聖女の強い力を持ったことをうとまれ、泥棒の汚名をきせられて、国を追放されたのだが、異国で聖女として大活躍をすることができた件

矢野 零時

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第四話 再会

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 その日もアンナが治療台に患者をのせ、治療をしていた。治療室をしきるカーテンが開けられ、エルザが顔をのぞかせた。
「あなたに治療をしてもらいたい者がいるの。いっしょに来てもらえるかしら? ギルドの官舎に彼をおいて来ているのだけど」
「申し訳ございません。ここにいる人たちは、私の治療を待っている者たちです。この人たちをおいて、行くことはできません」
 アンナは、待合室にすわっている人たちを見ながら言っていた。
「やはり、あなたは聖女だわ。それでは、治療をしてもらいたい者を、ここに運ばせることにします。それならば、いいわね」
 そう言ったエルザは、診療所から出て行った。ふたたびアンナは治療に専念し出していた。

 やがて、エルザは傷を負った者をベッドにのせ、屈強な男二人に運ばせてきたのだ。ここに来るためには、荷馬車にベッドごと患者をのせて運んできたのだろう。
「あんたの手が空いたときに、見てくれていいからね」
「はい、わかりました」とエルザに答えたアンナは待合室いる患者をできるだけ早く手当てをし続け、やがて終えさせた。

「王妃、お待たせいたしました」
 アンナは運ばれてきたベッドのところに行って、横たわっている者を見た。
「ライタル、ライタルじゃないの!」
「ライタルは、あんたの知人だったのかい!」と、エルザは目を細めアンナを見つめた。
 目を閉じて横顔を見せているが、その顔は間違いなくライタルだった。
 顎は少し先がとがり大人っぽくなっている。だが、後はすべて昔のままだった。少し張り出した額は知的であることの証だ。頭の髪は汚れているが、輝くような金髪であることを隠せはしない。
 アンナは泣き出していた。
 そして、孤児院にいた頃のことを思い出していた。
 
 ライタルが孤児院にやってきたとき、アンナは八歳だった。
 そのころの孤児院には、アンナを入れて七人の子供たちがいた。ローハイはみんなを礼拝堂に集め、ライタルを紹介してくれた。
 ライタルは気品がある顔立ちをしていた。だが、十二歳でアンナよりも年上なのに幼く見えていた。
「ライタルはインガ国の王子です。しかし、防衛大臣ロズエルに反乱を起こされてしまい、命を狙われる事態になっております。そこで、ライタルは、きみたちと同じ街にいた子供だったことにしてもらう。名前もライタルではなく、ラルとなのってもらい、私たちも彼をラルと呼ぶことにしてください。誰かにライタルの事を聞かれてもインガ国の者だということは話さないでください」と言って、ローハイはアンナたちを見廻した。孤児院の子供たちは誰もが大きくうなずいていた。
 ライタル、いえラルは強張った顔でアンナたちを見廻し「よろしくお願いします」とだけ言っていた。

 その日から、ラルは、他の孤児たちと仲良くなろうとして、いろんな遊びに参加してくれた。
 だが、夜になると、ラルの叫び声を聞くことがあった。隣の寝室にいたアンナはすぐに彼のいる寝室に行った。ベッドの上で上半身を起こしたラルは、恐怖と怒りに震えていた。アンナは思わずラルに近づくと肩を強く抱いていた。
 彼は何も話そうとしないのだが、夢の中で父と母が殺されていたに違いなかった。そして、それは彼が何度も見る悪夢だったのだ。
 アンナの父母がどうなっているのか、まったく分からない。だが、目の前で父母が殺されたことを知ってしまうよりは幸せだと思ってしまう。
 そんな夜があるせいか、昼間のラルは自分から進んでローハイを手伝い、井戸から水を汲み薪をわり小麦などの入った袋を運んでいた。
 
 孤児院にライタルが慣れだした頃だった。
 突然、アンナは見たこともない男にライタルがどこから来たのかと、聞かれたのだ。前もって教えられたとおり、街の孤児でローハイが連れてきたと言っておいた。ライタルのことを聞いた男が立ち去った後すぐに、そのことをローハイに知らせるとローハイはアンナを褒めてくれた。
 次の日、ローハイは人を馬で走らせて、どこかに知らせていた。

 やがて、ライタルを迎えに来た二人の男たちと一緒に孤児院からライタルは出て行ったのだ。
 ライタルを迎えにきた二人が、いまライタルをベッドで診療所に運んできた男たちであることに、アンナは気がついていた。二人は歳をとって、顔にしわが増えていた。
 孤児院を出て行ったときのライタルは「もう,会えないかもしれない」と悲しそうな顔をしていた。思わずアンナは「そんなことないわ。必ず会えるわ。いえ、私のほうから会いに行くわよ」と笑ってあげたのだった。
 ライタルが孤児院から逃げ出したすぐ後に、鎧で身を固めた五人の兵士たちがやってきた。
 彼らと対応をしたのはローハイだった。
 剣を胸につきつけられても、毅然として「突然、見知らぬ男たちに連れて行かれたのでな。どこへ行ったかなど、私にもわかりはせんよ」と言い放っていた。
 
 だが、ローハイはその後もライタルを心配して、この場にいる二人と連絡をとりあっていたのだ。もちろん、そのことは孤児院の誰にも知らせずにいた。知っていれば、インガ国の反乱兵士たちに捕まった時に、答えずにはいらなくなってしまうからだ。
 だが、ローハイがライタルたちと連絡をとっていることがばれてしまった。それは、ライタルの従者が孤児院を訪ねた時に、その姿を反乱兵士に見られてしまったからだ。
 ふたたびインガ国の反乱兵士たちが孤児院にやってきた。当然、反乱兵士はローハイを殴りつけ暴力をつかってライタルのいる場所を聞き出そうとした。だがローハイはライタルがどこにいるかなど知らないと言い続けた。いくら聞いても答えないローハイに怒りを覚えた反乱兵士たちはローハイの首をしめ殺してしまったのだ。
 すでに聖女となって働き出していたアンナが、星が見えるほど遅くに帰ってきて孤児院の前庭に倒れているローハイを見つけた。だが、そのときにはローハイはもう息をしていなかった。
 
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