孤独な姫君に溺れるほどの愛を

ゆーかり

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悔しいなら見返せ。

両親を失ったエドヴァルドに、祖父が良く言って聞かせた言葉だ。

最愛の息子でもある後継者を奪われた憤りは祖父とて同じこと。だから胸に燻る怒りや憎しみは良く分かるが、それをただぶつけるのではなく、大事を為して必ず見返せと。

とはいえ祖父とて為政者の前に一人の人間。制裁は速やかに一片の慈悲もなく行われた。
首謀者一族直系は妻子に至るまで例外なく処刑し、罪人一族は一人も余すことなく断絶した。

セヴク侯爵家を生かしたのは恩情でもなんでもない、『使える』と判断したからだ。

リラは知らないであろう為政者としての祖父は、実に冷徹で剛毅果断な人間だ。
エドヴァルドはそんな祖父を尊敬していたし、容姿や性格が似ていることも誇りだった。

だから祖父から与えられることは何でも吸収した。唯一の正当な後継者として、両親を喪った悲しみに浸る時間など、エドヴァルドには許されていなかった。

そんな日々の中、リラと出会ったのは本当に偶然だった。

従姉が大怪我を負って城に滞在している、と祖父から聞いてはいた。王族を虐待するなど赦し難いと憤慨もしたし、まだ会ったこともない従姉が気掛かりではあった。

だが、秒単位でスケジュールを組まれるエドヴァルドには、中々畏まって会いに行く時間的余裕がなかったのだ。

そんな優等生なエドヴァルドでも、ほんの時折フラストレーションが爆発して逃げ出すことがあった。

そこは大人達には決して来ることの出来ない秘密の場所。小柄な者にしか通り抜け出来ない小さな穴を潜って出た先は、エドヴァルドにとって唯一一人になれる秘密の場所だった。

はずなのに──

その日は居るはずのない他人がいた。
年恰好は自分と同じくらいか。背を向けているが、全身を激しく震わせ泣いているのが分かった。

「どうしたんだ?」

何気なく声をかけると、少女は大きな目を零れ落ちそうなほど見開いて、エドヴァルドを振り返った。

涙に濡れた紫水晶の瞳を見た瞬間、ある強烈な感情が湧いた。

──俺が守ってやらなければ!

理屈ではなく、本能的にそう思った。
側に寄ってポツポツと話しをすると、寂しいと訴える少女──リラ。

(ああ、この子が──)

すぐに件の従姉だと分かった。そしてなんとなく祖父から聞き齧っていた彼女の境遇と心細げな眼差しとに、ぎゅっと胸を掴まれた。

ならば自分が側に居てやる、とエドヴァルドは自ら進んで約束していた。

だからエドヴァルドはリラと別れたその足で、真っ直ぐに祖父の元へ向かったのだ。

「ジジイ、リラの側にいてやりたい。時間を工面してくれ」

「ほう」

祖父は顎に手を当て、意味ありげにエドヴァルドを見下ろした。

「わざわざ工面といっても、リラはお前の婚約者候補じゃないぞ」

「なら、今すぐ候補にしてくれ。側に居てやるって約束したんだ」

「なんで候補にするんだ? 暇を見つけて普通に親族として接してやれば良いじゃないか」

エドヴァルドは暫し考え込んだ。
祖父は案外ロマンチストで、貴族には珍しく恋愛結婚に拘っている。自身は勿論、父も叔父も叔母も皆恋愛結婚だった。

そんな訳でエドヴァルドは、定期的に同年代の令嬢達との会合の場を設けられていた。正直嫌で嫌で仕方のない、苦痛しかない時間だった。

早くから良い子を見付けて仲良くなるように、という祖父の有難迷惑な計らいも、エドヴァルドにとっては全て裏目に出ていて、彼はこの頃女嫌いになりかけていた。

だから不思議だったのだ。
自然体でいられて、側にいることを苦痛に思わない異性は初めてだったから。

「ずっと一緒にいるならリラが良い」

すらりと口を突いて出た言葉は、胸の中にストンと綺麗に収まった。

「そうか」

フムフムと祖父は頷いた。分かってくれたのかと安心しかかったエドヴァルドの心を、祖父は無情にも突き放した。

「だがな、リラもまた儂の大事な孫。リラにも選ぶ権利はある。あれの成人まで待て」

「なっ……!」

「別に反対はしないぞ? 無理強いはせず、リラが承諾すれば良いだけのこと。まあ妨害はするかもしれないが、応援も反対もしないから自力で頑張れよ」

祖父はにっこり笑うと、話は終わったとばかりにしっしっと手で追い払った。

「……分かったジジイ、これは宣言だ。俺はあんたを超える王になってやる。その時隣にいるのはリラだ!」

来た時同様騒々しく去って行く孫の後ろ姿を、王は愉快そうに見送った。
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