35 / 77
「橋」の管理人
35 今日は控えめに150kg
しおりを挟む
孝介は知り合いの女子プロレスラー、マックス流子とフィットネスクラブに来ていた。
この2人は月に1度か2度、共にウェイトトレーニングをする「筋トレ仲間」である。
孝介はベンチプレス台でバーベルを調整している。バーが20kg、プレートが130kg。今日はとりあえず合計150kgでやってみることにした。
「おいおい関取、あんた仮にも前頭まで行ったんだろ? 随分控え目だな」
「はっ! 引退してから何年経ってると思ってんだ」
そう言い合いながら、孝介はベンチプレス台に仰向けになる。
バーに両手をかけて大きく溜め息をつき、もう一度息を吸う。バーを握ってそれを持ち上げながら、息を吐く。そのあとは呼吸のリズムに従ってバーベルの上下運動を1往復、そして「はっ!」と気合を入れてもう1往復。
計2回のリフトアップで、孝介はバーベルを置いた。
「やっぱり衰えたな、関取」
「うっせぇや! その代わり柔軟性は若い頃とあまり変わってねぇぜ」
「私にもやらせろ」
流子は孝介をベンチプレス台からどかせ、彼の代わりに横たわる。
「ちょっと待ってろ。30kgばっか減らしてやるからよ」
「バカか! 余計なことするな。関取はそこで見てろ」
「無理すんじゃねぇぞ、マックス。あんた確か47歳だろ? 俺より5つ上の姉さんが、俺と同じ重さってのは……」
「いいから黙ってろ!」
流子は肺を精一杯広げて息を吸い、
「たあっ!」
と、150kgのバーベルを一気に持ち上げた。
これだけならまだ問題ないかもしれないが、肝心なのはこのあとだ。流子はバーベルをゆっくり下ろし、胸につく位置まで持っていく。
「上げられるか、マックス?」
孝介は流子の頭の位置に立ち、限界を迎えた場合に備えていつでも補助に入れるようにしている。が、流子はそれに抗うかのように、
「ふんっ!」
と声を上げ、バーベルを持ち上げてしまった。
さらに流子は、
「もう1回だ!」
などと孝介に告げ、本当に2回目の上下運動に入ってしまった。
「お、おい! 無理するな!」
孝介はそう返すが、この時点で既にバーベルは再降下中。バーが流子の胸部に接近し、やがて接触してしまった。その瞬間、
「うおりゃあぁぁぁっ!」
掛け声一閃、流子は腕力と背筋力を総動員して150kgの鉄の塊を押し上げた。
両腕の肘がピンと伸びる位置まで達したのを見届け、流子はようやくバーベルをラックに戻す。もちろん、孝介の補助には一切頼っていない。
「よっしゃ! どうだ関取、あんたと同じだけやったぞ!」
「……40半ばで無茶は禁物だぞ」
「負け惜しみ言うんじゃねぇ!」
流子はベンチプレス台から立ち上がり、
「次はゴッチ式トレーニングやるぞ。関取も付き合え!」
と、孝介に言いつけた。
この2人は月に1度か2度、共にウェイトトレーニングをする「筋トレ仲間」である。
孝介はベンチプレス台でバーベルを調整している。バーが20kg、プレートが130kg。今日はとりあえず合計150kgでやってみることにした。
「おいおい関取、あんた仮にも前頭まで行ったんだろ? 随分控え目だな」
「はっ! 引退してから何年経ってると思ってんだ」
そう言い合いながら、孝介はベンチプレス台に仰向けになる。
バーに両手をかけて大きく溜め息をつき、もう一度息を吸う。バーを握ってそれを持ち上げながら、息を吐く。そのあとは呼吸のリズムに従ってバーベルの上下運動を1往復、そして「はっ!」と気合を入れてもう1往復。
計2回のリフトアップで、孝介はバーベルを置いた。
「やっぱり衰えたな、関取」
「うっせぇや! その代わり柔軟性は若い頃とあまり変わってねぇぜ」
「私にもやらせろ」
流子は孝介をベンチプレス台からどかせ、彼の代わりに横たわる。
「ちょっと待ってろ。30kgばっか減らしてやるからよ」
「バカか! 余計なことするな。関取はそこで見てろ」
「無理すんじゃねぇぞ、マックス。あんた確か47歳だろ? 俺より5つ上の姉さんが、俺と同じ重さってのは……」
「いいから黙ってろ!」
流子は肺を精一杯広げて息を吸い、
「たあっ!」
と、150kgのバーベルを一気に持ち上げた。
これだけならまだ問題ないかもしれないが、肝心なのはこのあとだ。流子はバーベルをゆっくり下ろし、胸につく位置まで持っていく。
「上げられるか、マックス?」
孝介は流子の頭の位置に立ち、限界を迎えた場合に備えていつでも補助に入れるようにしている。が、流子はそれに抗うかのように、
「ふんっ!」
と声を上げ、バーベルを持ち上げてしまった。
さらに流子は、
「もう1回だ!」
などと孝介に告げ、本当に2回目の上下運動に入ってしまった。
「お、おい! 無理するな!」
孝介はそう返すが、この時点で既にバーベルは再降下中。バーが流子の胸部に接近し、やがて接触してしまった。その瞬間、
「うおりゃあぁぁぁっ!」
掛け声一閃、流子は腕力と背筋力を総動員して150kgの鉄の塊を押し上げた。
両腕の肘がピンと伸びる位置まで達したのを見届け、流子はようやくバーベルをラックに戻す。もちろん、孝介の補助には一切頼っていない。
「よっしゃ! どうだ関取、あんたと同じだけやったぞ!」
「……40半ばで無茶は禁物だぞ」
「負け惜しみ言うんじゃねぇ!」
流子はベンチプレス台から立ち上がり、
「次はゴッチ式トレーニングやるぞ。関取も付き合え!」
と、孝介に言いつけた。
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる