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真夜と孝介
71 お前がコウの何を知ってるんだ!?
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ロングコートを脱ぎ捨てたその女は、上半身をライトアーマーに包んでいた。腰の左側にはレイピアを差している。典型的な光の騎士の出で立ちだ。
女はそのレイピアを抜き、
「探したぞ、ヒルダ。今日こそお前を討つ!」
と、剣先を真夜の喉元に向けた。
そんな馬鹿な……!
だが、自分にレイピアを向ける女がキシロヌ王国の女騎士セシリアであることにようやく気づいた時、真夜は現実を呑み込むしかなくなった。そして自分の背後には、セシリアと同じパーティーの重装戦士グレゴリーがいつの間にか立っている。さすがにこの日本ではプレートアーマーではいられないらしく、セシリアが装備しているのと同じようなライトアーマーを着て刃渡りの短いファルシオンを構えている。
しかし、光の地の連中が由比ガ浜海岸にいることには寸分も変わらない。
さらに真夜の左手から、
「ヒルダ、おとなしくするんだ!」
という、やはりどこかで聞いたことのある声がした。
パーティーのリーダー、そして「異世界勇者」として名を馳せる緋村玲人である。
「お前は……レイト!?」
「ヒルダ、お前はもう逃げられない。今から俺たちの言うことを聞くんだ」
玲人は右手でライトニングシュートを充填させながらも、
「おとなしくしていたら、決して悪いようにはしない。今から俺たちはお前を——」
玲人は静かだが力強い口調で、
「お前を二度と異世界へ行けないようにする」
と、告げた。それに対して真夜は、
「……今まで私を追ってたのか!?」
眉間に皺を寄せながら、玲人にそう問いかける。
「お前たちはわざわざこの世界に来て、私を追跡していたのか? あの光の魔操師……ヒューとかいう魔操師は、私よりも大きな“橋”を作り出せるらしいな? その“橋”を渡って日本に来たのか?」
するとそこへ、
「その通りです、大松樹さんの奥さん」
と、また別の男の声がやって来た。
そこにいたのは、光の魔操師ヒューである。が、彼の顔を確認した直後の真夜はほんの僅かの間だが、大いに混乱してしまう。なぜなら、この青年魔操師の顔は間違いなく日本でも見ているからだ。
それを思い出すのに難儀しなかった。そう、彼は上野の神社で出会った青年だ。孝介のファンだと言って近づいた、あの男だ! ついでに真夜は、ヒューがふたつの世界の混血児であることも思い出した。
そういうことだったのか……!
「あの……この前はありがとうございました。大松樹さんに上野の歴史とかを教えてもらったり、お小遣いをくれたりしたことは本当に感謝しています。ですけど……いえ、だからこそ奥さんにお願いがあります。ここはどうか、俺たちの言うことに従ってください!」
そう言いつつ、ヒューは両手に魔力を蓄積させた。
「すぐに終わります。これは俺たちも奥さんも、そして大松樹さんも誰ひとり不幸にしない唯一の方法なんです。大丈夫、本当にすぐに終わりますから」
さらにヒューは、こう付け足す。
「俺は大松樹さんがやっと掴んだ幸せを取り上げたくないんです。本当にそれだけなんです。信じてください」
大松樹さんが掴んだ幸せを取り上げたくない……?
何を言ってるんだ、この小僧は。
お前がコウの何を知ってるんだ。コウとお前が会ったのは、あの上野の時が初めてじゃないのか? しかもお前は、「俺はライターの松島さんのファンです」とか何とか言って私たちに近づいたんじゃないのか?
デマカセを言って私をつけていたくせに、「俺は大松樹さんが掴んだ幸せを取り上げたくないんです」だと?
もしかしたらお前は、コウの過去をネットか何かで調べたのかもしれない。お前の知っている大松樹の過去は、確かにその通りだ。ただし、私はネットには絶対に書かれていないコウの姿を知っている。元前頭大松樹でもなければライター松島孝介でもない、「ただの男」としてのコウの姿を。
一体、お前はコウの何を知っているというんだ!?
許せない。嘘をついた上に、私はおろかコウまで侮辱したこいつらを絶対に許せない……!
女はそのレイピアを抜き、
「探したぞ、ヒルダ。今日こそお前を討つ!」
と、剣先を真夜の喉元に向けた。
そんな馬鹿な……!
だが、自分にレイピアを向ける女がキシロヌ王国の女騎士セシリアであることにようやく気づいた時、真夜は現実を呑み込むしかなくなった。そして自分の背後には、セシリアと同じパーティーの重装戦士グレゴリーがいつの間にか立っている。さすがにこの日本ではプレートアーマーではいられないらしく、セシリアが装備しているのと同じようなライトアーマーを着て刃渡りの短いファルシオンを構えている。
しかし、光の地の連中が由比ガ浜海岸にいることには寸分も変わらない。
さらに真夜の左手から、
「ヒルダ、おとなしくするんだ!」
という、やはりどこかで聞いたことのある声がした。
パーティーのリーダー、そして「異世界勇者」として名を馳せる緋村玲人である。
「お前は……レイト!?」
「ヒルダ、お前はもう逃げられない。今から俺たちの言うことを聞くんだ」
玲人は右手でライトニングシュートを充填させながらも、
「おとなしくしていたら、決して悪いようにはしない。今から俺たちはお前を——」
玲人は静かだが力強い口調で、
「お前を二度と異世界へ行けないようにする」
と、告げた。それに対して真夜は、
「……今まで私を追ってたのか!?」
眉間に皺を寄せながら、玲人にそう問いかける。
「お前たちはわざわざこの世界に来て、私を追跡していたのか? あの光の魔操師……ヒューとかいう魔操師は、私よりも大きな“橋”を作り出せるらしいな? その“橋”を渡って日本に来たのか?」
するとそこへ、
「その通りです、大松樹さんの奥さん」
と、また別の男の声がやって来た。
そこにいたのは、光の魔操師ヒューである。が、彼の顔を確認した直後の真夜はほんの僅かの間だが、大いに混乱してしまう。なぜなら、この青年魔操師の顔は間違いなく日本でも見ているからだ。
それを思い出すのに難儀しなかった。そう、彼は上野の神社で出会った青年だ。孝介のファンだと言って近づいた、あの男だ! ついでに真夜は、ヒューがふたつの世界の混血児であることも思い出した。
そういうことだったのか……!
「あの……この前はありがとうございました。大松樹さんに上野の歴史とかを教えてもらったり、お小遣いをくれたりしたことは本当に感謝しています。ですけど……いえ、だからこそ奥さんにお願いがあります。ここはどうか、俺たちの言うことに従ってください!」
そう言いつつ、ヒューは両手に魔力を蓄積させた。
「すぐに終わります。これは俺たちも奥さんも、そして大松樹さんも誰ひとり不幸にしない唯一の方法なんです。大丈夫、本当にすぐに終わりますから」
さらにヒューは、こう付け足す。
「俺は大松樹さんがやっと掴んだ幸せを取り上げたくないんです。本当にそれだけなんです。信じてください」
大松樹さんが掴んだ幸せを取り上げたくない……?
何を言ってるんだ、この小僧は。
お前がコウの何を知ってるんだ。コウとお前が会ったのは、あの上野の時が初めてじゃないのか? しかもお前は、「俺はライターの松島さんのファンです」とか何とか言って私たちに近づいたんじゃないのか?
デマカセを言って私をつけていたくせに、「俺は大松樹さんが掴んだ幸せを取り上げたくないんです」だと?
もしかしたらお前は、コウの過去をネットか何かで調べたのかもしれない。お前の知っている大松樹の過去は、確かにその通りだ。ただし、私はネットには絶対に書かれていないコウの姿を知っている。元前頭大松樹でもなければライター松島孝介でもない、「ただの男」としてのコウの姿を。
一体、お前はコウの何を知っているというんだ!?
許せない。嘘をついた上に、私はおろかコウまで侮辱したこいつらを絶対に許せない……!
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