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2臨場
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レストラン大石は中の島警察署の所管内にある。当然のように一一〇番の連絡を受けた県警通信指令室は署に出動を要請した。
覆面パトカーにのっていた佐川敏に臨場するように連絡が入った。
「またですか。他に手が空いている奴がいるはずですよね」と言って、運転をしていた相棒の近藤次郎は愚痴をこぼした。
「まあ、俺たちは宮仕えの身だよ。現場に行くしかない」
佐川にそう言われたので、近藤は口をとがらしながら車を飲食店ばかりが立ち並ぶグルメ通りに向かわせた。
さすがに雰囲気を大事にしている場所らしく、やたらに横文字の看板が多く、まるでサンフランシスコの街並みの中にいるように思えてしまう。だが、佐川たちがサンフランシスコに行ったことはない。
やがて、レストラン大石に近づくと、立入り禁止の黄色テープがはられ、交番からきた警官が立っていた。すでに店の前にある駐車場には鑑識専用のボンゴ車がすでに置かれているが、佐川たちがのってきた車をテープの中に入れるわけにもいかない。そこで店のじゃまにならない路肩に車に置き、店の人には頭をさげてお願いをしてから、レストラン大石に向かった。
すぐに警官は二人に敬礼をした。
「ご苦労さまです」
「中にもう入れるかな?」
「鑑識の方からまだ誰も入れるなと言われております」
二人は、道路沿いに置かれた自動販売機の所に行って、そこで缶コーヒーを買い三本も飲み、腹の中がだぶつき出していた。そんな時に店の中から出てきた鑑識係の田中康夫が手を振った。コーヒーの空き缶を備え付けのゴミ箱に投げ入れて二人は田中に近づく。
「もう、いいのかい?」
「ええ、まあ、どうぞ」
田中の後について佐川と近藤はレストラン大石の玄関口に行った。
田中が振り返ったので、二人は胸ポケットから前もって用意してきたビニールカバーを出して靴にかぶせ、手に白い手袋をはめた。
大理石の石段を三段ほどあがって店の中に入る。
食べ物と飲み物の匂いに満ち満ちていて、思わず佐川は鼻をならした。
「すごいご馳走ですね」と言って、近藤は周りを見まわしている。
「係長お連れしました」と田中が言う。
先に店の中に入っていた鑑識係長の根本右近が気難しそう顔をして佐川の方に顔を向けた。田中は他の鑑識係の二名と並んで根本の後ろに立っていた。
「マンガ家川村雄介がシャンパンを飲んで死んでしまった。川村が倒れていたのはこの辺りですよ」
根本はチョークで人型にかかれた枠を指さした。シャンパンやはき出した物で床がまだ濡れていた。
「川村さんの遺体はどうされたんですか?」
「私たちがくる前に救急車で病院に運ばれていましたよ。やはり、病院内ですぐに死亡が確認されたそうです。司法解剖をしなければならないので、いまは大学病院に運んでもらっている。解剖をすれば、どんな毒で殺害をされたのか判ると思いますよ」
「そうですか。シャンパンの中に毒を入れたのは誰ですか?」と佐川が率直に根本に聞いた。
「ウエイターがプレートにシャンパンを入れたグラスを載せて参加者の間をまわっていたらしいのですが、川村の取ったグラスにどうやって毒を入れたのかまだ分かっていない。もし、別の人が毒の入ったグラスを取っていれば、その人が死んでいたと思われます」
「グラスに毒を入れた者は、川村雄介を殺したかったのか、間違えて殺してしまったのか、それとも誰でもいい無差別殺人だったのか、まるで分からないと言うことですね」
「まあ、そう言うことになりますかね。私らがきた時に、この場にいた人たちからは指紋と唾液だけは取らしてもらいましたよ」
「この場にいた人たち? ところでパーティに来ていた人たちはどんな人たちだったのですか?」
「このパーティに呼んではいない人たちがかなり来ていたようですよ。川村雄介のファンですね。ここに来て、色紙にサインをもらっただけで帰っていた人たちがいたらしい。それに川村に書いてもらいたい雑誌の人たちもお忍び来ていたようです」
「その人たちはどうしたんですか?」
「警察がくると分かると、その前にここからいなくなっていた」
「ともかく、この場に残られていた方々からは話を聞かせてもらえるんですね」
「いや、皆さんには帰ってもらいました。鑑識作業のじゃまになりますからね。指紋検出や店の中に落ちている埃や土などの徴取など大掛かりにやらなければなりませんからね。判明しないが残っている指紋なんかも正確にとらなければならない」
佐川がめずらしくむっとした表情をしていた。それをまずいと思った根本は付け足すよう言っていた。
「ここにある食べ物なんかもすべてを運び出して、科捜研で調べてもらうと思っているんです。その前に、佐川さんに現場を見て置いてもらう方がいいと思ったのですよ。それに、残っていてくれた人たちは、すぐにでも仕事をさせてもらわないと困ると言い出しましてね。損害が出た場合、警察で損害を補填してくれるのですか、そんなことまで言われては対応できない。それに、居場所が明らかになっていれば、誰もが逃亡することはないと思われましたのでね」
「じゃ、私らはわざわざ会いに行って話を聞くしかないわけですね?」
「いや店の関係者だけは、こちらにいますので、後でお話を聞いていただくことはできますよ。それに指紋採取の際、残ってくれた人たちのリストを作っておきましたので、参考にしてください。田中、資料を佐川さんにお渡しをして」
田中は脇に抱えていたA5判の用紙一枚を佐川に渡してよこした。
「住所と名前、それに電話番号。備考欄何か書いていますね」
リストの内、氏名と備考欄に記載内容のみ次に表示しておく。
土谷真治 ボンバー編集部員
小林 和弘 マンガ家アシスタント
大黒 裕也 マンガ家アシスタント
赤城 淳一 マンガ家アシスタント
川村 洋子 川村雄介の妻
大石 仙吉 店のオーナー
石田 正夫 店のウエイター
「記載をされている方々は七人ですね」
「ええ、そうですな」
根本はリストを渡したので、捜査協力を終えたと思ったのか、鑑識係に指示を出していた。係員たちは大きなプラスチックの箱を持ち込んで、それに食べ物を詰め込み出していた。
覆面パトカーにのっていた佐川敏に臨場するように連絡が入った。
「またですか。他に手が空いている奴がいるはずですよね」と言って、運転をしていた相棒の近藤次郎は愚痴をこぼした。
「まあ、俺たちは宮仕えの身だよ。現場に行くしかない」
佐川にそう言われたので、近藤は口をとがらしながら車を飲食店ばかりが立ち並ぶグルメ通りに向かわせた。
さすがに雰囲気を大事にしている場所らしく、やたらに横文字の看板が多く、まるでサンフランシスコの街並みの中にいるように思えてしまう。だが、佐川たちがサンフランシスコに行ったことはない。
やがて、レストラン大石に近づくと、立入り禁止の黄色テープがはられ、交番からきた警官が立っていた。すでに店の前にある駐車場には鑑識専用のボンゴ車がすでに置かれているが、佐川たちがのってきた車をテープの中に入れるわけにもいかない。そこで店のじゃまにならない路肩に車に置き、店の人には頭をさげてお願いをしてから、レストラン大石に向かった。
すぐに警官は二人に敬礼をした。
「ご苦労さまです」
「中にもう入れるかな?」
「鑑識の方からまだ誰も入れるなと言われております」
二人は、道路沿いに置かれた自動販売機の所に行って、そこで缶コーヒーを買い三本も飲み、腹の中がだぶつき出していた。そんな時に店の中から出てきた鑑識係の田中康夫が手を振った。コーヒーの空き缶を備え付けのゴミ箱に投げ入れて二人は田中に近づく。
「もう、いいのかい?」
「ええ、まあ、どうぞ」
田中の後について佐川と近藤はレストラン大石の玄関口に行った。
田中が振り返ったので、二人は胸ポケットから前もって用意してきたビニールカバーを出して靴にかぶせ、手に白い手袋をはめた。
大理石の石段を三段ほどあがって店の中に入る。
食べ物と飲み物の匂いに満ち満ちていて、思わず佐川は鼻をならした。
「すごいご馳走ですね」と言って、近藤は周りを見まわしている。
「係長お連れしました」と田中が言う。
先に店の中に入っていた鑑識係長の根本右近が気難しそう顔をして佐川の方に顔を向けた。田中は他の鑑識係の二名と並んで根本の後ろに立っていた。
「マンガ家川村雄介がシャンパンを飲んで死んでしまった。川村が倒れていたのはこの辺りですよ」
根本はチョークで人型にかかれた枠を指さした。シャンパンやはき出した物で床がまだ濡れていた。
「川村さんの遺体はどうされたんですか?」
「私たちがくる前に救急車で病院に運ばれていましたよ。やはり、病院内ですぐに死亡が確認されたそうです。司法解剖をしなければならないので、いまは大学病院に運んでもらっている。解剖をすれば、どんな毒で殺害をされたのか判ると思いますよ」
「そうですか。シャンパンの中に毒を入れたのは誰ですか?」と佐川が率直に根本に聞いた。
「ウエイターがプレートにシャンパンを入れたグラスを載せて参加者の間をまわっていたらしいのですが、川村の取ったグラスにどうやって毒を入れたのかまだ分かっていない。もし、別の人が毒の入ったグラスを取っていれば、その人が死んでいたと思われます」
「グラスに毒を入れた者は、川村雄介を殺したかったのか、間違えて殺してしまったのか、それとも誰でもいい無差別殺人だったのか、まるで分からないと言うことですね」
「まあ、そう言うことになりますかね。私らがきた時に、この場にいた人たちからは指紋と唾液だけは取らしてもらいましたよ」
「この場にいた人たち? ところでパーティに来ていた人たちはどんな人たちだったのですか?」
「このパーティに呼んではいない人たちがかなり来ていたようですよ。川村雄介のファンですね。ここに来て、色紙にサインをもらっただけで帰っていた人たちがいたらしい。それに川村に書いてもらいたい雑誌の人たちもお忍び来ていたようです」
「その人たちはどうしたんですか?」
「警察がくると分かると、その前にここからいなくなっていた」
「ともかく、この場に残られていた方々からは話を聞かせてもらえるんですね」
「いや、皆さんには帰ってもらいました。鑑識作業のじゃまになりますからね。指紋検出や店の中に落ちている埃や土などの徴取など大掛かりにやらなければなりませんからね。判明しないが残っている指紋なんかも正確にとらなければならない」
佐川がめずらしくむっとした表情をしていた。それをまずいと思った根本は付け足すよう言っていた。
「ここにある食べ物なんかもすべてを運び出して、科捜研で調べてもらうと思っているんです。その前に、佐川さんに現場を見て置いてもらう方がいいと思ったのですよ。それに、残っていてくれた人たちは、すぐにでも仕事をさせてもらわないと困ると言い出しましてね。損害が出た場合、警察で損害を補填してくれるのですか、そんなことまで言われては対応できない。それに、居場所が明らかになっていれば、誰もが逃亡することはないと思われましたのでね」
「じゃ、私らはわざわざ会いに行って話を聞くしかないわけですね?」
「いや店の関係者だけは、こちらにいますので、後でお話を聞いていただくことはできますよ。それに指紋採取の際、残ってくれた人たちのリストを作っておきましたので、参考にしてください。田中、資料を佐川さんにお渡しをして」
田中は脇に抱えていたA5判の用紙一枚を佐川に渡してよこした。
「住所と名前、それに電話番号。備考欄何か書いていますね」
リストの内、氏名と備考欄に記載内容のみ次に表示しておく。
土谷真治 ボンバー編集部員
小林 和弘 マンガ家アシスタント
大黒 裕也 マンガ家アシスタント
赤城 淳一 マンガ家アシスタント
川村 洋子 川村雄介の妻
大石 仙吉 店のオーナー
石田 正夫 店のウエイター
「記載をされている方々は七人ですね」
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