撫でます。

「まあ、お前らしいバカさ具合に、面倒くさく考える方がバカらしく思えてきた。拳で語る、ね。確かに俺の性には合ってるかもしれないな」

「エド……んむっ!」

からかうようにきゅっと鼻を摘ままれました。

「お前が思い悩む必要はない、アイツと俺の問題だ」

どちらの肩も持てない私に、これ以上発言することは流石に憚られます。私は分かったと小さく頷きました。

「それより久しぶりに会えたんだからさ、俺が居ない間あったこと聞かせろよ」

「もう……エドの方こそ聞かせてよ。手紙の返事もろくにくれなかったんだから、あなたの状況こそ私は良く知らないのよ?」

ムっとむくれると、エドは苦笑しながら私の頬をつつきました。

「ああ、悪い。これでも学ぶことが多くてな」

「そうね、一応王太子様だものね」

「一応な。俺の話は長くなるから今度聞かせる。今日はリラの話が聞きたい」

エドにせがまれるまま膝枕をして、これまでのことを思い出しながらポツポツと話しました。

エドを見返すために淑女教育に一層励んだこと。
ダンス講師に良く怒られたこと。
福祉施設のボランティア活動をはじめたこと。
ロランが私の騎士になった時の事。

思い返せばこの3年、本当に色んな事がありました。

「ん……そう、か……」

段々とエドの相槌にも微睡が忍び寄っているようでした。
眠たそうに眼を閉じて、段々と重たくなるエドの体。大きななりをしながらその無防備さが無性に愛おしくて、私はエドの柔らかな黄金色の髪を撫でました。

「ゆっくり休んでね、私の王子様」

また一緒に居られることが嬉しくて、私はエドの寝顔をいつまでも飽かずに眺め続けたのでした。
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