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ようやく母が寝室に引き取った午後十時、ジェラールはロランドに食事を用意します。「ついにドラゴンが眠りにつき……」というマダムに対する比喩表現が秀逸です。
「あのときユゲットの招待を受けたけど、家族に婚約者だと紹介されるとは思っていなかった」
彼がロランドに打ち明けます。いずれはロランドと結婚するつもりがあるようなことを口にしつつ、でもその態度はあいまいな彼でした。ロランドは、もうふた晩も家を空けていることが気にかかってなりません。でも憂鬱を抱える彼女への思いやりをもつ余裕のないジェラールでした。
そこへ現れたのはジェラールの母、眠っていたはずのマダム・ボワルデューです。
「待って、説明するから……」
母が想像しているようなことは何もしていなかったと言いわけするジェラールですが、「話を聞く前に、マドモワゼル、どうかこの家からお引き取りください」と冷たく宣言されてしまいます。階段を駆け下りるロランド。追いかけようとするジェラールは「あなたは残っていなさい」という母の一言で動けなくなってしまうのでした。ロランドが部屋を出るときマダムは、コートと帽子を忘れないようにと言葉を添えるのですが、さすがに若い娘をそのまま放り出すのはかわいそうだと同情したのでしょうか。
ロランドは寒く凍える真夜中に、知らない村々を通り抜けていきます。野良犬に怯える自分を勇気づけようと何度も「意気地なし」「意気地なし」と声に出しながら歩き続けますが、その言葉はジェラールに向けたものなのでしょうか、それとももっと早く彼に見切りをつけなかった自分へのフラストレーションも含まれているのでしょうか。
大好きな父になんて説明したらいいのかわからないし、ロランドはもう今さら家に帰りたくありません。いっそ死んでしまおうとも考えますが、そうする手段が手近に何もないのでした。
手持ちの資金は、たった30フランだけ……。村を通るとき見かけたホテルは満室でした。深夜一時、ようやくカーンにたどり着き、彼女は空き部屋のあるホテルを見つけます。
翌日、霧の濃い通学路でコレットはロランドに呼び止められました。
「もうカーンには住みたくないの。何も聞かないで200フラン家から持ってきて! でなければオルヌ川に飛び込んで死ぬから」
事情はよくわかりませんが、姉のためとりあえず家に取りに向かうコレット。
自宅の雰囲気は、いつもとまったく違うものでした。ロべルトは「借金取りの執行官が来ている」と青ざめています。母は買い物に出かけたそうですが、どこにそんなお金があるのでしょうか。
ココが父の部屋に上がると、二人の執行官が差し押さえのリストを作っている最中でした。もう家の中の物は何もかも自分たちの物ではなくなってしまったのです。コレットはロベルトから200フランを受け取り、自分が彼らの注意を惹きつけている間に貴重品を隠すよう指示して、執行官が仕事をしている足元に掃除機をかけ彼らの邪魔をします。
その後200フランを持ってロランドのところへ戻ろうとしたココは、家のそばに立っていたロリーヴ氏に気づくと、憎しみを込めた目で睨みつけました。ところが彼は、しんみりした口調でこんなことを語りかけてくるのです。
「私を恨んでいるのでしょう。でもね、アドラン氏はこうなっても仕方のない言葉をぶつけてきたんですよ。それに、実は私は妻を亡くして以来、アドラン家にくると安らぎを覚えるんです……」
どうやら七人の娘たちのうち誰かに好意を持っているらしく、しかもそれはおそらくロランドかコレットのようなのです。確かに姉妹の誰かが彼と結婚すれば家を売ることもなく今まで通りみんな一緒に暮らせるのは間違いありません。
シムノンの技法は精巧で、先日のアドラン対ロランドの争いの場面でセリフを全て明らかにしなかったので、アドランがそんなにひどいことを言ったんだろうか――とロリーヴ氏の言動を信じてしまいそうになるわけなんですね。
コレットは待っていたロランドにお金を渡し、ビストロで食事をとる姉に言います。
「さっきオルヌ川に身投げするって言ったでしょ?」
「まあ必要があれば、いつでもそうするわ」
「自殺なんかしたって誰の役にも立たないわ。それくらいなら家族を救うために、ムッシュー・ロリーヴと結婚して!」
「急になんてこと言い出すの。あんな年寄り絶対お断り!」
ロランドはきっぱり突っぱねます。
第五章、父の部屋を訪れたココは、悩んでいるギヨーム・アドランを見て心からの尊敬を示します。彼は真摯なコレットの態度に気持ちを開き、この家の価値が現在おそらく十二万フラン以上で、その半分の六万フランをロリーヴ氏から借りていることを娘に打ち明けました。
その後ココは階下に降りて姉妹たちとロリーヴ氏の年齢を想像しあいますが、父のギヨームが53歳なのでどうやら60歳前後ではないかと推測します。コレットはもし自分が結婚したら、彼が死ぬ頃には30半ばになってしまうだろうと心を傷めるのでした。ロランドは彼と結婚したくないと言っているし、やっぱり自分が家族を守らなくてはならないと責任を感じているのでしょうか。
そしてユゲットは「私のせいかもしれない」と泣きそうな顔でコレットを見つめるのでした。その理由はなんだろうとずっと考えていた彼女は、後でユゲットに尋ねますが、なかなか話してくれません。
コレットは自分のほうから切り出します。
「初めて映画館でジェラールに会ったとき、彼は私たちの間に座ったのを覚えてる? あれは私に関心があるからだと直感したの。でも次の週ユゲットが真ん中に座って彼を独り占めした……」
返す言葉もないユゲットは、ついに泣き出してしまいました。
実はジェラールがユゲットにココの年齢を聞いたのですが、どうしても彼の気を引きたかった彼女は妹が15歳だと偽ってしまったというのです。
第六章は最終章です。
翌日父は仕事に向かい、浪費家の母も執行官が来て以来さすがに顔色を変え、ルアーブルの姉妹にお金を借りに行きました。
風邪気味だったココは学校を休むことにして、ミミに窓の外を見るよう頼みます。
「角にロリーヴ氏が立ってる」
おそらくココを待っているのでしょう。いま彼女が出て行くわけにはいきません。
「ミミ、ジェラールのところへ行って欲しいの。コレットが……いえココって呼んだほうがいいわ、昨日ロリーヴ氏と婚約しましたって。それから今日はとっても重い病気で寝ていますって言って」
「そんなに具合が良くないの?」
コレットの症状はどう見てもたいしたことないのですが、文字通りに受け取ってしまうのが双子なのにミミが幼いと言われる所以です。
「そして私の歳はもうすぐ17歳だって、必ず伝えてくれる?」
「まだ16歳4か月だけど……」と融通が利かないミミ。(どことなく別の次元に住んでいるような子です)それでも指図に従って出かけます。
やがて帰ってきたミミ。
「彼の部屋には入れなかった。だって、誰かと話してたから」
「誰かって誰よ?」
「……ユゲット」
果たして姉は、ジェラールを独り占めしようとしているのでしょうか!?
ベッドから起き上がったココのところへやって来たのは……。
それは、ユゲットから真実を聞いたジェラールでした。彼は自分も最初に会った時からココが好きだったけれど、婚約には若すぎるというので諦めようとしたのでした。
楽しいハッピーエンドです。優柔不断なジェラールが即座にコレットのところへ駆けつけた、ということは彼女への思いは真剣だったという証拠なのでしょう。
ココが年下なのに時どき姉たちを「娘」と呼びかける場面が数回あります。これは、「グレート・ギャッツビー」で友人を「オールド・スポーツ」と呼んだり、「ライ麦畑でつかまえて」で妹を「オールド・フィービー」と言ったりするのに似て、親しみを込めたものなのだと思います。
翌年に制作された映画版「七人の娘の家」では少しストーリーが違っていて、原作ではジェラールが学生(大学の専攻をいろいろ変えたので20代前半)なのに映画では画家の役です。そしてロリーヴ氏はもう少し若い設定で、姉妹の誰かと結婚したいという意思を冒頭からあからさまにしてきます。
さてノルマンディーのカーンといえば、この本の出版から三年後1944年の夏に第二次世界大戦の舞台になります。ノルマンディー上陸作戦のハブ地点となるので、敵を攻撃するためにフランス連合軍が上空から襲撃を繰り返しました。一般市民の住居もたくさん被害を受け、基本的に住民は避難しているはずですが家をなくした市民も多数いました。それはおそらくシムノンの想像を遥かに超える展開だったでしょう。
ノルマンディー地方の食べ物がたくさん出てくるのも楽しい作品ですね。
アドランはカルヴァドスを疲れた時にたしなむ習慣があるとか、妻が買ってくる4.5フランの高級カマンベール・フロマージュはさすがに分不相応だと感じているなどなど……。ジェラールが物置のロランドに持っていく食料が、アップル・シードルや林檎だったりするのも、非常にノルマンディーらしいです。
コレットの独自な判断による行動が多くて、彼女が少し一人で張り切りすぎているような印象を持ってしまうかもしれません。おそらく作者は少女コレットに、メグレのような物語の進行役をさせたかったのではないでしょうか。メグレは経験豊かな警視なので、読者の理解できないレベルの判断を下し部下を動かしても尊敬を示されますが、少女がその役割を担うとお芝居に滑稽さが出てきます。
たとえばギヨーム・アドランが、歴史には詳しくても世間知らずの学者だったり、母親よりも長女ロベルトが家を切り盛りしているなど、世渡りのうまくない両親としっかり者の娘たちの組み合わせは、世界大戦初期の不穏な社会に安らぎをもたらしてくれたのでしょう。
もしもこのシムノンの作りあげた世界を利用してミステリーに仕立てるとしたら、みなさんならどんなストーリーにしますか?
やっぱり殺されるのはロリーヴ氏でしょうか? 殺害の動機はほぼ全員にありますよね。例えばですが、ひとつのナイフで何度も刺されて死んでいるのにそれぞれ傷口の角度や深さが違うため、事件が難航するというのは(まあアガサ・クリスティーのパクリだと言われそうですが)いかがでしょうか。
このLa Maison des Sept Jeunes Fillesは、「メグレと判事の家」La Maison du Jugeと「メグレとマジェスティック・ホテルの地階」Les Caves du Majesticの間に出版された作品になります。
この機会にメグレ作品をのぞいてみるのも楽しいですよ。
「あのときユゲットの招待を受けたけど、家族に婚約者だと紹介されるとは思っていなかった」
彼がロランドに打ち明けます。いずれはロランドと結婚するつもりがあるようなことを口にしつつ、でもその態度はあいまいな彼でした。ロランドは、もうふた晩も家を空けていることが気にかかってなりません。でも憂鬱を抱える彼女への思いやりをもつ余裕のないジェラールでした。
そこへ現れたのはジェラールの母、眠っていたはずのマダム・ボワルデューです。
「待って、説明するから……」
母が想像しているようなことは何もしていなかったと言いわけするジェラールですが、「話を聞く前に、マドモワゼル、どうかこの家からお引き取りください」と冷たく宣言されてしまいます。階段を駆け下りるロランド。追いかけようとするジェラールは「あなたは残っていなさい」という母の一言で動けなくなってしまうのでした。ロランドが部屋を出るときマダムは、コートと帽子を忘れないようにと言葉を添えるのですが、さすがに若い娘をそのまま放り出すのはかわいそうだと同情したのでしょうか。
ロランドは寒く凍える真夜中に、知らない村々を通り抜けていきます。野良犬に怯える自分を勇気づけようと何度も「意気地なし」「意気地なし」と声に出しながら歩き続けますが、その言葉はジェラールに向けたものなのでしょうか、それとももっと早く彼に見切りをつけなかった自分へのフラストレーションも含まれているのでしょうか。
大好きな父になんて説明したらいいのかわからないし、ロランドはもう今さら家に帰りたくありません。いっそ死んでしまおうとも考えますが、そうする手段が手近に何もないのでした。
手持ちの資金は、たった30フランだけ……。村を通るとき見かけたホテルは満室でした。深夜一時、ようやくカーンにたどり着き、彼女は空き部屋のあるホテルを見つけます。
翌日、霧の濃い通学路でコレットはロランドに呼び止められました。
「もうカーンには住みたくないの。何も聞かないで200フラン家から持ってきて! でなければオルヌ川に飛び込んで死ぬから」
事情はよくわかりませんが、姉のためとりあえず家に取りに向かうコレット。
自宅の雰囲気は、いつもとまったく違うものでした。ロべルトは「借金取りの執行官が来ている」と青ざめています。母は買い物に出かけたそうですが、どこにそんなお金があるのでしょうか。
ココが父の部屋に上がると、二人の執行官が差し押さえのリストを作っている最中でした。もう家の中の物は何もかも自分たちの物ではなくなってしまったのです。コレットはロベルトから200フランを受け取り、自分が彼らの注意を惹きつけている間に貴重品を隠すよう指示して、執行官が仕事をしている足元に掃除機をかけ彼らの邪魔をします。
その後200フランを持ってロランドのところへ戻ろうとしたココは、家のそばに立っていたロリーヴ氏に気づくと、憎しみを込めた目で睨みつけました。ところが彼は、しんみりした口調でこんなことを語りかけてくるのです。
「私を恨んでいるのでしょう。でもね、アドラン氏はこうなっても仕方のない言葉をぶつけてきたんですよ。それに、実は私は妻を亡くして以来、アドラン家にくると安らぎを覚えるんです……」
どうやら七人の娘たちのうち誰かに好意を持っているらしく、しかもそれはおそらくロランドかコレットのようなのです。確かに姉妹の誰かが彼と結婚すれば家を売ることもなく今まで通りみんな一緒に暮らせるのは間違いありません。
シムノンの技法は精巧で、先日のアドラン対ロランドの争いの場面でセリフを全て明らかにしなかったので、アドランがそんなにひどいことを言ったんだろうか――とロリーヴ氏の言動を信じてしまいそうになるわけなんですね。
コレットは待っていたロランドにお金を渡し、ビストロで食事をとる姉に言います。
「さっきオルヌ川に身投げするって言ったでしょ?」
「まあ必要があれば、いつでもそうするわ」
「自殺なんかしたって誰の役にも立たないわ。それくらいなら家族を救うために、ムッシュー・ロリーヴと結婚して!」
「急になんてこと言い出すの。あんな年寄り絶対お断り!」
ロランドはきっぱり突っぱねます。
第五章、父の部屋を訪れたココは、悩んでいるギヨーム・アドランを見て心からの尊敬を示します。彼は真摯なコレットの態度に気持ちを開き、この家の価値が現在おそらく十二万フラン以上で、その半分の六万フランをロリーヴ氏から借りていることを娘に打ち明けました。
その後ココは階下に降りて姉妹たちとロリーヴ氏の年齢を想像しあいますが、父のギヨームが53歳なのでどうやら60歳前後ではないかと推測します。コレットはもし自分が結婚したら、彼が死ぬ頃には30半ばになってしまうだろうと心を傷めるのでした。ロランドは彼と結婚したくないと言っているし、やっぱり自分が家族を守らなくてはならないと責任を感じているのでしょうか。
そしてユゲットは「私のせいかもしれない」と泣きそうな顔でコレットを見つめるのでした。その理由はなんだろうとずっと考えていた彼女は、後でユゲットに尋ねますが、なかなか話してくれません。
コレットは自分のほうから切り出します。
「初めて映画館でジェラールに会ったとき、彼は私たちの間に座ったのを覚えてる? あれは私に関心があるからだと直感したの。でも次の週ユゲットが真ん中に座って彼を独り占めした……」
返す言葉もないユゲットは、ついに泣き出してしまいました。
実はジェラールがユゲットにココの年齢を聞いたのですが、どうしても彼の気を引きたかった彼女は妹が15歳だと偽ってしまったというのです。
第六章は最終章です。
翌日父は仕事に向かい、浪費家の母も執行官が来て以来さすがに顔色を変え、ルアーブルの姉妹にお金を借りに行きました。
風邪気味だったココは学校を休むことにして、ミミに窓の外を見るよう頼みます。
「角にロリーヴ氏が立ってる」
おそらくココを待っているのでしょう。いま彼女が出て行くわけにはいきません。
「ミミ、ジェラールのところへ行って欲しいの。コレットが……いえココって呼んだほうがいいわ、昨日ロリーヴ氏と婚約しましたって。それから今日はとっても重い病気で寝ていますって言って」
「そんなに具合が良くないの?」
コレットの症状はどう見てもたいしたことないのですが、文字通りに受け取ってしまうのが双子なのにミミが幼いと言われる所以です。
「そして私の歳はもうすぐ17歳だって、必ず伝えてくれる?」
「まだ16歳4か月だけど……」と融通が利かないミミ。(どことなく別の次元に住んでいるような子です)それでも指図に従って出かけます。
やがて帰ってきたミミ。
「彼の部屋には入れなかった。だって、誰かと話してたから」
「誰かって誰よ?」
「……ユゲット」
果たして姉は、ジェラールを独り占めしようとしているのでしょうか!?
ベッドから起き上がったココのところへやって来たのは……。
それは、ユゲットから真実を聞いたジェラールでした。彼は自分も最初に会った時からココが好きだったけれど、婚約には若すぎるというので諦めようとしたのでした。
楽しいハッピーエンドです。優柔不断なジェラールが即座にコレットのところへ駆けつけた、ということは彼女への思いは真剣だったという証拠なのでしょう。
ココが年下なのに時どき姉たちを「娘」と呼びかける場面が数回あります。これは、「グレート・ギャッツビー」で友人を「オールド・スポーツ」と呼んだり、「ライ麦畑でつかまえて」で妹を「オールド・フィービー」と言ったりするのに似て、親しみを込めたものなのだと思います。
翌年に制作された映画版「七人の娘の家」では少しストーリーが違っていて、原作ではジェラールが学生(大学の専攻をいろいろ変えたので20代前半)なのに映画では画家の役です。そしてロリーヴ氏はもう少し若い設定で、姉妹の誰かと結婚したいという意思を冒頭からあからさまにしてきます。
さてノルマンディーのカーンといえば、この本の出版から三年後1944年の夏に第二次世界大戦の舞台になります。ノルマンディー上陸作戦のハブ地点となるので、敵を攻撃するためにフランス連合軍が上空から襲撃を繰り返しました。一般市民の住居もたくさん被害を受け、基本的に住民は避難しているはずですが家をなくした市民も多数いました。それはおそらくシムノンの想像を遥かに超える展開だったでしょう。
ノルマンディー地方の食べ物がたくさん出てくるのも楽しい作品ですね。
アドランはカルヴァドスを疲れた時にたしなむ習慣があるとか、妻が買ってくる4.5フランの高級カマンベール・フロマージュはさすがに分不相応だと感じているなどなど……。ジェラールが物置のロランドに持っていく食料が、アップル・シードルや林檎だったりするのも、非常にノルマンディーらしいです。
コレットの独自な判断による行動が多くて、彼女が少し一人で張り切りすぎているような印象を持ってしまうかもしれません。おそらく作者は少女コレットに、メグレのような物語の進行役をさせたかったのではないでしょうか。メグレは経験豊かな警視なので、読者の理解できないレベルの判断を下し部下を動かしても尊敬を示されますが、少女がその役割を担うとお芝居に滑稽さが出てきます。
たとえばギヨーム・アドランが、歴史には詳しくても世間知らずの学者だったり、母親よりも長女ロベルトが家を切り盛りしているなど、世渡りのうまくない両親としっかり者の娘たちの組み合わせは、世界大戦初期の不穏な社会に安らぎをもたらしてくれたのでしょう。
もしもこのシムノンの作りあげた世界を利用してミステリーに仕立てるとしたら、みなさんならどんなストーリーにしますか?
やっぱり殺されるのはロリーヴ氏でしょうか? 殺害の動機はほぼ全員にありますよね。例えばですが、ひとつのナイフで何度も刺されて死んでいるのにそれぞれ傷口の角度や深さが違うため、事件が難航するというのは(まあアガサ・クリスティーのパクリだと言われそうですが)いかがでしょうか。
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