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第三話 宿屋勤め
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宿屋『やすらぎ』に戻ったアンナはすでに夕食時になっているのに朝から何も食べていないことに気づき、食堂でポタージュとライ麦パン、それにジャガイモの塩煮を食べた。だが、アンナが代金の支払いを使用としてバッグを開けて、中に財布がないことに気がついたのだ。どうやら、肩をぶつけてきた男に財布を盗まれたのに違いなかった。
仕方なく、アンナは腹の出たオーナーの前に行った。
「すいません。お金を無くしてしまったみたいなんです」
「じゃ、どうするつもりなんだい?」
「食事代ぶん、皿洗いか、何かして働かせてください」
「それは、いい考えだがね。なんで盗人がいる街へ出かけたんだい?」
「仕事を探して街を歩きまわってきたんです」
「それじゃ、ここで働くきないかい?」
「働かしてくれるんですか?」
「あんたがいいならね?」
「お願いします」
「じゃ、もう客室におくわけにはいかない。そこは出てもらうよ」
「この近くで部屋を貸してくれる所、ありませんか? オーナーに心当たりがなければ、見つけに出かけてきますが」
オーナーは肉のついた顎に手をあてながら、しばらく考えていた。
「屋根裏が空いているから、そこでよければ使ってもいいよ」
「本当ですか。お願いします」
すぐにオーナーはアンナを二階から屋根裏にあがる階段を教えてくれ、屋根裏部屋につれていった。
さっそくアンナはバッグからトロの神像を出して、日の光が入る窓際においた。そして、仕事がみつかったこと、屋根裏部屋に住むことができるようになったことを神に報告をし感謝の祈りをささげたのだった。
次の日の朝から、アンナは宿屋『やすらぎ』で働き出した。
アンナは泊り客の朝食作り、お客が旅立つと部屋の掃除をし、ベッドメイキングを行った。さらに食堂で食事をするためにきた人たちの注文を聞き、オーナーが作った料理をテーブルの上に運こんでいた。アンナは孤児院にいた時に、自分よりも幼い者たちの世話をいろいろしていたことが、ここで役立ったのだ。
宿屋『やすらぎ』に、アンナが勤め出してから半年経っていた。
ある日、野菜を納品してくれる八百屋の主婦が、ぎっくり腰になって動けなくなった。すぐに、アンナは主婦を長椅子に寝かせると、腰に向かって手をかざした。
それは聖女の治療だった。
数十分もアンナが主婦の腰の上に手をかざしていただろうか。やがて、苦痛に満ちた主婦の顔が笑顔に変わっていたのだ。
「アンナ、あなたにこんな力があったとはね。まるで聖女様だ。こんなことをしてもらえるとは、貴族になったようだよ」
「真似事ができるだけですから」
やがて、主婦はアンナに聖女としての力があることを近所の人たちに知らせた。すると、それを聞いた人たちはさらに口伝えで国中にひろめていったのだ。
もちろん、オーナーもアンナが八百屋の主婦を治療したのを見ていた。その上、アンナを頼って来る人たちも見ることになった。
そこで、オーナーは宿屋『やすらぎ』のそばに診療所を作ったのだ。その上、アンナが治療をしている間は、宿屋の仕事をしなくてもいいことにしてくれた。
それは、アンナが治療を本格化させると、宿屋『やすらぎ』のお客が増え出すとオーナーは思ったからだ。
ここに来て泊まる人たちは、傭兵として働くためにはギルドのテストに受からなければならない。だから、ここにくる前に信じられないくらい武術の鍛錬をしてきていた。それは体のどこかに怪我をすることになる。また、傭兵となって戦に行き戻ってきた人も、ふたたび傭兵となることができないほど、体を壊した人たちもいたのだ。
だから、オーナーの読みとおり治療だけが目的の人たちが宿屋『やすらぎ』に来るようになった。
オーナーは多くの収入を得ていたので、アンナが行う治療については、アンナの意見を聞いて代金はとらないことにした。さらに、オーナーは治療のためにのみ泊まれる別館を建て、宿屋『やすらぎ』も四階建てに増設をしていた。これらからの収入は、治療代を越える多額の増収になっていたのだ。
ついにアンナの評判を聞いたガンダ国の王妃エルザが、平民の姿をして診療所の様子を見にやってきた。
診療所でアンナが次から次へと怪我や体調の悪い人たちを治療していく姿を見て、感心をしたエルザは自分の身分をアンナにあかした。
「王妃様、初めてお目にかかります。なにとぞ、この国に住まわせて頂きとう存じます」と言って、アンナは挨拶をした。
「あなたには、ぜひともこの国にいて欲しいわ。あなたのような人がいれば、ギルドとは違って医療を受けたいという目的でこの国を訪れる人たちが増えてくれると思うの。噂で聞いたことがあるけど、あなたの力は聖女の力よね?」
そこでアンナはここに来ることになった経過をエルザに話をした。
「あなたは間違いなく本物の聖女よ」と言って、エルザはうなずいていた。
仕方なく、アンナは腹の出たオーナーの前に行った。
「すいません。お金を無くしてしまったみたいなんです」
「じゃ、どうするつもりなんだい?」
「食事代ぶん、皿洗いか、何かして働かせてください」
「それは、いい考えだがね。なんで盗人がいる街へ出かけたんだい?」
「仕事を探して街を歩きまわってきたんです」
「それじゃ、ここで働くきないかい?」
「働かしてくれるんですか?」
「あんたがいいならね?」
「お願いします」
「じゃ、もう客室におくわけにはいかない。そこは出てもらうよ」
「この近くで部屋を貸してくれる所、ありませんか? オーナーに心当たりがなければ、見つけに出かけてきますが」
オーナーは肉のついた顎に手をあてながら、しばらく考えていた。
「屋根裏が空いているから、そこでよければ使ってもいいよ」
「本当ですか。お願いします」
すぐにオーナーはアンナを二階から屋根裏にあがる階段を教えてくれ、屋根裏部屋につれていった。
さっそくアンナはバッグからトロの神像を出して、日の光が入る窓際においた。そして、仕事がみつかったこと、屋根裏部屋に住むことができるようになったことを神に報告をし感謝の祈りをささげたのだった。
次の日の朝から、アンナは宿屋『やすらぎ』で働き出した。
アンナは泊り客の朝食作り、お客が旅立つと部屋の掃除をし、ベッドメイキングを行った。さらに食堂で食事をするためにきた人たちの注文を聞き、オーナーが作った料理をテーブルの上に運こんでいた。アンナは孤児院にいた時に、自分よりも幼い者たちの世話をいろいろしていたことが、ここで役立ったのだ。
宿屋『やすらぎ』に、アンナが勤め出してから半年経っていた。
ある日、野菜を納品してくれる八百屋の主婦が、ぎっくり腰になって動けなくなった。すぐに、アンナは主婦を長椅子に寝かせると、腰に向かって手をかざした。
それは聖女の治療だった。
数十分もアンナが主婦の腰の上に手をかざしていただろうか。やがて、苦痛に満ちた主婦の顔が笑顔に変わっていたのだ。
「アンナ、あなたにこんな力があったとはね。まるで聖女様だ。こんなことをしてもらえるとは、貴族になったようだよ」
「真似事ができるだけですから」
やがて、主婦はアンナに聖女としての力があることを近所の人たちに知らせた。すると、それを聞いた人たちはさらに口伝えで国中にひろめていったのだ。
もちろん、オーナーもアンナが八百屋の主婦を治療したのを見ていた。その上、アンナを頼って来る人たちも見ることになった。
そこで、オーナーは宿屋『やすらぎ』のそばに診療所を作ったのだ。その上、アンナが治療をしている間は、宿屋の仕事をしなくてもいいことにしてくれた。
それは、アンナが治療を本格化させると、宿屋『やすらぎ』のお客が増え出すとオーナーは思ったからだ。
ここに来て泊まる人たちは、傭兵として働くためにはギルドのテストに受からなければならない。だから、ここにくる前に信じられないくらい武術の鍛錬をしてきていた。それは体のどこかに怪我をすることになる。また、傭兵となって戦に行き戻ってきた人も、ふたたび傭兵となることができないほど、体を壊した人たちもいたのだ。
だから、オーナーの読みとおり治療だけが目的の人たちが宿屋『やすらぎ』に来るようになった。
オーナーは多くの収入を得ていたので、アンナが行う治療については、アンナの意見を聞いて代金はとらないことにした。さらに、オーナーは治療のためにのみ泊まれる別館を建て、宿屋『やすらぎ』も四階建てに増設をしていた。これらからの収入は、治療代を越える多額の増収になっていたのだ。
ついにアンナの評判を聞いたガンダ国の王妃エルザが、平民の姿をして診療所の様子を見にやってきた。
診療所でアンナが次から次へと怪我や体調の悪い人たちを治療していく姿を見て、感心をしたエルザは自分の身分をアンナにあかした。
「王妃様、初めてお目にかかります。なにとぞ、この国に住まわせて頂きとう存じます」と言って、アンナは挨拶をした。
「あなたには、ぜひともこの国にいて欲しいわ。あなたのような人がいれば、ギルドとは違って医療を受けたいという目的でこの国を訪れる人たちが増えてくれると思うの。噂で聞いたことがあるけど、あなたの力は聖女の力よね?」
そこでアンナはここに来ることになった経過をエルザに話をした。
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