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第十二話 アンナ殺害失敗報告
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いつまでたっても、アンナが亡くなったという話は入ってこない。それどころか、アンナが中心になって開かれている診療所のいい評判ばかりが入ってくる。
それにモリスが殺されたという話も聞こえてこない。いったいどうなっているのか?
しびれをきらしたガーナルは、父であるヒックス公爵に使えている直属の下男たち五人に命じて、ガンダ国に様子を見に行かせた。
ガンダ国に入った下男たちは、商人姿に身をやつし、他の人に気づかれないように診療所に行ってみた。治療を希望するたくさんの人たちがそこにやって来ていた。待合室に入りきれなかった人たちは、外に長椅子を並べてそこにすわっていた。
待合室に空きができると、そんな人たちを診療所内に案内している老人を見て、下男たちは思わず、その老人に近づいていった。その老人の眉は、ガーナルから聞いていたように太い入れ墨で書かれていたからだ。
「モリス様、モリス様ですよね。いったい何をしているのですか?」
モリスは声をかけてきた男たちがヒックス公爵の下男であることを知ると驚きの声をあげた。
「あんたら、何故、ここにいるのかね?」
「モリス様が戻ってこられないので、ガーナル様から様子を見て来いと言われたのですよ」
「もう、戻ることはできない。だから、ここにいるんだよ」
「アンナを殺害する話はどうなったのですか?」と下男の一人は、周りに聞かれないように声を落としてモリスに聞いていた。モリスは顔をさげた。下男たちと目を合わせないようにしたのだ。
「もう、そんなことができる立場ではない」と、モリスは目を閉じていた。
「モリス様は殺されたのではないかとガーナル様は心配されておいでですよ」
「いや、そうなのだ。私は一度殺され死んだ身なのだよ。それなのに、アンナ様は私を生きかえらせてくれた。だから、いまここにいるのはもう前の私ではない」
「モリス様が殺されていたり、捕まっていたときは、私たちがアンナを殺してくるようにガーナル様に言われてきたんですよ」
「やはりな。もし、あなたがたがアンナ様を殺そうとするならば、私はあなたがたを殺さねばならない」と言って、モリスは鋭い殺意を込めた視線を下男たちにむけた。
「困りましたな。困りましたぞ」
モリスが腰の短剣に手をかけたのを見て、下男のまとめ役が声をあげた。
「それならば、ここで私と同じに暮すのはどうかな。あんたらが、望むなら、エルザ様にお願いをする仲立ちをしてもいい」
下男のまとめ役は腕を組み、しばらく考えていたが、やがて「こういう話にしておきませんか。モリス様は殺されていたので、私たちでアンナを襲ったが、みんなが殺されてしまった。私だけは生き残ったので、ガーナル様に報告をするためにフタ―ク国に戻ってきました。どうです」と言っていた。
「しかし、それでは、あなたが、ガーデル様に責任を取らされて、殺されるかもしれませんよ」と、下男の一人が言った。
「あなたがたもガーナル様の性格はご存じでしょう。誰かが報告をしなければ、別の人をまた調べに送ってくるに決まっています。ですから、誰かが報告に戻る必要がありますよ」
誰もが、下男のまとめ役の意見に反対する者はいなかった。
その通りにすすめることになり、モリスは残ってくれた下男たちのガンダ国への受け入れをエルダに頼みに行き、すぐに了承を得ることができたのだった。
フタ―ク国に戻った下男のまとめ役は、リカード王子を側にしたガーナルを前に、モリスは殺されていて、下男たちがアンナを襲い、そのときにギルドたちに殺されたという話をした。
「何という無能な。リカード様が指示をしたことを何もできていなかったとは」
ガーナルの顔はみるみる赤く成っていく。
「これでは、手のほどこしようがなくなったようだね」
「何を言っているんです。王子の命令が阻止されたのですよ。阻止したギルドの者たちには死をもって償ってもらいましょう!」
「ガーナル、もう諦めることは考えないのかい? ギルドを敵にすることはガンダ国を敵にして戦うことになるよ。それはまずい」
「そうでしょうか。行くえ不明のモリスを探す目的であれば、堂々とガンダ国に捜査に入れますわ。そこでモリスが殺害されていたならば、誰であろうとフタ―ク国の法により殺害をした者を正式に逮捕できますわ」
ガーナルの目はぎらぎらと光っている。
「これを契機に、ギルドや診療所をこちらの物にしてしまえばいいのではないですか?」
「きみは強引だね。それをすればガンダ国と全面戦争になってしまうぞ。それをするには父である王にも話をしておかなければならない」
「簡単には、いかないってわけですね。ならば、できる機会をまず作ることが必要ですわ」
そう言ったガーナルは顔をゆがめて笑っていた。
「それでは、今度は誰をいかせるかですわ? そうだ。王子様の命を受けて、いま私の警護をしてくれている者たちの中から七名の者を捜査隊に出すことはいかかですか?」
ガーナルに押し切られ、リカード王子は今度もしかたなさそうに、そばにいた警護隊の者たち七名にモリス捜査をすることを命じた。
次の日の朝。選ばれた彼らはガンダ国にむかっていた。
それにモリスが殺されたという話も聞こえてこない。いったいどうなっているのか?
しびれをきらしたガーナルは、父であるヒックス公爵に使えている直属の下男たち五人に命じて、ガンダ国に様子を見に行かせた。
ガンダ国に入った下男たちは、商人姿に身をやつし、他の人に気づかれないように診療所に行ってみた。治療を希望するたくさんの人たちがそこにやって来ていた。待合室に入りきれなかった人たちは、外に長椅子を並べてそこにすわっていた。
待合室に空きができると、そんな人たちを診療所内に案内している老人を見て、下男たちは思わず、その老人に近づいていった。その老人の眉は、ガーナルから聞いていたように太い入れ墨で書かれていたからだ。
「モリス様、モリス様ですよね。いったい何をしているのですか?」
モリスは声をかけてきた男たちがヒックス公爵の下男であることを知ると驚きの声をあげた。
「あんたら、何故、ここにいるのかね?」
「モリス様が戻ってこられないので、ガーナル様から様子を見て来いと言われたのですよ」
「もう、戻ることはできない。だから、ここにいるんだよ」
「アンナを殺害する話はどうなったのですか?」と下男の一人は、周りに聞かれないように声を落としてモリスに聞いていた。モリスは顔をさげた。下男たちと目を合わせないようにしたのだ。
「もう、そんなことができる立場ではない」と、モリスは目を閉じていた。
「モリス様は殺されたのではないかとガーナル様は心配されておいでですよ」
「いや、そうなのだ。私は一度殺され死んだ身なのだよ。それなのに、アンナ様は私を生きかえらせてくれた。だから、いまここにいるのはもう前の私ではない」
「モリス様が殺されていたり、捕まっていたときは、私たちがアンナを殺してくるようにガーナル様に言われてきたんですよ」
「やはりな。もし、あなたがたがアンナ様を殺そうとするならば、私はあなたがたを殺さねばならない」と言って、モリスは鋭い殺意を込めた視線を下男たちにむけた。
「困りましたな。困りましたぞ」
モリスが腰の短剣に手をかけたのを見て、下男のまとめ役が声をあげた。
「それならば、ここで私と同じに暮すのはどうかな。あんたらが、望むなら、エルザ様にお願いをする仲立ちをしてもいい」
下男のまとめ役は腕を組み、しばらく考えていたが、やがて「こういう話にしておきませんか。モリス様は殺されていたので、私たちでアンナを襲ったが、みんなが殺されてしまった。私だけは生き残ったので、ガーナル様に報告をするためにフタ―ク国に戻ってきました。どうです」と言っていた。
「しかし、それでは、あなたが、ガーデル様に責任を取らされて、殺されるかもしれませんよ」と、下男の一人が言った。
「あなたがたもガーナル様の性格はご存じでしょう。誰かが報告をしなければ、別の人をまた調べに送ってくるに決まっています。ですから、誰かが報告に戻る必要がありますよ」
誰もが、下男のまとめ役の意見に反対する者はいなかった。
その通りにすすめることになり、モリスは残ってくれた下男たちのガンダ国への受け入れをエルダに頼みに行き、すぐに了承を得ることができたのだった。
フタ―ク国に戻った下男のまとめ役は、リカード王子を側にしたガーナルを前に、モリスは殺されていて、下男たちがアンナを襲い、そのときにギルドたちに殺されたという話をした。
「何という無能な。リカード様が指示をしたことを何もできていなかったとは」
ガーナルの顔はみるみる赤く成っていく。
「これでは、手のほどこしようがなくなったようだね」
「何を言っているんです。王子の命令が阻止されたのですよ。阻止したギルドの者たちには死をもって償ってもらいましょう!」
「ガーナル、もう諦めることは考えないのかい? ギルドを敵にすることはガンダ国を敵にして戦うことになるよ。それはまずい」
「そうでしょうか。行くえ不明のモリスを探す目的であれば、堂々とガンダ国に捜査に入れますわ。そこでモリスが殺害されていたならば、誰であろうとフタ―ク国の法により殺害をした者を正式に逮捕できますわ」
ガーナルの目はぎらぎらと光っている。
「これを契機に、ギルドや診療所をこちらの物にしてしまえばいいのではないですか?」
「きみは強引だね。それをすればガンダ国と全面戦争になってしまうぞ。それをするには父である王にも話をしておかなければならない」
「簡単には、いかないってわけですね。ならば、できる機会をまず作ることが必要ですわ」
そう言ったガーナルは顔をゆがめて笑っていた。
「それでは、今度は誰をいかせるかですわ? そうだ。王子様の命を受けて、いま私の警護をしてくれている者たちの中から七名の者を捜査隊に出すことはいかかですか?」
ガーナルに押し切られ、リカード王子は今度もしかたなさそうに、そばにいた警護隊の者たち七名にモリス捜査をすることを命じた。
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