15 / 18
15
しおりを挟む
「まあ……その顔は一体……」
自室で刺繍をしていた私の元に、珍しくエドとロランが連れ立ってやってきました。でも、双方ともに顔は赤黒く腫れあがり、服もあちこち破けてボロボロです。
これは、まさか──
「あの、タイマンとやらをしたのですか?」
「ああ、そうだ。お前の助言通り思い切りやり合ったぞ」
口の中が切れているのか、喋り辛そうにエドは顔を顰めました。
エドもロランもそれはそれは酷い有様で、別の意味で令嬢達に騒がれてしまいそうです。
「レナ、すぐにお医者様を呼んできて頂戴」
「畏まりました」
一先ず二人を部屋に招き入れてソファに座らせました。ロランは最後まで辞退しようとしましたが、命令だと言って医師の診断を受けさせました。
「これはまた……派手にやり合いましたね」
王宮の主治医であるバーノン医師は、二人を見るやため息混じりに苦笑しました。
「ああ、手加減など一切許さない本気のタイマンだからな。っていてててて!」
「2~3日は朝晩しっかり消毒してこの薬塗ってくださいね。ああ、サボって化膿しても知りませんからね」
二人にしっかり釘を刺してバーノン医師は去ってゆきました。骨や筋に異常はなく、1週間ほどで腫れや痛みも引くだろうとのことで安心しました。
「リラ様、私は外で待機しております」
「ロラン、今日はもういいから部屋で休んで」
「しかし……」
「リラの言う通りにしろ。今のお前の主人はリラだろ」
色男ぶりも台無しなロランは、ぐっと言葉を飲み込むと諦めたようにため息をつきました。
「分かりました。それではお言葉に甘えさせて頂きます。ですが何かあればすぐにでもお呼びつけ下さい」
「分かったわ。早く怪我を治すように、ね」
「ありがとうございます。それでは失礼させて頂きます」
体が痛むのか少しぎこちなく礼をすると、ロランも部屋を後にしました。その途端、エドは私の膝を枕にゴロリと寝転びました。
「全く……とんだ男前ね」
「ああ、あの男、本当に手加減なしだったぞ」
「そう、どうだった?」
エドは腫れた瞼の奥からじっと私の顔を見詰めました。
「手心を加えたら死んでも許さないつもりだった。アイツ、それが分かってたんだろな。最初から最後まで本気できやがった」
不思議なことに、こんなにボロボロになりながらもエドの口調はどこか楽しげですらありました。
「良い勝負だったのね」
「まあ、な。ある意味スッキリはしたかな。たまにはリラのバカな助言も役に立つんだな……って痛って!」
頬に貼り付けられたガーゼをツンツンと指で突くと、エドは思い切り顔を歪めました。
「得るものがあったのなら良かったわ」
何か吹っ切れたようなエドの表情に、私も嬉しくなるのでした。
「薬、面倒臭いな。朝晩リラが塗ってくれよ」
「もう、それなら思いっきり痛くしてあげるから」
「怪我人なんだ、優しくしてくれ」
不服そうに口を尖らせるエドに思わず笑ってしまいました。
見た目は大分大人になりましたが、こうして昔と変わらない表情が見られると、やっぱり私が良く知るエドなのだと安堵するのでした。
自室で刺繍をしていた私の元に、珍しくエドとロランが連れ立ってやってきました。でも、双方ともに顔は赤黒く腫れあがり、服もあちこち破けてボロボロです。
これは、まさか──
「あの、タイマンとやらをしたのですか?」
「ああ、そうだ。お前の助言通り思い切りやり合ったぞ」
口の中が切れているのか、喋り辛そうにエドは顔を顰めました。
エドもロランもそれはそれは酷い有様で、別の意味で令嬢達に騒がれてしまいそうです。
「レナ、すぐにお医者様を呼んできて頂戴」
「畏まりました」
一先ず二人を部屋に招き入れてソファに座らせました。ロランは最後まで辞退しようとしましたが、命令だと言って医師の診断を受けさせました。
「これはまた……派手にやり合いましたね」
王宮の主治医であるバーノン医師は、二人を見るやため息混じりに苦笑しました。
「ああ、手加減など一切許さない本気のタイマンだからな。っていてててて!」
「2~3日は朝晩しっかり消毒してこの薬塗ってくださいね。ああ、サボって化膿しても知りませんからね」
二人にしっかり釘を刺してバーノン医師は去ってゆきました。骨や筋に異常はなく、1週間ほどで腫れや痛みも引くだろうとのことで安心しました。
「リラ様、私は外で待機しております」
「ロラン、今日はもういいから部屋で休んで」
「しかし……」
「リラの言う通りにしろ。今のお前の主人はリラだろ」
色男ぶりも台無しなロランは、ぐっと言葉を飲み込むと諦めたようにため息をつきました。
「分かりました。それではお言葉に甘えさせて頂きます。ですが何かあればすぐにでもお呼びつけ下さい」
「分かったわ。早く怪我を治すように、ね」
「ありがとうございます。それでは失礼させて頂きます」
体が痛むのか少しぎこちなく礼をすると、ロランも部屋を後にしました。その途端、エドは私の膝を枕にゴロリと寝転びました。
「全く……とんだ男前ね」
「ああ、あの男、本当に手加減なしだったぞ」
「そう、どうだった?」
エドは腫れた瞼の奥からじっと私の顔を見詰めました。
「手心を加えたら死んでも許さないつもりだった。アイツ、それが分かってたんだろな。最初から最後まで本気できやがった」
不思議なことに、こんなにボロボロになりながらもエドの口調はどこか楽しげですらありました。
「良い勝負だったのね」
「まあ、な。ある意味スッキリはしたかな。たまにはリラのバカな助言も役に立つんだな……って痛って!」
頬に貼り付けられたガーゼをツンツンと指で突くと、エドは思い切り顔を歪めました。
「得るものがあったのなら良かったわ」
何か吹っ切れたようなエドの表情に、私も嬉しくなるのでした。
「薬、面倒臭いな。朝晩リラが塗ってくれよ」
「もう、それなら思いっきり痛くしてあげるから」
「怪我人なんだ、優しくしてくれ」
不服そうに口を尖らせるエドに思わず笑ってしまいました。
見た目は大分大人になりましたが、こうして昔と変わらない表情が見られると、やっぱり私が良く知るエドなのだと安堵するのでした。
10
あなたにおすすめの小説
『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」
その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。
有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、
王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。
冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、
利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。
しかし――
役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、
いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。
一方、
「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、
癒しだけを与えられた王太子妃候補は、
王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。
ざまぁは声高に叫ばれない。
復讐も、断罪もない。
あるのは、選ばなかった者が取り残され、
選び続けた者が自然と選ばれていく現実。
これは、
誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。
自分の居場所を自分で選び、
その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。
「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、
やがて――
“選ばれ続ける存在”になる。
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる