戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥

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白鷺と鶴と

決起②

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 二、三日もすると、米沢にも会津の異変は伝えられた。

 すぐに山形にいる上杉景勝の下に伝えられる。

「兼続、会津で何かあったらしい」

 景勝の物言いが唐突すぎたのであろう、さすがの直江兼続も何のことか分からず目を瞬かせていた。

「何か、と申しますと?」

「まだ分からぬが、兵士を動員しているという情報が入ってきた」

「兵士を…?」

「加藤嘉明がそんなことをするとは思えんが、蒲生家の家臣も多く残ったというから」

「主君押込ですか…」

 兼続にも展開は読めたが、それでも腑に落ちないところはある。

「しかし、元々蒲生の家臣が相争っていたから加藤嘉明がやってきたのに、そうなると団結して加藤嘉明を押し込んだということなのでしょうか?」

「そこまでは分からん。いずれにしても、会津から攻めやすいのはこの米沢だ。しっかりと準備しておかねばなるまい」

「江戸にも伝えなければなりませんな」

「うむ…」

 その日のうちに、江戸へと使いが派遣された。



 使いを派遣すると、改めて景勝が兼続に話しかける。

「蒲生の残党は何を考えているのだと思う?」

「…活路があるとすれば、前田か上総介の援助を期待しているのではないかと。特に上総介は越後ですから、連絡を取りやすいということはありますし…」

「今まで自ら動くことのなかった前田や松平が、今回の会津には同調すると?」

「例えば、山野辺義忠が庄内などを暴発させれば…」

 兼続の発言に、「そうか」と景勝が相槌を打つ。

「確かに、最上領内も不穏ともなれば越後も含めれば広範囲を巻き込むことになるのう。これが前田の勝負手ということであろうか…」

「いきなり動くことはないでしょう。おそらく当面は様子見をするでしょうが、会津を鎮圧するのにてこずるようであれば動く可能性はあります」

「…早めに会津を押さえる必要があるということだな」

「左様でございます。そうでなければ、庄内や越後から我が領土に攻め込んでこられることも想定しなければなりません」

 兼続の言葉に、景勝が頷いて、ややあって尋ねる。

「兼続」

「何でしょう?」

「あの時以来だな…」

「…左様でございますな」

 あの時、というのが関ケ原と並行して行われた慶長出羽合戦や、それに続く上杉家改易の危機にあることは言うまでもない。

「…不思議なものだ。当時はあんなことは二度とあってほしくないと願ったにも関わらず」

 景勝は笑った。景勝が笑うことがないことを知っている兼続が「おっ」と声をあげる。

「今は何やら楽しみも湧いてきておる」

「…確かにそうですな」

 兼続も思わず笑った。



 景勝の派遣した使いは、陸奥の太平洋岸を通過して、四日ほどで江戸に到着した。

 知らせを受けた井伊直孝、伊達政宗は仰天する。

「本当だとすれば、加藤嘉明も存外情けない…」

「とはいえ、あの者達を引き受けるよう頼んだのは我々でございますし」

 実際、振の要請を受けて、加藤嘉明に押し付けるような形で預けた家臣である。その者が反乱したことについて、加藤嘉明に責めを問う訳にもいかない。

「蒲生が治めている間は仲たがいばかりしていて、加藤が来るなり団結して謀反をするとはどういう了見なのじゃ」

「文句を言っても仕方ありません。措置を講ぜぬことには…」

 井伊直孝の言葉に、政宗も溜息交じりに頷く。

「会津攻めは実績から言っても上杉景勝に任せるしかありません。また、上総殿が不穏ゆえ、沼田の真田信之に牽制をするよう取り諮るというのでどうでしょうか?」

「いや、上杉だけに任せるのは適当ではない。もちろん、蒲生の残党は早めに抑える必要があるが、上杉家をあまりにも強くしてしまうのも問題だ」

「しかし、周辺の小大名を従わせられるのは上杉くらいしか…」

「馬鹿を申されては困る。奥州にはもう一家、周辺を従わせられる者がおる。伊達政宗という者がな」

「えっ!?」

 直孝が仰天した。

「何を驚いておられる? わしでは役不足だとでも?」

「あ、いや、そういうことではなく、伊達殿が江戸を離れられたら、江戸の諸事を全てそれがしが行うことになってしまうのですが…」

 二人でもてんやわんやの状態なのに、一人になったらどうなるのか。

 その想像をするだけでも、吐き気を催す。

「二か月以内には抑え込むゆえ、それまでは井伊殿が取り計らってくれい」

「いや、そんな簡単に言われましても…」

「上総には途中で強く言っておく。奴も我々がきちんと動いているうちはどうすることもできんはずだ」

 政宗には直孝の意見を聞くつもりは全くないらしい。既に仙台に向かうつもりで話をしている。

 結局、二刻のうちに、政宗は家光らにも告げて江戸城を退出してしまった。



 上野・沼田。

 井伊直孝の書状が真田信之の下に届き、信之も頭を抱える。

「随分と唐突に大役を仰せつかったものです」

「ハハハ、真田殿ならば大丈夫でございましょう」

 傍らで笑っているのは宇喜多秀家である。豪とともに金沢から江戸に向かっていた途中、沼田に立ち寄っていたところ、一日くらい立ち寄られてはどうかと真田信之から誘われ、屋敷にいたのである。

「全く。客人のいる時に限って、こういうものが来るのですからのう…」

 信之は手紙をしまうと、北の方を向いた。

「…しかし、会津は怪しいとは思っていましたが、こうも露骨に動くというのは」

「おそらく、今回の蜂起は金沢や高田とは関係のないことでありましょう」

「…ほう? どうしてそう思われるのです?」

「それがしは、金沢と高田を通って、ここまで来ましたが、そのような準備をしている形跡は全くありませんでした」

「それは宇喜多殿に気づかれぬようにしていたのでは?」

「それはありません。会津が蜂起をする以上、必ず東国の切支丹に声をかけるはずです。それがしはここに来るまで豪とともに切支丹の施設に寄ってきましたが、そのような気配はまるでありませんでした。その様子が何もないということは、追い込まれて自暴自棄で起こしたものと考えるのが妥当ではないかと思います。金沢も高田も、今頃どうしたものか苦慮しているに違いありません」

 秀家の言葉に、信之は腕組みをした。

「そうですか。それならば私としても安心できます」

 と答えると、秀家の表情は浮かないものになる。信之は苦笑した。

「まだ何かありそうですな」

「ある、とはっきり断言できるわけではないのですが…」

「私も心当たりはあります。そうなった場合には非常に困ったことになりそうということが」

「はい。おそらく今、私と真田殿が考えていることは同じだろうと思います。ただ、この期に及んで、そうすることに利を見いだせるかどうか、そこは私にも分かりません」

「伊達政宗が会津側についた場合、前田・上総介も間違いなく呼応するでしょう。十分に利はあるのではないかと思いますが」

「はい。ただ…」

「もちろん、私もそうでないことを願いたいのですが」

 信之は北を向いた。

「…私も宇喜多殿とともに江戸に行って、源二郎を沼田に連れてきていいか頼むとしますかな…。こういう状況だ、兄弟の情くらいは信じたいものです」

「いいかもしれませんな」

 秀家は笑って応じた。
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